ロープウェイ
じわりじわりと動くロープウェイに若い男女が座っていた。陽は暮れかけ線香花火の最後のように揺れている。女は景色を眺め、男はその横顔を見つめた。高級レストランでのドレスコードを遵守したかのようにめかしこんだ男のポケットには小さな立方体が潜んでいた。男が切り出すタイミングを探っていると女から話しかけてきた。
「あのね、今日は遊んでくれてありがとう。」
「何だよ突然かしこまって。」
「ううん実は少し言いたいことがあって。」
女の頬が紅潮して見える。男は小さな立方体をそこに確かにあるかと握りしめた。
「わかった、言いたいことはわかってる。」
「そう…そっか。」
少しの間沈黙が続く。山の斜面はもう終わりそうだった。小さな立方体は出番はまだかとポケットの端まで出かかっていた。覚悟を決め大きく一つ息を吸い込んだのは女だった。
「別れてください。」
俯いていた男は小さく言葉にならない息を吸い込むように発し、パッと女を見上げた。その瞬間
「はい、お疲れ様でしたねー。」
強い揺れと共に地上へ帰ってきてしまった。出迎えてくれたおじさんは車内の空気など構わずにドアを開ける。女は流れる動作でいつの間にかドアの外にいた。
「じゃあね、自惚れ男!」
女の顔を見つめたが暗くなった辺りを照らす蛍光灯では彼女の恋心が見つからなかった。
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