第3話

『えー、また事件が起こってしまいました。』

『警察によると「犯人は同一人物か同一グループで、極めて残虐。被害者は利き腕が切り取られていたり、頭部や心臓が無かったり、はたまた大量の血痕を残して失踪していたりと、極めて残虐性の高い事件。何のためにこんな事をしているのか未だ解明はされていないが、もし見かけた場合は速やかにその場を離れ警察に連絡してほしい」とのことでした。三上さん、本当に恐ろしい事件ですよね……』

『そうですよね…本当に許される行為ではないですからね。一刻も早く犯人逮捕に繋がる情報が欲しいものです……』

『えー、続いては----------』

『----------』

『------』


「はぁ……」

溜息を吐きながらテレビのニュースを眺める。全身の火傷を負ってから日も経っていない手持ち無沙汰な時間。火傷は妹の淡く塗り重ねる能力で全身を薄く覆い保護している。自分の能力だと単色しか使えないがために周りから浮いてしまうから。

その点では、妹を、涙音-るい-を羨ましいと思う。

「…遅い……」

休日の午後3時、買い物からの帰宅が遅い家族たち。いつもなら昼には帰ってくるはずの家族。ニュースを見た後の嫌な予感。緋音は静かに立ち上がり、窓を開けると黒く大きな羽を広げ、勢いよく空へと舞い上がった。




大きくひしゃげた車。せっかくの買い物が、休日が、台無しである。

絵描きの経験なんてクソほども無い父と、絵師を引退した母も、血まみれでコンクリートに転がっている。もちろん、自分も血まみれで。

「なんの用だよ……!せっかくの休日なのに……」

痛い、痛い。ちくしょう。

買い物を終えてお父さんの車に乗り込んで、しばらく走っていたら凄まじい衝撃と爆音。気がついたら車外に引きずり出されていて……。

周りには多くの野次馬とも言える見物客。

そして……

「こんにちはー!!我々は絵師連合の《絵師狩り》でーす(笑)」

鬱陶しい。クズの群れだ。

道路のど真ん中だぞ、通行の邪魔だろ…ツッコミを心の中で入れて彼らを睨みつける。どうして自分がこんな目に…。彼らを睨みつける涙音の瞳に、滲むような赤色が宿る。

-面倒くさい、痛い、どうやって切り抜けよう……-

指先に力を込める。淡い色が肌を覆って傷を隠して保護していく。それは、一般人からして見れば、怪我を瞬時に修復したように見えたようで歓声が上がる。

「見たところ、お子さんだけが絵師って感じですねー!」

選挙カーの様な車の上で高みの見物を決め込む、スーツ姿で拡声器を使って喋る男性。

ザワザワとすっかり観客になってしまっているギャラリー達が騒ぎ出す。絵師だって、超能力?、かっこいい…、何かの撮影でしょ?、でも凄くない?、

「うるせぇわ、ギャラリーども……!」

涙音の怒りの声と共に振り払った右手から放たれたのは、円になる様に集まった大勢の野次馬の足元に大量のいばらが現れた。イメージしたのは何者も寄せ付けない棘まみれの、見るからに少しでも掠ったらヤバそうないばら。

「うわぁ!!」

「え!?何これ!ヤバ!!」

慄き退く大衆。掠る程度で抑えてやったが、姉ならば大衆をも盛大に巻き込んで更に騒動を大きくするのだろう。そして拡声器を使う彼は恐らくワザと大衆に聞こえるように言っているのだ。何のためか、絵師という存在を知らしめるために。


彼の足元、選挙カーの周りに集う人達は皆、笑っていた。

恐らく1人の神絵師の元に集った底辺絵師か、普通の絵師たち。

「何がしたくてこんな事してるの?」

「レベルアップ」

そんな事も知らないのかと言わんばかりの、短い一言。そんな事は知っている。

彼らの冷たい笑顔から逃げるように未だに動かない両親を見つめる。助けを求めたいのに、両親は動かない。

「使えねぇな…」

苛立ち紛れの言葉をついて戦闘態勢に入る。

死ぬのも、食べられるのも、嫌だ。

なら、喰われる前に、殺される前に、殺すまでだ。

こんな人数相手に、勝てるのか分からないけれど。

瞬時に大量のカラスを描き出す。カラスの多いこの地域で大量のカラスという彼らへの目くらまし。そして、姉への救援要請。

多くの人が大量のカラスから自らの顔を守る彼らへ精一杯の先制攻撃。先程いばらとは程遠い、棘が更に鋭さを増した凶悪な枝が彼らの身体を切り裂き、貫く。

絶叫に悲鳴、呻き声が聞こえる。

これで何人減ったのだろう?

バシュッ

何かが頬を掠めた。自分の能力で描き出したいばら?

いや違う。自分が描いたのはいばらの枝と棘だけで、薔薇の花なんて描いていない。それに、自分が描いたものとは少し違う。

「模写絵師…か…!」

涙音の主線のほぼ無い淡い色彩は模写しても全て同じように描くことは難しい。しかも下手くそな薔薇を咲かせてくる辺りは本当にただの迷惑な自作発言に近いものでもある。

そして、相手の攻撃を避けようとした瞬間、凄まじい勢いの何かが腹を貫く。

「が、あぁっ……!」

空中で腹を貫かれ、捕らえられた形となった涙音は先程自分の描いたいばらが腹を貫いていることに気づいた。

「……無断転載絵師ぃ……!」

怒りが言葉にこもる。

無断転載絵師とは他者が描いた絵を無断で、そのまま自分が描いたかのように使う絵師とも言えないクズ野郎である。他者が描いたものをそのままの威力で、イメージする時間さえ要さずに使用できる。たとえこちらが絵を消しても脳内にイメージが残っていればまた使用できる厄介な奴だ。

模写絵師といい、無断転載絵師といい、なんなんだ、このグループは。

「鬱陶しい、クズの塊、だね……!」


ジタバタともがく彼女の血で、いばらは赤く染まっていく。

「そう。我々はね、」


その後に続いた言葉に、涙音は驚愕した。

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