館林不思議異譚

あびこ

序章:ある日、突然、館林に

 ※この話は内輪から始まったファンタジーです。館林に設定した理由もそこにあります。ですので、意味が分からない方がほとんどだと思いますが、それでも読んでいただけたら幸いです。


 「社会構成主義」とか「社会構築主義」という考え方がある。これは、セクシュアリティとかイデオロギーとか、ある条件があって、人間がそうだと思ったことの積み重ねが概念とか考えになっていく、というものだ。子育てする男性が善いということになったのは、それが善いという考えが積み重なったからで、そうなった以前は子育てする男性は、どう思われていたのかイマイチわからない。場合によっては、男性の価値にすらならなかったかもしれない。でも、そうした時でもある男性が子育てしたことには変わりない。その男性はがんばったんだ。そんなもんだ。


 これが変な方向にいけば、Aという何かに考えとか思いを継ぎ足していって、それを悪いことにできるかもしれない。勝てば官軍かもしれないけれど、その勝ったことを作ることだってできる。確かめようとすれば、すぐに異なることに気づくかもしれない。けれども、実際に生きていると確かめようとする暇もないし、確かめようとしない。面倒だからだ。そうして、その新しい「ナニか」が幅をきかせていくようになる。


 情報をどんどん継ぎ足していけば、徐々に徐々に、そうした考えとか何かを塗り替えていける、上塗りしていけるかもしれない。ちょっとした愚民論だ。町場で5秒もしないうちに考えたくらいのアイディア。でも、それをある人たちが実行に移した。本人たちはその気はなかったかもしれないが、彼らはインターネットで、ある町について非常に空想的な情報を構築し、流布した。彼らは平凡な地方都市を、巨大なビルが建ち並び、首都として機能し、常に満員の電車が行き交う都市にしたてあげていった。内陸にあるのに、彼らは海までその都市に引いてしまった。その都市には原子力発電所もある。事実の町を知っている人たちには、奇々怪々、おふざけにしか見えないかもしれない。けれども、彼らが築いた空想都市は、ある閾値を超えてしまった。実際にその都市がそうした都市だと信じる人たちが出てきたのだ。信じるとどうなるんだろうか。人間が住み、建築物があり、電車が動き、常に見知らぬ人々が交通を使って出入りしているのが都市だ。それは、どうあろうがそこに“ある”。そこに「構築」も「構成」もつけいる隙間はなかったはずだった。そのはずだった。


 頭の中にしかない空想都市だったはずのその町が、いつからかうそとまことの世界をなづさうようになった。でも、あるかもしれないし、ないかもしれないことには変わりなかった。いや、そんなものはなかったはずだった。


 そしてある日、“ないはず”のものが、うその世界の扉を開けることになった。扉が開かれた時、こっちの世界の全てがもやと蜃気楼に包まれた。交わるはずの無かった世界が、次々にこっちにおしひたしてきた。それらがどういう世界で、どうしてこの世界にあわさったのかは分からない。けれども、並んでいた世界の道筋が、訳もしらず、こっちの世界と平らになった。思いも寄らなかったことに、それは彼らの考えた都市の内側だけに留まった。向こうとこっちが全て複なったわけでもなかった。平らになったことで、向こうの世界の時間がこっちに持ち込まれた。時間は相対的なものだと学者が言っていた気がする。それは正しかったらしい。こっちからは異常な速度で動いていく世界、それの逆もあった。向こうの世界の時間たちが目の前にあっても、こっちの人間たちの行使する時間は変わらなかった。それに、時間たちはどの世界にしても同じ方向に動いていることがわかった。逆方向に動く世界を目にしたことはない。けれども、“持っている時間”、というのがあって、異時間と接がることはなかった。ただ、世界がひたすら重なっているだけで、膜を通して向こうの世界を見ているだけだった。しばらくして、研究者たちが「機能世界が象限した相互不干渉領域」という説明をした。でも、それだけだ。この町は、そこに“ある”のに、常に蜃気楼のようになって、世界たちとつながってしまった。



 それが、いま住んでいる町、館林。実際はそこに“ある”し、人間も常にそこに“いる”にも関わらず、いまや蜃気楼のようにぼやけてしまった都市、不思議とおぼろげが支える町。そんな町のお話をこれからしていこうと思う。




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