第四幕 学術都市の買物


「おいウィスター、これはなんだ!」

 全身から炎を噴き上げてロゼリッタが地団太を踏む。

 その身にまとう幼女単衣ロリータのスカートをたくし上げながら。

 大陸西方と中央の玄関口である都市ティタイナで磁気列車マグネレーラーに乗ってわずか十分、中央でもど真ん中に位置する『学術の都』アマタニアに到着するや、一行はその足でまず仕立屋に向かった。

 それからしばらく空港付近のカフェで寛いでいると、

「お待たせしました」とウィスターが衣服の入った紙袋を持ってやって来た。

「ウィスター君、ご苦労だったな」

「いえ、元々俺が言い出したことですから」

「それじゃ早速、段取り通り空港に行って着替えるとするか」

 ロゼリッタのことばに頷く二人。

 かくして、彼らは近くの停車場で電気自動車オートモービルを拾うと、そのまま空港へと向かうのだった。そして――



「遅っせえな……」

 ウィスターが煙草をふかせながら化粧室の前で待つ事十五分、真紅の幼女単衣ロリータを着たロゼリッタが不機嫌な様子で戻って来た。

 慌てて灰皿に煙草を突っ込む彼へ彼女は開口一番、

「おいウィスター、これはなんだ!」と地団太踏みながら怒鳴り散らす。

「いや、思った以上に良く似合っておいでで」

「お前、あたいのこと舐めてるだろ?」

「め、滅相もない……仮にも幹部様で在らせられるお方を舐めるなど」

「じゃかあしいわ! お前がわざわざ普段使わない言葉遣いを選んで言うのは、大抵おちょくってる時と相場が決まってるんだよ!」

「それ完全に偏見じゃないっすかぁ」

「フン、日ごろの行いがモノを言うんだよ。ったく、仕立屋まで足を運んで何か寸法を測ってたかと思ったら、これが狙いか!」

「狙いとは?」

「すっ呆けんじゃないよ、あたいにこんなフリフリの幼女単衣ロリータなんか着せて楽しんでんじゃねぇか!」

「楽しそうですね」

「うおっ!」と突然後ろから割って入った声に驚く二人。

「僕も混ぜていただけますか?」

 振り向けば、そこには灰色の中折帽子に同系色の背広と短パン。そして白い襟シャツに真っ赤なネクタイ姿の少年が涼しく笑みを浮かべていた。

「そう言えば、アンタの名前聞いてなかったね。ちなみに、あたいはロゼリッタ。でもって、そこにいるノッポの蝶ネクタイ野郎がウィスターだ」

 言って彼女は手を差し伸べた。

「僕のことは、ゼノと呼んでください」

 黒髪の少年はそう名乗ると、ロゼリッタの左手を握り返す。

「右手じゃなくて悪いなゼノ君」

「いえ、互いに素性の知らない者同士なら当前のことですから」

「話が早くて助かるぜ。そこで突っ立ってるスカチンと違って理解力もありそうだしな」

「へいへい悪うございやしたね、理解力無くて」

 ロゼリッタの軽口に少し不機嫌な口調で答えるウィスター。

「いや、中々良い発想をお持ちだと思いますよ、ウィスターさんは。僕もこれだけシッカリした方達にご同行いただけるなら、安心してダインバーグまで行けますよ」

「そういえば、坊主はダインバーグに何しにいくんだ?」

「ウィスター!」と、そこでロゼリッタが嗜める。

「あたいらは、あくまでゼノ君をダインバーグまで届けるのが仕事だ。余計な詮索はすんじゃないよ」

「解ってますよ。ただ、ちょっと訊いてみただけですって」

「別に構いませんよ。僕が目指すのは……」

 背広の襟を正してから、彼はこう答えた。

「ダインバーグの孤児院です」

「孤児院だと?」とウィスターが眉をひそめると、

「はい」と笑顔で答えるゼノ。

「孤児院ってことは、坊主はもしかして……」

 ウィスターが何かを言いかけたその時、

「ウィスター! もう良いだろ?」

 ロゼリッタの叱責が飛んだ。

 何か思う所でもあるのか、彼女の顔はどこか悲しげに見えた。そして――

「大丈夫だ。あたいらが必ずアンタをダインバーグまで無事に届けてやるよ。必ずな……」

 言いながら、彼女は少年を抱きしめていた。



 そして一隻の飛空浮舟エーラシップがアマタニアを飛び立った。

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