第七幕 悪夢襲来の前兆
「ロゼリッタ様、付きましたぜ」
ウィスターがそう言って親指で指した先には五階建ての大きな酒場宿。
煌々と焚かれた灯りは、蒸気熱による気体放電を利用した
とにかく、ロンデンブルクという都市はどこもかしこも蒸気機関にあふれていた。それこそが、まさにここが『
「なんていうか、変に気取ってやがるな。この
「気に入らねんですかい?」
「ハッ、アマタニアに比べたらマシな方さ。でも気位が高いのかねぇ、あたいには妙にアマタニアを意識してるように見えるんだよ」
「どの辺が?」
「全体的に蒸気にこだわっているだろ? アマタニアの科学の応用とは言え、蒸気機関という発想自体はロンデンブルク独自のモンだからね」
「なるほど」と、ロゼリッタの解説に嘆息交じりで応えるウィスター。
「そろそろ中に入りませんか?」とここで、黒髪の少年が口を開いた。
「あ、ごめんよゼノ君。ほらウィスター、ぼさっとしてないでとっとと中に入るんだよ!」
「へいへい」と慣れたように生返事する蝶ネクタイ。
一行はボンヤリと光る灯りの下を歩き始めた。
その後ろをじっと眺める影がいることにも気付かずに。
その夜、街は穏やかな静寂に包まれていた。
時計の針が零時の位置に合わさると同時に、規則正しく都市を染めていた色が消えた。
まっさらな闇だけを後に残して。
「例のブツはこの宿だったな?」
「はい、間違いありません。情報通り、黒いフードに身を包んだ黒髪の少年を連れた、蒼いニームのジャケットに蝶ネクタイをした背の高い男と、真っ赤な炎のような長髪の幼い少女の二人組です!」
その報告を受けて、男がにんまりと笑った。頬に縫合痕のある厳つい顔で。
「よし、じゃあ作戦通り男を殺してガキ二人を拉致しろ。娘の方は、教育してから奴隷商にでも売り飛ばすとして、例の坊主は解ってるな?」
念を押すように、縫合痕の男は取り巻く男達に促した。
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