『折れた鋒は、しかし強固ならばそのまま敵を突き刺す剣となるのだ』
ーー狩りに酔った瞳は殺す事を考えている。
血に飢えた瞳は生き延びる事を考えている。
身を欠損させて尚も、自壊を容認して尚も、神奈斗は何時でも対象を斃す事ばかりを心中に誓い続けるのだ。
故に彼の血は彼の意志を尊重し、本来の彼に分け与えた者が、遂に使用を止めてしまった本質を神奈斗の身体にて発揮する。
けれども、無理はないのだと、彼と対峙し超高圧の電撃を絶え間無く撃ち出す奏愛は思ってしまうのだ。
結果は悲劇だろう。 悲しい結末なのだろう。
何処へ行っても、何処まで行っても、例え身体を痛め付けられたり辱められたりしなくとも、それは全て互いの合意の上の行動だとしても。
互いに互いを利用し合ったとしても、結局はどちらかが、あるいは双方が涙するのだ。
脈動する血液を流しながら、神奈斗は一度たりとも奏愛から目を逸らさない、視線を逃さない、視界に捉え続ける。
もたらされた二重の人ならざる力……否、彼は遂に探して求めて手中に収めた。
代償はきっと、今は分からぬが、それはきっと彼の全てだ。
もう二度と『人間』は戻れない。 そして、きっと彼は闘争渦巻く戦火のアポカリプスを見る事さえ叶わぬのだ。
「馬鹿だよ。 神奈斗」
一際大きな規模の放電が奏愛の翼から巻き起こり、磁界に捻じ曲げられて彼を焼き尽くそうと迫るが、その悉くを見切り見定め逃げ切ってみせる。
反撃の銃弾は対象へ命中し、奏愛の肉の少ない左肩を吹き飛ばしたーー。
『ヴァイツアイン社製特注大口径三発装填回転式拳銃DEVIL THREE』が吐き出すのは、機械兵が持つ武装精製の特異に当てられた直径15mmにも及ぶ対怪物の銃弾であり、呼応する銃身は長く片手で扱うには手練が扱いこなしても最重量級。
残りの二発は手練た銃捌きで一度の発砲音と共にほぼ同時に吐き出される。
だが、彼女とて異能力者。 初めから人間ではなかった存在は、装甲の分厚い機動兵器すらもブチ破るソレを、人差し指と中指の間と薬指と小指の間で受け止めーー『
「可哀想だね。 神奈斗」
しかし彼はそれすらも読み切った。
過去に熟知していた事もある。 研究と想定を重ねた事実も確かにある。
それでも、しかしそれでも、この反応速度は血によってもたらされた。
地力の程度差を大幅に補填するには、もはや彼にとってはこの手段しか存在しなかったのだと奏愛は以前から知っていたからこそ、愛する意義があるのだ。
高速低空接近を可能とする機械仕掛けの翼の、三つの左舷を粉砕し超速度で接近する。
「……楽しそうだね。 神奈斗?」
口付けしてしまえそうな程に目前まで近付けば、如何にこの男が身を捧げたのか理解出来るだろう。
端から血が滲む程に歯を食い縛り、その吐息は赤く生臭い。
話す余裕は毛頭無くーー電撃を纏うよりも速く繰り出す奏愛の拳が左頬に直撃すれば、多量の血を吐き出した。
その煌めき脈動している血を顔に浴びて舌で舐め取れば、彼の身体を解剖して弄ばなくとも彼女には全てが分かる。
「ーーとっくに気付いてるんだろ……?」
「貴方の事? 『
ーー早く帰ろうね。 それに、そうまで戦いたいのなら、丁度良いガラクタ達を相手にすればイイ」
「帰ってきたぞ、機械兵団の……恥部が」
雲林奏愛は疎い女だ。 そしてそれ以上に、神成神奈斗は意地の悪い事を言う男だ。
表情と言葉には出さずとも嬉々としている彼女に向かい、とっくに感知している人物の事を口に出す。
「……そうだね」
「どうする」
『どうする』などと問う意味を奏愛は見つけられなかった。
「どうするって? ……あぁ、分かってるよ? でも、今日は多分、大隊長が戦ってるもの。
仮にも前は私が倒したけども、私に倒されるくらいなら、今は序列から外れたけども大隊長に勝てるはずはないよ」
その言葉を彼待っていた。
随分と、案外に乙女チックな男はそこセリフにトキメキを覚えて、内心は喜ぶのだ。
元より奏愛に嘘を取り繕う器用さなどは皆無ではあるのだが、今は口と心の二つの意思が彼には見える。
「そうか」
彼女は見逃しはしなかった。 聴き逃しはしなかった。
口元は少し緩み、口調はとても柔らかくーーとてもとても、刹那の彼は闘争の申し子と呼べる様な豪胆さが無かった。
どれくらいの回数、離反する以前の彼に彼女はちょっかいを掛けたのだろうか。
どれくらいの回数、傷付いた彼を救ったのだろうか。
少しばかり細めた目で次の自壊は何かと想像する彼女の脳裏に何度も通過するのは、一人は神成神奈斗。
そしてもう一人はーー。
「貴方は何もあの子に返せるモノが無いと思うかもしれない。
けど、そんな事は、多分、ないと思う」
「……そうか」
「生きれるよ。 貴方はただの軍属で、そこから逃げればただの男の子」
「……そうか」
「けど、貴方は逃げない」
つまらない意地は、やがて動かない執念へと変わり果てた。
けれども奏愛は知っているのだ。 何度も頼まれその度に頼み込むその子が可哀想に思えてきて……しかし、神奈斗の本心を無神経に伝えられたならば、彼の肩を持つという感情も芽生えてしまう。
「私は貴方を止めない。 貴方の思いは正しい」
彼が愛銃とは逆の手に持っていた奏愛の愛刀は零れ落ち、ソレを彼女は電磁力の応用で自らの手に手招き、そして備えた。
見たいのだ。 何故ならば彼の言葉と行動に嘘は無い。
自らの本来流れていた血を瀉血し人間を辞め、飽き足らずに選んだ人体改造の業の結果を、奏愛は見たいのだ。
昔から彼は何度も言って、奏愛にも聞かせた言葉がある。
『殺した汝は血を流すべきなのだ』
無宗教である彼は、故に共感出来る何処かの一節をずっと胸に刻んでいたのだ。
戦うべきなのだ。 戦い続けるべきなのだ。 戦いを終わらせてはならないのだ。
もしも世界中が愛と平和に包まれ、兵器と武器に草花が宿る未来が近い内に訪れたとしても、仮に今がその様な時代だとしても、それでも逃げる己を許さない。
二百人程の生命の内、果たしてどれだけが意義のある殺害であって、どれだけが異議のある虐殺だったのだろうかと思えば思う程に、神成神奈斗は
「シスター・レジェーラ。 貪欲な血狂い、冒涜の修道女……帰ってきたキチガイを、お前は追わずに」
「貴方と戦う」
静かなる宣戦布告に際して、宣告と同時に先刻に神奈斗が折った左腕を彼女は容易く、肩から乱暴に一振で外れた肘関節を嵌めた。
そして愛刀の柄を軽く握り、抜き身の刀身に軽く触れた。
上体は低く低くーー極珍しく臨戦態勢に入る姿には、恐ろしさよりも今は違うプラスの感想が彼の口から漏れ出した。
『シスター・レジェーラ』。
現存する最古の機械兵。 弄ばれ続ける殺戮マシン。 十万人殺しの罰当たり修道女。 雲林奏愛よりもずっと人を殺し、敵を殺し、味方を殺してきたそんな悪魔よりも、目の前の愛おしい強敵は自らを選んでくれた事に喜んでいる。
その言葉に嘘が無い事を彼は見定めた。
「ーーーーー」
その声にはノイズが混じり始めた。
機械兵がより深く、その核に蝕まれ始めた事の照明の声である。
だが計画に滞りも大問題も無いく、全ては彼の執念によって計算し尽くされた現実なのだ。
「なんて言ったの?」
『DEVIL THREE』に続いて、彼は本来の神成神奈斗として最も信頼の置ける戦闘態勢の得物左手に取った。
やはりやはり慣れ親しんだもう一つの銃を持てば、どれだけ異能と異質の力を持ってしまっていても彼だと知る者達は認識出来る。
『ヴィリアース社製汎用六発装填回転式拳銃SATAN SIX』は最早彼が五歳の時に配給された時と比較すると、血と油で有ったはずの塗装による黒い艶は消えて、完全なる無垢のガンメタルの狂気として進化していた。
もう一つの悪魔の名を冠した、改良と補修を何度も何十回も何百回も繰り返した耐久信頼性の置ける人殺しの武器だ。
もう片方と同じ様に銃身は延長、弾倉部は大型化され吐き出す弾丸は人間の頭部を木っ端微塵に吹き飛ばし、想定する敵は人外。
二丁の拳銃が本領を発揮するのは、大量殺戮や惨殺死体の製造ではなく、決定的に人外達を滅陣滅相する為だ。
「ーーーーー」
「聞こえないよ」
さぁ、最高の夜にしよう。
何年も掛かったお膳立てはようやく済んだ。
抱いた女と愛した女と恋した女が違うなどと、何ともそれは些細な色恋事情だろう。
誰よりも彼は恐れている。 自らが戦場から俗世に放り出される事に恐怖する。
まだ使命感で銃を握っていたいのだ。 己の欲で引き金を引き、激情で撃鉄を下ろしたいのだ。
ーー全てが実を結ぶ。 今の目前に居る目当ての女からも、アプローチの答えが肯定の意思で返答されたのだ。
「あ、りがと……う」
「死ぬ事は許さない。 絶対に許さない。 殺されても死ぬ事だけは、私は許さない」
故に、ノイズだらけの声を愛おしい彼女へと捧げた。
「 ァ R ィ が t ぉ u 」
二つの祝福は結合して完全な一つの呪いと化した。
解呪するには一つの手段しか用意されておらず、泣こうが喚こうが、留まるも地獄、突き進むも地獄の最高の喜劇の開幕だ。
さぁ戦いたまえ。 自ら死ぬ事を選ばずに、飽くより先に死に腐るまで崩壊するまで戦いたまえ!
元より己が選び、ずっとずっと選び続け、これからもこれからも選び続ける血に浸かり続ける破滅の王道だ。
幾百幾千の鉄火の嵐と同様の意味を持つ、雲林奏愛の八つ裂き宣告は容易く死を与えない。
苦しめ。 苦しんで苦しんでーー。
悔やんで。 悔やんで悔やんでーー。
故に峰には鋸を模した悪魔的造形の愛刀『八ツ裂キ』。
僅かに一秒程で数メートルの距離を一瞬で詰めるばかりか、その間に打ち出された全銃弾九発は全て斬り捨てた。
だが首狩りの意志は、奏愛の思考はもはや筒抜け。
亜光速に近い対象動きを把握する為に出現させていた極細の綿毛の様なセンサー機構は不要だ。
「……え?」
最後の一閃は横に薙ぐ斬撃軌道であったから、定石の対処は必然的に模範的な一手である。
容易く止めた。 剛力で握る柄を踏み止めれば、奏愛はようやくあまり見せない表情を表す。
彼女が目を見開いて理解するまでに一瞬の時間は流れ、既に十二分に神奈斗は装填の猶予を勝ち取ったのだ。
背面の得体の知れない機構から弾倉に伸び連結された管には、多量の銃弾。
「もうそこまで届いたの?」
容赦の無い超至近距離での連射の敢行。
狙うは頭部ではなく、その全身だーー驚愕は退避を選択させ、無尽蔵に精製される弾丸の弾幕は全弾とはいかないまでも、確実に奏愛の身体を削り取る。
「どうシた?」
腹部、肩、上腕、左足の弾痕による痛みで雲林奏愛は懐かしい感覚を思い出す。
退くという久方ぶりの行為は、こんなにも無神経に発動してしまうのかとーー。
初めはここまで力を込めるつもりなど無かったのだが、だがしかし、やはり……いや、しかしーーここまで強く退化した事態は褒め讃えようと思っていたのだが。
奏愛の想定よりも彼は強くなり過ぎた、この寸刻で。
そしてーー。
(逃げた……? 私が?)
ようやく雲林奏愛の顔が幼い少女時代のソレに戻った。
何処か無気力な雰囲気をしていた目付きは尖り、一目で分かる戦闘意志を隠さない戦士の眼だ。
隠す必要は無い。 手心を持つ必要も無い。 手加減して斬り掛かれば、強烈な手痛いカウンターをブチ込まれると直感が言う。
一刀一殺の理がふつふつと記憶の底から這い上がり初めた瞬間、神奈斗のその瞳には奏愛の澱んだ心のドン底まで、きっと澄み切って見えたのだ。
そしてきっと、公表された実力はヴァルキュリアに継ぐ彼女は、全霊で破壊を尽くすだろう。
あの時拾った子猫以下の存在は、愛でる愛玩と成り代わると期待していたのだが、最早彼は帝国にとって完全なる脅威になった。
彼は越えようとしている。
どちらか片方の破壊の力ではダメなのだと、自ずと理解し行動を起こした末にこのザマだ。
たった一人で実現しようとした夢幻と破滅の自己強化論は、誰が見てもこの場にて証明が終了した。
醜い獣に堕ちる訳でもなく、物言わぬ兵器となるのでもなく、ただただ神成神奈斗の心は壊れずにハッキリとこの場に留まっている。
「ドうしたンだ? ーー来ィよ」
右手の銃は既に無く、代わりに握られているモノもそこには無い。
何をしようとしているのか、何をしたがって、何を伝えたいのかーー奏愛の表情と心中に吃驚とはらしくもない。
けれども神奈斗の行為は此処に来て不遜さを増した。
彼は手招いた。 傷ばかりの落ちぬ汚れたばかりの掌を奏愛に見せて、彼女を手招いた。
ーーさぁ、嘘をつかない君の口から出た言葉は嘘では無いのだろう?
その唾を飲み込ませない。 先程に言った愛の言葉を彼は信じて期待しているのだ。
だから来て、比喩であろうとも愛してもらいたいと恋焦がれる。
その為に彼は人を捨て、更に人を棄てたのだ。
だが行かぬ。 度を越した身には、対象から与えられたのは冷徹な熱い一閃だった。
一筋の縋るに丁度良い光量の青白い線は太刀筋。
読心の異能など、戦いおいて、力量差有りきの戦闘においては、そんな塵な様なモノなどどうでも良いと言わんばかりに、余りにも射程の長過ぎる斬撃が手招いた腕を撥ねた。
少し前まではきっと鮮やかな、鮮やかなだけの血が彼にも流れいて、こんな風に切断せしめれば身体の欠損の痛みと恐怖にのたうち回るくらいはしたのだろうが。
そして噴き出す血は煌めきつつも汚れている。 穢れた神秘の血を更に汚すのは、過去人が創り出した知恵のカラクリの油だ。
「もう、痛クはナイいんダ」
「ーーバケモノ」
どこまで行っても、その変貌は執念にしか見えないのだ。
しかし、実際に執念でしかないのだ。
神奈斗の選んだ道は全てが求めた地点に彼を導き、そしてそれは何も特別で特例な特異点ではない。
右腕は上腕から斬り飛ばされたが、傷口からまるで筋繊維の様な硬い硬いコード何十本を生やし腕の形を成し、やがて五本の指を形取る。
瀉血し、それでも成りきれない未熟な彼の身体は既に、当然の様に次は骨を侵されたのだ。
血は骨が生み出すが、遂にその若い傷を蓄えた身体を支える骨は生まれ変わる事は出来なかった。
「お前タチが常識ジンのフリをするノカ? 千ギれテはまta生えル、気ショくの悪イおマえ達が?」
ーーだから『機械仕掛けの子宮』は本来のキャパシティを超える度の復元を彼の身体に試みたのだ。
故に幾ら直感の鈍い見たモノしか信じない奏愛だとしても、彼女の知る幾つかのピースが思考の中で合致する。
だから言うのだ。 理論上は可能な、それでいて最高に狂気的な彼の戦闘意思表示に、常人達には常にバケモノ扱いをされる彼女は。
「……私達は自分の身体で遊びなんてしないんだよ」
その言葉が神奈斗の聴覚に侵入した瞬間、同時に着弾したのは一瞬で奏愛が蹴り飛ばした足下の小さな小石だった。
高圧縮の電極を纏わせた超簡易的ではある、その蹴り足で放ったレールガンは対象の頬を撃ち抜いた。
皮膚も、肉も、そしてその奥の中にある歯が砕け散る。
痛覚が生きていれば、それが痛みだと認識出来れば、まだ何処か人間らしく在れるのだろう。
だがそもそも、電磁の弾丸を心読し読み切った上で回避しなかった。
こんな傷など、もはや痛みにしかならない。
「もう少しマトモな人間だと思った。 どちらかしか選ばない普通の人間なんだって、私は思ってた。
ーーだからあの日に助けて、あの日に見逃した」
机上の空論であった存在は今、彼女の目の前に立ち塞がる。
その姿も、その何もかもが正しく極上一級品の紛い物。
「バケモノ」
速すぎる侵食の速度と、未だそれらに食い潰されぬ様に呼応する彼自身の適応速度。
「バケモノ」
その執念。 その覚悟。 徹頭徹尾に至るまでが最高品質の紛い物。
「バケモノ」
故に故に、倒されねばならないのだ。
破壊し破断し、殺し尽くさねばきっと彼は死なない。
やはり正真正銘の怪物は何時の時代も人間が創り出す物なのだろう。
おぞましく、何処までもおぞましく、奇っ怪怪奇の忌み物は、何処かの誰かが必ず滅殺すべきなのだ。
「……バケモノ」
『 『宇宙ナメクジ』達は嫌悪するだろう。
自ら達よりも、ずっとずっと気味の悪い存在に。
『機械兵』達は決して認めぬだろう。
自ら達とコレは、単なる亜種という僅かな差異でしかないということをーー』
過去人が危惧した悪夢は此処に存在した。 それも純粋な意識だけで、二本の足で常人と同じ様に立っている。
血は滴り続け、軋む金属的な構成物のカラクリからずっと赤く明るい血が滲み続けるのだ。
『Hello. BLOODY MECANICAL』
ようやく目覚め、明けた視界できっと悪夢を見続ける君は
笑うのだろう。
狂わぬという狂気を恐れたまえ。 今こそ己の慟哭で、その耳を
目は慣れたか? 耳は慣れたか? 喉も鼻も、肌もーー。そして、血には慣れたか? 君を蝕み続ける、君を穢した純粋なる星からの血にーー。
慣れたのならば、しかし、慣れぬのならば尚の事君は戦いたまえ。
ずっとずっと戦いたまえ。 それこそが君の願いだったのだろう。
浅はかで、苛烈で、限度を知らぬ君の正義は君を許さない。
『殺した汝よ、血を流したまえ』
誰が君の正常なる志を無碍に出来ようか。
「生きルコとは戦ウこtだ。 ダから、オrは、ずっと戦うダけなンだ」
贖罪の時だ。 神成神奈斗は19歳の今この瞬間、墓石の下で眠る事を諦めた。
許せないではないかーー。 自身を自身が許すなんて、あんまりな結末ではないか。
これまでの合計の内の大多数を決意によって殺し、少数を興味によって殺し、極小数を快楽で確かに殺したのだ。
そんな自分が許されるなんて、そんな悲劇はあんまりだ。
戦いべきなのだ。 戦い続けるべきなのだ。 戦って、戦って、戦い続けてーー生きるならば朽ちるまで。
飽くまで戦え、許しを乞うために飽き果てるまで。
鉄槌を下す正義の味方が現れるまで、安息の死は訪れてはならない。
「……ひとつ教えて欲しい」
そして、故に彼は立ち上がり続けなければならない。
矮小で、そのくせ崇高な思想もそうだが、確かに約束したから彼は立ち上がり続けり、歯向かい続ける。
左脚を刹那に電撃と剣戟によって破砕されたが、立ち上がるのだ。
同時に脇腹を穿たれたが、穿たれ瞬間にその傷と呼べぬ欠損を修復するのだ。
決して神成神奈斗は折れぬ。 もう、死ぬまで彼の何もかもは折れる事は無い。
そうやって約束をしたのだから、誰よりも愛おしい誰かと交わしたのだからーーもう天地がひっくり返っても地に足を着け続け、仮に交わした約束を破棄し彼女が抱擁を求めてもその手は必ず『牙』を握る。
「今、貴方は、楽しんでる?」
「ーーお前程ではないけどな」
人の身では決して辿り着けない、瞬間治癒という境地は既にこの身に馴染んでいた。
故に神奈斗がわざと進んで猛攻を受け止めるのもここまで。
心読の異能により既知となる奏愛の超高電圧の剣戟を、右手の三発装填式拳銃の弾丸で弾き飛ばす。
装甲車すらブチ抜くその破壊力を持ってしても彼女の愛刀『八ツ裂キ』は刃毀れすら起こさないが、確定するのはこの一瞬は隙のなった事態。
時点の弾丸は奏愛の二の腕の肉を僅かに抉り、そのまた次の弾丸は彼女が左手で握り止める。
握り止め、そして握り締めた神奈斗の放った弾丸は、そのまま彼女にとっても便利な鏃となるのだ。
「セレナの異能も、使う人が使えば強いもんだね?」
弾丸を掴んだ瞬間に、掴もうとした瞬間に、神奈斗は機動装置を全開にし手首を掴む。
肉切り包丁を振り回す事が特殊兵団ランク2の本懐などではない。
『八つ裂き』などと呼ばれながらも、その実、敵兵を屠ってきた攻撃内容は斬撃による斬殺ではなく、『
だからここで、この瞬間に、彼女の得物一つを潰さねばならない。
ーー『超電磁砲』は
片手首を片手首で掴み、極め、そして折る高度な実践的格闘術はそもそも彼女が神奈斗に仕込んだ技だが、奇しくも彼の技量に素質が追いつき、この状態を完成にさせた。
故にーー彼女は、雲林奏愛は逃げた。
折られた左手から流れた電撃は、大きな音と眩い光を放ちレオン・グリードとの交戦中に呼び寄せた落雷に次ぐ威力だった。
確固たるマイナスの意識が彼女の脳裏に過る。
数ある闘争の選択肢を選び違えば、おそらくはーー負けるのだと。
だから、僅かにだが肩が上下する程に荒くなった息遣いは痛みが原因ではなく、問題は心中にある。
想定よりも遥かに強くなっている。 強くなっている、というよりは、今この瞬間も強くなり続けている。
あぁ、ようやくだ。 ようやく、待ちに待った瞬間が彼女にも訪れたのだ。
業を仕込んだ甲斐があった。 裏切り者と断じて、直ぐに殺さなかった辛抱の甲斐があった。
ーー離れ、近付き、そして斬り捨てるのが雲林奏愛の変わらぬ兵法である。
一度の接近で切り刻む事が可能な地力の差ならば、それは一瞬で勝負が着くのだが、ましてやこの怪物、『血塗れの
無論、機械兵達と同じ『核』も、宇宙ナメクジ達と同じ『血』も、そして……元より彼の傍らに有り続けた、最も信頼の置ける拳銃も、遥か格上の者共斃す為にーー。
一時的に距離を離した奏愛を三つ目の銃の銃口から吐き出された弾丸が追撃する。
異能力者は特殊能力を得た人間に在らず、故に狩る。
何時の時代も獣を狩る銃というのは相場が決まっているだろう。
「害獣じゃないんだよ……?」
辛うじて弾道から急所を逃した彼女もその全ての鉛がからは逃れられない。
形状は銃口が二つのロングバレル。 未だ刻まれた簡素な意匠の彫り込みは、その銃が帝国兵に配給された代物であると想像させる。
その銃は、さしずめ言うなれば隠し球。
『ヴァイツアイン社製大型獣狩猟用散弾銃DEMONIC STORM』及びに装填される銃弾は『NEEDLE BULLET88』。
88《アハトアハト》の数字が示すのは拡散する尖った鉛の総数に他ならない。
装甲車をブチ抜く破壊性の銃弾を握り止める奏愛の腕を突き抜ける程の貫通性能に彼女の本能が危険信号を放ったのか、僅か一瞬で常人が片手で構える事が出来ない質量のショットガンを切断せしめる。
刀身の射程を超えた斬撃を放ち、しかし雲林奏愛はもう一度文字通りの光速で肉薄した。
(堪らない殺意だ……俺が知る何よりも!)
雲林奏愛には剣術が無い。
早く振るう、速く振り抜く。 早く抜く、速く抜き構える。 早く斬る、速く斬り裂き斬り捨てる。
理由等知れた事で、滅多に出逢えないのだ、技術を使うに値する者達に。
だが至極当然の道理しか彼女は知らぬ。 故にーー両手で渾身で掴み、腰を落とし足を踏ん張り、上半身全てと下半身全てを最速の一連で連動させる。
どれだけ先を読んでも先手を打っても、こうなった雲林奏愛は更に上を征く。
見える程の速度で振り抜かれるはずの斬撃は、破壊力ばかりが先行し、低速化した動作は反撃を常に視野に入れ続け、殺意の銃弾と刃を見れば反射でその四肢は作動する。
だから、彼は受け止めた。
レオンの『核』を奪い精製した日本刀を模したブレードを多重に重ね、更に一瞬で破壊された隠し球のショットガンを捨てた左腕は血肉諸共変形し盾と化した。
機械仕掛けの兵すらも、肉として斬り裂く得物の銘は『八ツ裂キ』。
よく見れば柄に巻かれた藍色の布は血に染まり、渾身の力で握る刀を自らの首筋に添えーーそして、放つのはここ数ヶ月最高の斬撃。
『武器はキチンと握れ。 お前の戦う相手は人を棄てた化物だ。
せっかく助かった生命を自らで喰い潰す、私達の様な宇宙ナメクジを超える程の化物だ』
ヴァルキュリアに奏愛はそう言われた。
彼女が幼少期より教え込まれた思想は、軍属軍人の何たるかではなく、ただただ相対する者達の恐ろしさ。
真に克服すべき恐怖を向けるのは『戦い続ける者』でも『勝ち続ける者』でもないーー。
異常性に溢れた愛すべき強者達は『負け続ける者』であった。
「ーーダから、おレにはお前タちの『血』ガ必要だッタnだ」
多重の防御壁と呼べる精製武装を斬り捨て、背面の加速装置達の維持リソースも防御に回して彼は受け止める。
だが奏愛は読む。 いや、見て判断する。 未だ神奈斗の右手に握られている三発装填の拳銃は彼女に照準を合わせていた。
ーーならばもう一度、斬り込んだ側の腹で止まる愛刀に力を込めて、更に斬り込み両断しようとするのだ。
しかし当てた状態の刀身、血塗れの機械群は彼女の愛刀を雁字搦めに絡め取る。
ガリー・ゲルドハルドとの交戦時に鋏状ブレードを、鎖で絡め取った様にーー。
神奈斗の肉も血も、そして鎖もコードも彼女に纏わり付き、そして愛刀を投げ捨てた。
「……クソ」
身体を斬らせて相手の牙を棄てさせる。
その判断は正しいだろう。 神奈斗のお株である拳銃の早撃ちに、自らが放つ電撃の初動が遅れると思い込んだのだ。
間違いなく、神成神奈斗の地力は雲林奏愛が知る並の機械兵の地力を大きく超えている。
地力も、そして経験則は歴戦の老兵を超えている。
銃弾が降らぬ安全圏で役職を持つまで生き延びた者達よりも、人外と好んで人外達と戦い生き延びてきた青年の兵士が事戦いになれば優れているに決まっているのだ。
そして神奈斗は確実に、着実に、絶対的に未だに戦士としての成長余地は止まっていない。
故に奏愛は殺す為に刀を棄て、極上の人斬り包丁にも負けぬ程の斬れ味の稲妻を孕んだ右の貫手は無論、狙うは心臓だった。
対するはーー神奈斗の生身の右手。
掌を貫通し中小骨を粉砕された事も、『心読信号』により予見された既知の激痛。
のたうち回る程度の痛みなど、とうの昔に耐える精神を鍛え上げている。
その牙を折る為に彼は布石として右手を貫かせ、そしてわざと自己の意思で貫通させた、彼女の指四本を根元からへし折った。
「捕まeた」
武装精製の『
だが未だに彼の判断は、複数の特異によるゴリ押しを良しとせず、想定も現状も交戦している雲林奏愛は格上であると認識し続ける。
「ーーそレでコSォ。 ソレでコそ、『八つ裂き雲林』……!!」
既に左手首の骨折は完治し、稲光以外は目に追えない程の光速で放たれた左手の手刀は、神奈斗の腕を鮮血を噴き出させ切断せしめていた。
「どうしたの? 詰め将棋はもう終わり……?」
そう言うと彼女は背後からの一撃を、神奈斗が背面から伸ばしていた、尖端に刀が張り付いた尾の様な機構の一撃
を見すらせずに掴み止め、そして粉砕する。
レオン・グリードが得物として精製していた武装は、今はその核が神奈斗の内に存在し、それすらも適応させて己の牙としていた。
しかし、恐るべきは彼のあるもの全てを使う貪欲さなのかーー。
或いは、同胞の死すら攻勢の一手として考えた彼を容易く超え続けている雲林奏愛の強さなのかーー。
「早くして」
切断し自身の左手に纏わり付く、穢れた血の腕を一瞬で雷撃で焼き払うと地面を蹴り付け、また肉薄した。
その速さは相も変わらず電光石火。 得物は彼の腹から生えたまま、そして、無理矢理に皮膚から飛び出した指の骨は握り込んで治療完了。
そして弾丸よりも速く。 『バレット・ガール』は手に握る稲妻だけで殲滅する気である。
だから、神奈斗が得た啓蒙の血の特異性は、結局のところ所詮は同格までにしか真価を発揮する事など不可能であったのだ。
ましてや神奈斗の知る限り、総合的に鑑みて今相対する彼女は最強だと彼は信じる。
寡黙に敵を屠り味方を護りーー、そんな女が事闘いを楽しむ気概になれば、やはりその血はそんな者には役不足。
そうだ。 もう雲林奏愛の攻撃には予兆の思考が一切存在しなくなったのだ。
そして彼女は看破した。 正体を見破れば、何も摩訶不思議は存在しない、仮定と想像の通りの怪物に過ぎないのだと。
「恐ロしイ女だy。 もう、見キりやgっタのか」
相手が思考を読むのならば、その予知よりも後で動けば良い。
至極単純な真向正々堂々とした正攻法に、彼は追い付けなかった。
得物を持てば、そして異能を存分に行使すればきっと神奈斗は心を読み、心を完全に読み切って迎撃するだろう。
殺意は感情の中では最も強く、その強さといったらきっと拒絶の意志に次ぐだろう。
だから、痛ぶるつもりで奏愛が放った延髄蹴りが容易く効果的に効くのだ。
神奈斗はよろめき、確かに彼女の眼を見ているが、その瞳の中には肉切り包丁も超高電圧の異能の姿も無い。
「早く、見せなよ」
『八ツ裂キ』で切り離された修復途中の左腕で放たれた拳とも呼べない形状の拳が、顔面を捉えるまでに費やした約0.5秒の間は確実な悪手であった。
破壊力と速度はノットイコールである。 しかし、稲妻を蓄えなくとも彼女の拳は重い。
より速く。 神奈斗の臨戦意識に滑り込むなど、歴戦の戦士よりも経験を積んだ若い彼女には容易いのだ。
ーー2発3発どころの騒ぎではない。 骨も肉も潰す神奈斗の機械仕掛けの拳が皮膚を弾けさせるが、しかし頬の皮膚を破るだけに留まる。
小手先の技術で滑らせた合間に叩き込む計10発の与えた損傷は着実に彼の身体を一発づつ破壊した。
額裂傷。 左腸骨骨折。 右鎖骨断裂。 右視神経損傷。 右鼓膜破裂。 左眼球破損。 右肋骨亀裂。 左右胸筋破断。 そして血と油が付着した奏愛の指は彼の喉から引き抜かれ、10発目は咽喉破壊だった。
殴り殺すなどと野蛮人の狩猟法だろうが、雲林奏愛の強さは野蛮さと粗暴を孕む。
「早く見せて……?」
背面へ倒れ込む予兆を見せた神奈斗の分厚い黒革のコートの襟を掴み、そして奏愛は倒れ込む事を許さない。
立てと促している。 立って戦えと命令している。
「ーー強い、なぁ」
「そんなお世辞はいい」
「俺が、逆立ちして、も、敵わない、だろう……?」
「あるんでしょ? ……隠し球。 死にたいなら死にたいなりに気合い入れなよ」
得意の二丁の拳銃を掴む手は今は無い。 死角からの強襲した機構も破壊され、一瞬で与えられた身体の損傷を回復する程の余力は再生速度とは比例しない。
「もう詰んだの?」
「なら、どうして、くれるんだ? 愛してくれるのか?」
「そこまで言うなら、先ずは貴方が裸になる事だね」
ーーー。
歴戦。 史実に名を残す程の機械兵はこうも色々と自身と違う物かと彼女は思う。
恐らくは、今、自分の腕の中で戦闘行動が不能となった人物は数え切れない程殺し、数える事をきっと辞めているのだろう。
しかしながら、個の破壊力が重視される人的資源で争う戦況であっても、残念ながらこうはなりたくはない。
第二機械兵団副隊長リアーネ・リディアードはその隊の長であるガリー・ゲルドハルドと共に、後始末として自軍の敗者の回収へと訪れた。
「久しぶりゲルドハルド君!! 初めましてリリーちゃん!! そして私の身体は何処に行ったの!?」
ヴァルキュリアが殺意を持って殺しきれぬ存在には畏怖を覚える二人の感情を他所に、レジェーラは頭部と左胸部だけになっても相も変わらず話し続ける。
『殺戮修道女キリングシスター』の異名が示す通りの残虐性と同時に備わるのは、敬虔なる者が持つ不屈の信仰心に支えられる不屈の闘争心なのか。
「また強くされたのか」
ゲルドハルドはリアーネの腕に抱かれたレジェーラに言うも、当の本人は自信がまた改修され敗北した事よりも、今は初めて見るリアーネと親睦を深めたい様子である。
(何だ、この人……)
「リリーちゃんは何歳なんだっけ? 私は確か最後の誕生日は10歳だったよ!」
「……二十歳です。 クリオファール隊長」
この様なザマになっても、イキイキとハキハキと話す機械仕掛けの要素の恐ろしさを煮詰めた人物だが、それが寧ろこれまでの経緯のおぞましさをリアーネに体感させるのだ。
「リリーちゃんは好物は何? 私はハンバーグだよ。 チーズの入ったやつね。」
ゲルドハルドに目を向けるも彼はこちら二人に一瞥もくれずに一点を見つめている。
けたたましい雷鳴が立ち登り、何度も大きな銃声が響いた場所を。
第三機械兵団所属となった帝国軍離反者神成神奈斗が、ゲルドハルド自身も何度も敗退した異能力者部隊ランク2に勝利するとは思ってはいないのだが、しかし場に残りながらも加勢には加わっていない。
リアーネは何度か好機だと彼に進言した。
そして敵の戦力の中枢であるヴァルキュリアは、遂にレジェーラを殺しきれずに残存する味方の元へ向かった。
「……トマトサンド」
「私トマト嫌いッ!!」
リアーネとレジェーラ、そして恐らくは居残っているであろう第一機械兵団のツートップであるアデヴ・イフスとベルギット・ホーク及びに、第三機械兵団のトップである姫司乃司。
十二分に現戦況における頭数と戦力は一人を覗いてこの場にて残存している。
ーー確かに雲林奏愛は強い。 追い詰められたら何をしでかすか、何に成り果てるか不明瞭である事を除けば、敵上位ランカー一人を嬲り殺せる好機であるのだがーー。
ヴァルキュリアの対する雲林への信頼は、恐らくは彼女を置いていくだろうがーー。
「リリー副隊長。 我々も撤退するぞ」
「……可哀想な事をするのですね。 まだ機械兵となって日の浅い新参者を狂人に晒すとは、ましてや我々が束になればランク2であろうとも十分に」
「そういう事ではない」
そのやり取りに柄にもなくレジェーラは口を挟まない。
「分かるだろう、レジェーラ隊長。 何故、貴方が倒せる可能性が高いランク2へ向かわなかったのかは、貴方が神成三等兵を試しているからだろう?」
そしてゲルドハルドに問い掛けられて言葉を紡ぐ。
落ち着いた物腰となれば、やはり少女の面影は消えて顔付き通りの淑女のイメージ通りになった。
「ははっ、よく言うね? あっちでもこっちでも玩具にされて、そもそも機械兵に堕ちる以前の状態でしっちゃかめっちゃかだったんだよ?
……少しばかり、次はあの子の我儘を通させてあげるのが筋だと私は思ってる」
リアーネは二人の台詞に思う所があるとすれば、二人とも彼女が知る限り、想像していた限りよりも、随分と過保護な考えを持っているという事であった。
ましてや片方は犯罪者をモルモットとして被験させた部隊の長。 もう片方はずっと昔から死に続け、そして戦い続ける狂人。
「それにあの子は賭けた。 沢山の強者達と戦う為に、その強者達を斃す為だけにーー。
私達機械兵と彼等宇宙ナメクジ達は、あの子に与えられるモノは全て与え、そして奪えるモノは全て奪った」
鳥籠に袋詰めにする事が保護の全てではない。
外に放ち、そして傷を追わせる教育こそが指導の本懐であろう。
ましてや人を殺した人間は、決して平穏無事に生涯を終えるなど有り得てはならないのだ。
故に全ての
「帰るぞ」
「待ってください。 ……彼が、その死体を鹵獲されたならば相手方に情報が盛れる可能性もありえます。
ましてやーー」
ゲルドハルドは踵を返し撤退しようとするが、レジェーラの腕の無い上半身抱いたリアーネは食い下がった。
そこに現れた二人の男は、ゲルドハルドとレジェーラと同じ様に神奈斗への助力を行わない考えを持っていた。
隊長格と副隊長格が8分の5の数揃えても、圧倒的に多いの意見に彼女は反論する余地を無くしている。
「……ベルギット副隊長は恐らく待機しつづけるだろう。
彼がランク2に敵わぬ事など、施術者が一番理解しているのだからな」
リアーネの漏らした嘆息は、きっと男のつまらぬプライドを感じ取った事が理由なのだろう。
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