第7話 事象と現実。
「こんなに、」
(ネットニュースじゃ、
今朝九時の時点で各省庁よりウイルス・テロ・災害の警戒態勢を実施、
安全確認が出来るまで全国民に屋内避難する事を呼びかけている、って!?
そんな警報が出てた何て知らなかったぞ!)
多くが通勤・通学の時刻。
場所によっては避難勧告も耳に入ったか知れないが、統也の通学路にはタイムリーなニュースを確認する状況は整っていなかった。
否、Jアラートが鳴ろうと、日常を優先できる程に日本は平和な国だ。
こんなタイトルに気づいても、我れ関せずな者も多かったに違いない。
その分、ネット掲示板には多くのレスポンスが寄せられ、盛り上がっていた様だ。
[屋内避難ニュース上がってるけど何? なんつ~ジョーク?]
[引き篭もりのお前ら勝利]
[どーせ大袈裟告知。ビビりすぎジャパン]
[誤報ダロ。ニュースにも全く相手にされてナイし]
[政府警告ヨワ]
[ネタ薄。もぉちょっと具体的じゃなきゃ相手にしようがない]
[つか、ウイルスなん? テロなん? 災害なん? どれよ?]
[片っ端から警戒ワラ]
[情報間に合ってナイんじゃない? それくらい慌ててるとか?]
[そんで、ゥプしちゃうとか、政府どんだけドンクサよって]
[そんなコトより目の前でゾンビもどき歩ってる。ワラ]
[ハロウィンには早いんぢゃね? まだ9月]
[コッチなんか近所で刃物もったジジィが暴れてるって大騒ぎ]
[画像はよ]
[ウチなんか母チャン起こしても全然起きない。お陰で学校遅刻]
[オツ]
[うちのも起きない。何か変]
[ウチも]
[うそ? ウチも]
[オィオィおまいら救急車よべ]
[救急車、電話でない。ザケンナ]
[どこ地区? 近場のヤツ、呼んでやれ]
[コッチも出ない]
[ムカついたからケーサツ呼び出してやろーって、デンワ出ないし]
[ありえね~~朝っぱらから家の前で殴り合いの大喧嘩してる~~]
[消防も出ねぇ。イタ電してやったのに]
[人が人くってる!]
[オツ。病院いけ]
[人喰ってるって!]
[信じんなアホ]
[ホントだ!]
[ホントだグロヤバイ絶対ヤバイ警官やられてる]
[子供だって容赦ないみたいだぞ、コレ]
[ヤバイ、眠い]
[勝手に寝れ]
[ダメだ! 寝るのヤバイって! 他の板に書いてあった!]
初めは呑気なレスポンスから、徐々に動揺する様が窺える事に、統也は鳥肌を立てる。
(眠るのはヤバイ……
寝落ちてしまえば、用務員サンや、ここの警備員みたいに、
簡単には目覚められなくなるから……)
今の所、眠気は無い。
そもそも こんな緊迫した中で眠れる筈も無いだろう。
そう思い至るなり、統也は息を飲む。
「た、田島?」
(田島はここ暫く『眠い』と……ずっと、そんな事を言っていた。
学校から逃げる時だって、さっきだって……)
「田島、田島、起きろっ、起きろって!」
「う、ぅぅ……、、……」
一旦は目覚めそうになるも、田島は再び眠りに着いてしまう。
(嘘だろ、嘘だろ嘘だろ嘘だろ!?)
田島まで眠ってしまえば、本当に1人きりになってしまう。
その恐怖に狼狽え、縋る思いで携帯電話を握り、必死に検索。
(ど、どうすれば良いんだ!? 寝た子も起こす方法って無いのか!?
寝落ちたら絶対に起きれないのか!?)
【眠るのはヤバイ】と言う、簡単な文言ばかりが目につく。
具体的な事が知りたいと思えど、同じ質問を投げかけるタイトルに適切な回答は見当たらない。
(何だよ、しっかりしろ、ネット住人! 俺はこれからどうしたら良いんだ!?
どうやって田島を起こせば良いんだ!? 何処にどうやって避難すれば良いんだ!?
どっかにレスキュー情報、出てないのかよ!?)
ネットの世界も統也と同じ迷える子羊ばかり。
その中で、唯一シンプルなレスポンスを見つける。
「何だ、コレ……」
【生き抜きたければ頭を使え。http:///www.ohkawa-labo_1xxxx……】
恐怖に馴れ合うでも無ければ、泣き言を綴るでも無い。
強い信念を感じるメッセージに目を奪われる。
(このアドレスは……ここに飛べって事か?)
この先に記されているのは、救いか絶望か。
否、どちらを問えど、藁にも縋りたい統也に迷いは無い。
指先はリンク先のアドレスをクリック。
カタン……
「!?」
携帯電話の画面がリンク先に移り変わったと同時、外からの物音。
統也は肩を震わせる。
(ドアに……何かぶつかった!? 外に誰かいるのか!?)
警備室に逃げ込んで揃々3時間が経過しようとしているが、2人以外に音を立てる者はいない筈だ。統也は静かに腰を上げ、監視モニターに目を向ける。
(警備員が起きた? ――いや、違う)
警備室前に放置した儘の警備員達が目覚めたと言うなら肩を撫で下ろす所だが、モニターに映し出される映像は、そんな感動的な物では無い。
(いつの間に……どうしてアイツらが、何処から入って来たんだ!?)
言葉にするもおぞましい存在。
それでも、統也の目は警備室前を映すモニターを凝視する。
ダラリダラリ……ユルリユルリ……生気の無い足取りで壁に体を擦りつけながら歩く人影。
その数3体。倒れた警備員を見つけると、次々に その体に覆い被さる。
「ぁ……」
モニターで見ている所為か、現実味が無い。無声映画の様だ。
それでも、壁1枚隔てた先で何が起きているのか、
既に1度、これと同じ光景を目にしている統也に想像する手間は無い。
(食ってる……堀内と同じ……アイツら、人を食ってる……)
恐怖が心頭に発しながらも、統也は全てのモニターに目を向ける。
(そうか、入って来たんじゃない……俺達が気づかなかっただけ……)
白黒の映像。
(映像が荒くて分からなかった……
全員が寝落ちたんじゃ無く、既に死んでいた人もいて、
そいつらが目覚めて、目を離した隙に……)
他のモニターを見れば、いつの間にやら喰い散らかされた利用者が、無残な躯となっている。
蘇った死者がどんな意識で人を襲うのか知れないが、【喰らう】に対しての執着や集中力は異常だ。形振り構わぬ食いっぷりは、まさに獣。
そして、一頻り貪れば、3体の死者は再び施設内をウロウロと徘徊しだす。
(それから、きっと、死者にも個体差があって、)
腸を穿り返されたばかりの警備員が、ピクピクと動き出す。
(死んで直ぐ蘇えるヤツもいる――)
警備員は立ち上がると、バランスが悪そうにヨタヨタと歩き出す。
きっと他の死者達と同様、獲物を探し始めたのだろう。
(寝落ちた人はアイツらの格好の餌食……
抵抗の余地無く喰い殺され、そして次には違う存在となって蘇える。
そうやって最悪の連鎖が出来上がるんだ……
時間が経てば経つ程、俺達はアイツらに囲まれる……)
1つ、現実を把握。
平衡感覚を無くす程の衝撃に、ガクン! と膝の力が抜ける。
何せ、ここに来る道すがらにも寝倒れた人達を何人も見て来た。
それが揃ってゾンビ化しているとなれば、この施設は四面楚歌と言っても良い。
助けを待つ所の始末では無い。
(か、考えろ、俺! どうすれば良いのかを!!)
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