第三幕 飛空浮舟の密航


 ダインバーグは大陸最西端の都市ロンデンブルクより北へ馬車で一日半かかる。

 それまでの間は陸路で行くと列車と馬車を併用して半月はかかる距離だ。

 したがって、ロゼリッタ達は別のルートを模索していた。

「水路ならどうです?」

「大河を下った後どうすんだい? 言っとくけど、あたい船旅は嫌だかんね」

「ですがそうなると、あとは……あっちのルートだけですぜ?」

 そう言ってウィスターが人差し指を真上にさす。

「ま、そういう事だな」と腕組みしながら嘆息混じりに頷くロゼリッタ。

「となると、一旦アマタニアに戻るルートになりますぜ」

「なんでだ、本部に連絡して迎えに来てもらえば良いだろ?」

「来てくれますかね?」

 ウィスターがそうぼやくのには理由があった。

 大陸中央に位置する学術の都アマタニアには飛空浮舟エーラシップという空を飛ぶ乗り物が存在する。

 だが、いかに科学が発達したと言えど、その存在を知っているのは中央の人間くらいの物で、世間では未だ空を飛ぶなど夢物語でしかないと思われいた。

 それだけ希少度は高く、サリーミッションのような巨大組織でも所有しているのは一台のみ。上手い具合に空いていれば良いが、そうでなければ拾ってくれる保証も無い。

「素直にアマタニアの定期便を利用した方が手っ取り早い気がしますがね」

「それって、表の人間に紛れろってことだろ?」

 そう言ってから、彼女は倉庫の壁に寄りかかる少年の方に視線を移す。

 それに気がつくと、彼は微笑みながら手を振った。

「ま、そう言うことですね。ですが、考えようによっては好都合かもしれませんぜ?」

「なんでだい?」

「昔からよく言うでしょう、『木を隠すなら森の中』ってね」

 そう言って不敵に笑うウィスター。

 そんな彼の様子をどこかいぶかしげに思い、半目で睨むロゼリッタ。

「お前、一体何考えてんだい?」

「まあまあ、ここはこのギオ・ウィスターにお任せ下さい!」

「すっげー不安だ……」

 ロゼリッタはため息混じりに呟いた。

「どの道、ロンデンブルクまでは馬車で泥臭い道を通るか船で海を渡るしかないワケですよ。そんだったら、鉄の道伝ってアマタニア行く方がいくらかマシでしょう」

 蒸気列車スチームレーラーの走る鉄の道はバーリオンの少し西にあるムンクヘンまでしか伸びていない。その先は馬車で五日かけてペイリス、更に西のロンデンブルクまでは半月はかかる。

「アマタニアは学者の都市まちだろ。あたいはねぇ、学者という人種が気に入らないんだよ」

「お気持ちはお察ししますが、学者じゃない人間だって沢山いますよ」

「んなことぁ解ってるよ!」

 顔から文字通り火を噴いて怒鳴るも、それはすぐに虚空に消える。

「ま、ここからアマタニアだったら、途中のティタイナで磁気列車マグネレーラーに乗り換えればすぐ着くしな……」

「それじゃあ」

「行ってやるよ、くっそ忌々しい『学術の都』に!」

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