第六幕 蒸気公爵の馬車
ここから更に北へは
「知ってるかい? 蒸気機関ってのは、このロンデンブルクで生まれたんだぜ」
石畳の上を歩きながら、ロゼリッタが突然解説を始めた。
「へえ、アマタニアじゃねえんですか」
流石のウィスターも少女の博識さには感心する。
「そう思うだろ。実は、この話にはちょっとした裏があるんだよ」
「どのようなお話ですか?」と黒髪の少年も興味を示す。
「その前に」と人差し指を立ててから、紅蓮の髪の幼女幹部が上機嫌に語り始めた。
「まず蒸気機関を発明したのはロンデンブルク十公爵の一人、サマライズ公ジェマス・ネオワット――別名『蒸気公』と呼ばれる人物で、彼は十代の頃にアマタニアへ留学していたそうだ。そこで得た知識を基に『気熱動力理論』という熱の飽和縮退を利用して物を動かす仕組みを考案し、財産を
「じゃあ、これからその
「便がまだあればな」
「もし無かった場合は?」
「そん時は、普通の馬車か宿泊のどちらかしかないだろう」
「馬車は勘弁して下さい」
そんなことをしたら、ダインバーグまでにまた半日はかかる。
「ま、あたいもそんな面倒臭い事は勘弁だかんな。それに……」
ここでロゼリッタは、黒髪少年の方を見る。そして、
「ゼノ君を運ぶのに馬車では危険過ぎるからな」
ニッと笑みを浮かべながら、こう続けた。
「陽も沈み始めて来た事たし、今日の所は大人しく宿でも探すとするか」
朧気に瞬く月を背に、佇む影は何を思うか。
同じ色に輝く
「
一言つぶやくと、漆黒の闇をまとったそれは小さく笑みを浮かべていた。
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