第20話
『僕、調べてみます!』
『オイオイ、いきなりやる気になったのかぁ? 靖田君、キミ、情緒不安定だな』
『岩屋サン、そんな言い方は無いでしょう、
でも日夏、俺も あのサイトは見たけど、ただ個人的な考えが書かれてるだけで、
書いた人については一切 触れられて無かったと思う』
『はい。でも、ホームページを作るならアカウントは必要ですよね?
そこから個人情報を覗けば、何処の誰かは直ぐに分かりますよ?』
『個人情報って……そんな事、出来るのか?』
『はい。僕、コンピューターオタクだから。そうゆうのは得意なんです』
『ハッカー!?』
『そうゆう言い方もありますね』
人には意外な特技があるものだ。
日夏が内向的でインドア派だろう事は接してみれば分かる事だが、それが高じてハッカーの技能を身に付けるとは、開いた口が塞がらない。
まるでピアノの鍵盤を連弾する様にスムーズに早く、日夏の指はキーボードを叩く。
そして、最後にエンターキーを押すと画面は切り替わり、製作者の情報が表示される。
『はい、クリア!』
『す、すご……』
これには岩屋も立ち上がり、興味深げに画面を覗き込む。
『
『最後のアクセスは
異変が起きて暫く後ですね。きっと、そこに通う生徒サンか先生か……』
『そ、そんな事まで分かるのか!?』
統也は頭を抱えて座り込む。
このネット社会、日夏の様なハッカーの手にかかれば全ての情報が丸裸にされる事を知る。
『葉円成都大って、Y市にある大学ですよね?』
『そういやぁ、Y市にも自衛隊があったか……
うーん、ついでなら行ってみる価値はあるかも知れないなぁ、どうする? 水原君、靖田君』
『行きたいです! 僕、行きたいです! ここに行けば、由月サンに会えるかも!
このおかしな現象を解決してくれるかも知れません!』
日夏は大川由月と言う人物に大いなる期待を寄せている。
ホームページに書かれた持論は飛躍した発想だとは思うが、これからの事は何も決まってない。
小さな望みでも無ければ進めないから、日夏の熱意に岩屋は頷く。
『よし。だったら明日、朝一で出よう』
『はい!』
『その代わり!』
ここで岩屋は口調を改めて言うのだ。
『車を運転するのは俺だ。その車に乗る以上、お前達の命を俺が預かる事になる。
だから、俺の許可無く勝手に動くんじゃねぇ。特に水原君だ!
分かったな!? 絶対にだぞ! でなきゃ車には乗せてやらねぇからな!』
絶対命令に絶対服従。
頼みの綱である岩屋の機嫌を損なわせる訳にはいかない。統也と日夏は渋々と頷く。
こうして現在に至り、統也は早速、岩屋に手痛い1発をくらった訳だ。
(田島にこんな事をするなら、保険だって言うなら、先に一言くらい言って欲しかった。
やっぱり、自分の知らない所で色んな事が決められてしまうのは不安になる、)
車中の空気が重い。日夏は浮かない統也の顔を覗き込む。
「ぁ、あの、統也サン、F地区の駐屯地で着信音が鳴ってましたよね?
あれは誰からだったんですか?」
「!」
ハッと息を飲む。すっかり忘れていた様だ。
(そうだ、そうだった!! アレは、父サンからの着信だった!!)
そんな大事な事を忘れてしまえる程、統也の現実は切迫している。
慌ててポケットから携帯電話を取り出し、着信履歴を確認。
「やっぱり、父サンだ……」
統也の呟きに、岩屋はフロントミラーに目を向ける。
「良いぞ。かけてみろよ」
「は、はい!」
先程 引っ叩いたのはやりすぎたと、岩屋も反省している。
統也は期待に頬を赤らめ、リダイアルを押す。
(父サン、父サン、生きていてくれたんだ!!)
Turururu ――、
応答されるなり、統也は受話器に食いつく勢いで声を上げる。
「父サン!!」
……
……
反応は得られない。
「と、父サン……?」
「……あのぉ、もしもし?」
やっと返答されたと思えば、受話器から聞こえて来るのは女の声。
父親の携帯電話の先に覚えのない女がいると知るなり、統也は声を詰まらせる。
(だ、誰だ!?)
一旦、携帯電話を耳から放し、今一度発信先の番号を確認。
間違い無い。父親の番号だ。
「すいません、あのぉ、もしもし?」
「は、はい! もしもし!?
あの、そのスマホ、俺の父親の物だと思うんですが……失礼ですが、どちら様でしょうか?」
最善の注意をはらって統也が問えば、女は『ああ』と気怠く頷く。
「これ、一昨日の昼間に拾って、私のスマホ壊れちゃったんで、代わりに使わせて貰ってて。
短縮番号で そっちにかかったもんだから……ついでに外の情報、聞ければって」
「ぁ……そ、そうだったんですか……あの、拾ったって、持ち主は?」
「そこまではぁ、ちょっとぉ……」
「何処に落ちてたんですかっ?」
「会社に」
「会社……水原工業ですか!?」
「そうですけど?」
「俺の父は水原達夫と言います! アナタはそこの従業員ですね!?」
「あぁ……これ、社長のスマホだったんだぁ」
「アナタ、まだ会社に!?」
「ええ。まぁ、」
所在を確認すると、統也は岩屋を窺う。
その目は会社に立ち寄って貰えないだろうか、と嘆願するものだがら、岩屋は渋々ながら頷く。
身内に関する事なら一蹴りする訳にもいかない。
「良かった! それなら今から迎えに行きます!」
「いえ。別にイイです」
「そうですか! じゃぁ、……え?」
「だから、別にイイです」
「……ぇ?」
(断られた?)
暫く呆ける統也だが、物は考えようだ。電話先の女は遠慮しているのかも知れない。
もっと前向きな思考で言えば、会社は避難場として確立され、多くの生存者が集っているのかも知れない。
「あの……えっと、そちらは安全なんですか?」
「安全? ハァ……言ってる意味が分からないんで、電話切ってもイイですか?
充電、勿体ないんで」
「ま、待って! 待ってください! それは父の持ち物です!
父が何処にいるのかくらい教えてください!」
「ハァ……分かるわけないじゃん。嫌んなるなぁ、もぉ……
会社はメチャクチャで、同僚は窓から飛び降りたり、首吊って死んだり、
寝たっきり起きない人もいる。
必死になって最上階の社長室まで逃げて来て、それっきり私は1人。
他の人の事なんか知らない」
「でも、父は!?」
「知らないって言ってるでしょぉ? あぁ、ホント、もぉ嫌んなる……
家族とか友達に一通り電話して連絡つかなかったら、私も死のうと思ってるんで、
もう切りたいんですけど?」
「何でそうなるんですか!?」
まさかの自殺宣言に統也が狼狽えれば、女は再三と溜息を聞かせる。
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