第二話:幼馴染、清水千歳はいじらしい(デート編)
2-1:チート主人公、挑戦する
「ま、マジか……」
一馬が異世界転移から戻ってきてから三日ほど経った日の事である――その時の一馬は窮地に立たされていた。
幾度も異世界を救っている
それはテーブルの上にある二枚のチケットが関係している。そのチケットとは遊園地のチケット。
「えっとだな……これは……まさか俺も想定外だったというか……」
その窮地を脱するべく一馬はその相手にしどろもどろになりながらもなんとか説明しようとしている。
一馬の内心は相手への申し訳がない気持ちでいっぱいだった、自分から誘っておいてこの体たらくなのだから。
そうこのチケットで一馬は遊びに誘ったのだ、いま一馬が謝っている相手に。ではその相手は一体、誰か。
「悪い千歳……! まさかこの間、救ったばかりですぐに世界の危機が訪れるとは……! すまない!」
それは幼馴染の清水千歳だった。昨日、福引を引いてみたら遊園地のペアチケットが当たったので誘ったのである。
日頃、色々と迷惑をかけているだろう彼女に対しての謝罪というつもりではなく、単純に久しぶりに遊ぼうと思ったのだ。いや、迷惑料という面もなくはないのだが。
しかしそれはこうしてご破産になろうとしていた。その原因はあまりにシンプルであり、どうしようもないことであり、一馬がやらなければいけないことだ。
――異世界エンデ・ヘイムの危機、それは異世界転移者である一馬にとって避けられぬ話なのだから。
一馬としては当分は――二週間くらいは大丈夫だろうと高をくくっていたのだがまさか三日後に世界の危機が訪れるとは予想だにしなかった。あまりにスナック感覚で世界が危機に陥り過ぎだろうと思わず頭を抱えていたのが先程までの話である。
チケットの期日は日曜日までとあり、今日は金曜日。それも既に日が暮れており、実質的な時間は明日一日しかない。あまりに時間がなさすぎた。
だからこうしてその事を千歳に告げて、怒りを鎮めて、許してもらおうと思っていた一馬だったのだが――
「いや、謝らなくてもいいから……世界の危機なんでしょ? 仕方ないよ」
「うおぉ……こう、話がわかってくれる分、余計に……!」
千歳は約束を破ったことに怒らずに理解を示してくれていた。
人によってはそれは安堵するものだったのかもしれないが、一馬にとってはそうではない。怒ってくれた方が何倍も気持ちが楽だっただろう。
なんでもないように、いつも通りに千歳は振る舞い――そして次の千歳の言葉は一馬にとってあまりに致命的な一撃となる。
「それに――いつものことだし。全然気にしないで」
「ぐはっ!!」
いつものこと。確かにいつも一馬は急に異世界転移するのだが、今の状況でその一言は一馬にとって致命的であった。
千歳としてはいつも通りなんだから気にしないでという意味合いで言ったのだろう、一馬もそれを分かっているからこそダメージが大きい。
「あ、そうそう。今度、帰ってくる時は普通に帰ってきてね。普通にだから」
「お、おう……分かった」
「それとなるべく早く帰ってくること、出席日数危ないんだから。ノートはいつも通りとっておくね」
「う、うん……いつも苦労かけるな……」
その後、千歳は異世界に向かう一馬にいつも通りの注意をしていく。怪我の心配などを言わないのは一馬を信頼しているからだろう。
注意を受ける一馬は一応の受け答えはするものの、千歳の気配りが身にしみる度に自己嫌悪に苛まれていた。
最早、良心の呵責により一馬の
「うん、じゃあ頑張ってきてね」
一通りの確認を終えた後、千歳は一馬を応援とともに送り出す。そのまま千歳の部屋を出た一馬は外で呆然としていた。
それは無意識の呟きだっただろう、誰にでもなく自分自身に向けた言葉。
「お、俺はなんてクソ野郎なんだ……」
あまりの自分の不甲斐なさに一馬は自己嫌悪する、いつも自分がこんなクソ野郎だったのかと思うと一馬は死にたくなった。
ここで通常の人間ならば延々と自己嫌悪するか、諦めるかだっただろうが――当然、通常の人間ならばこんな事に巻き込まれないという事を無視しての話である――数多くの危機から異世界を救ってきた鳴雨一馬は違った。
一馬の思考は次の段階へと移行している。このまま千歳の気持ちに甘えているだけで良いのだろうか――当然、良くはない、と考えて。
そして一馬は千歳との約束、異世界の危機の二つの事を考えてある結論を出す。
「いや、このまま……引き下がるわけには行かない……こうなったら……総力戦だ!」
千歳との約束を守り、異世界の危機を救う。その両方を達成することを――つまり一日で異世界を救うことを一馬は決意した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
異世界を一日で救うにはまず仲間が必要だった。普通の人間からしてみれば一馬は万能でありその必要すらないとすら思うだろう、それでも一馬には必要だった。
通常とならば多少時間はかかるが一人でも同じ結果を出すことが出来るが今回はそうではない。一日で世界を救うとなればいくら超級異世界転移者である一馬といえども手が足りぬ、手はいくらでもあったほうが良い。
当然、超級異世界転移者である一馬の戦いについてこれるものなどそうそうはいないのだが――しかし、ここにはそれが揃っている。
一馬は自分の部屋に今回の戦いのメンバー全員を集めていた。
「……みんな、俺の呼びかけによく集まってくれた」
室内に居るその四人に向かって一馬は声をかけると自然と室内の視線が一馬に集中した。
一馬は視線を物ともせずに堂々とその場にいる全員に頭を下げた、下げに下げる。つまりは土下座だ、誠心誠意の全力全開の土下座がそこにあった。
「頼む! エンデ・ヘイムを一日で救うのに協力してくれ!」
「あー……一日って、マジで? まぁ、それでも私は協力するけど、元々そういう役目だし」
一馬の言葉の内容に驚き、突然の土下座に引いているのは異世界エンデ・ヘイムの守護神竜たるジゼル。
その力は世界を意のままに修正し、単純なる戦闘能力で言えばこの中であっても最強の存在である。
しかしそんなジゼルの反応は普通の女子のものだ。世界を一日で救うという一馬の発言は空前のものであることを理解しているが日常のトーンである。
「おう、大マジだ。なんとしても一日で終わらす」
「えっと、私としてはカズに協力しても良くて、一日で終わらせられるんなら仕事にも支障が出ないから良いんだけど……なんで一日なの?」
「あー……うん、それはな……」
そう堂々とジゼルに言い返す一馬に疑問を覚える、異世界エンデ・ヘイムの神獣の依代たる巫女ミリイ。
ミリイ自身の力はそこまででもない、しかし神獣をその身に下ろした時のミリイは世界を容易く破壊する能力を持っている。それは比喩ではなくそのままの意味で破壊してしまう。
神獣は異世界エンデ・ヘイムの理そのものである、それを自分の意のままに操るのであればそれは世界をも掌握するのと変わりはない。
しかしそんなミリイが気になることは年頃の普通の少女らしいそれだった。
「ふふっ、千歳様と遊園地に行くから。ですよね? 私も協力させて頂きます」
答えたのは異世界エンデ・ヘイムの寵愛を一身に受けたエルフの姫フォリアだ。
彼女は正しく世界に愛された存在であり、あらゆるものを手にする運命の人、世界の理以上のことは出来ないが理の中であれば完全なる万能の力を持つ。望めば世界を如何様にも浄化することは可能だろう。
しかしそんなフォリアはなんでもないことを楽しそうに、微笑ましく思っていた。
「……我、部屋に戻っていいか? スプラの対戦したい」
「待て待て! ルー、帰らないでくれ! いや、マジで色々とそういうのは分かるんだけどな! 頼む!」
呆れていたのはかつて異世界エンデ・ヘイムを滅ぼしかけた魔王の後継者ルーだった。
ルーは魔王としての実績はないがその能力は既にかつての魔王に匹敵、凌駕する程である。ルーがその気になれば世界は瞬く間に滅びへ突き進むだろう。
しかしそんなルーは世界を滅ぼすことよりもゲームをやることを優先していた。
部屋に帰ろうとするルーを一馬は慌てて回り込んで、頭を下げて頼み込む。
「むー。千歳ちゃん、羨ましいなぁ」
「はいはい、ルーはともかくミリイはそういうことは言わない。元々はあたし達の世界の問題でしょ? 協力するのは当然だし、この場合の被害者は千歳っしょ」
「それは分かってますけどーっ! それはそれなんですぅー」
そんな必死な一馬をみてミリイは頬を膨らませていた。自身の獣耳もぴくぴくと動き、全身でその感情を表していた。その様子は猫を思わせる。
ジゼルはそんなミリイに釘を刺す。異世界の事情に振り回されている一馬は当たり前であり、それに振り回される千歳も被害者なのだ。
だがそれはそれ、ミリイとしては年頃の女の子としての事情が納得を許さないらしい。
「……で、ルー。お前も力を貸してくれないか?」
「なんで我が憎きカズマを助けなければいけないのだ! まぁ、チトセには、色々と世話にはなっているが……それはそれ! 断る!」
「うぉ~~っ!! 頼む、なんでもするから!!」
それでもルーは頑なとして参加するつもりはない。それも当然の話、現在のルーにはその経験はないが一馬に倒されたという屈辱の記憶を持っているのだから協力したくないと言うのも仕方のないことだろう。
だが一馬考える理想的なパーティーとしてルーの加入は絶対的に必要だった、だからなんとしても協力してもらおうと一馬は必死に頼み込み――一馬がつい口にしてしまったその一言にルーはピクリと反応する。
「……それは真か? 本当になんでもするのだな?」
「ん? おぉ……俺に出来ることなら、するつもりだが」
「くくく! なるほどなぁ……ふむ、それならよかろう! 我も手伝ってやろう!」
一馬から言質をとったルーは気分を良くして協力することを決めた。
それは喜ばしいことだったが一馬としては楽しそうなルーがなにをさせるつもりか甚だ不安だったのでそれを聞かざるを得ない。
「あ、あのー……ルー、お前は一体何をさせるつもりなんだ?」
「フッ、知れたことを! 我が求めること、それは貴様の三匹のレギュラーポケモンを――」
「おい、やめろ。ぶっ殺すぞ」
ルーが言おうとしていたそれは一馬にとっての
「――というのは冗談で、貴様を一日ほど奴隷にして跪かせることよ!! フハハハ!! 流石、我。とても賢い!」
「あー! あー! ルーちゃんずるい! 私も私も!」
意気揚々とルーが言い放ったそれに一馬は頭を抱えた。こいつはなにを言っているのだろうと一馬は思う。
また何故かミリイがルーを羨ましがったことも一馬には意味がわからなかった、ミリイもそんな趣味があったのか。
一馬としてはルーの言いなりになることは非常に不安で出来ればそんな真似はしたくはなかったが、ここで折れなければ話が進まないと思って諦めることにした。
そしてルーを羨ましがっているミリイを放っておくことも出来ない。どの道、全員に埋め合わせをする必要があったしここはこれで押し通すことにした。後腐れをつくるのも嫌だったので公平にするべくそれを全員に伝える。
「分かった、分かった! ルーもミリイも付き合ってやる! それとフォリアもジゼルにも付き合う! それでいいな!」
「やったーっ! カズ大好きーっ!」
「お、ラッキー。なに頼もっかなー」
ミリイは一馬に抱きつき、ジゼルは思わぬ拾い物をしたと喜ぶ。そんな中フォリアは申し訳無さそうな顔をしていた。
こういう時、フォリアのような反応があると一馬としてはこれで良かったなという気分になった。少なくとも出し惜しみをせずに済んだのは確かである。
「どうもすみません、一馬様。 私はよろしいので……」
「いいんだ、フォリア。どの道、今回は俺の都合優先なんだから埋め合わせしなきゃいけないし、そうしなきゃ俺も収まりがつかないしな」
だからフォリアが謝ろうとしたのを一馬は止めて、覚悟を決める。
それは異世界救済についてのそれではなく、この後の、少女たちに一日付き合うことが確定したことについてだった。
「しかし……これ」
今回、異世界救済をともにすることを決めたパーティーを眺めてルーはぼそりと呟く。その呟きは誰かの耳に届いたかどうかはわからない。
ただ一つ言えることはルーのその呟きはあまりにも的確なものだったということである。
「……以前に貴様達にフルボッコにされた魔王の我だからこそ言うが――相手が可哀想すぎるぞ」
――異世界転移者、鳴雨一馬。【
――神獣の巫女、ミリイ。【
――森の姫、フォリア。【
――守護神竜、ジゼル。【
――魔王、ルー。【
以上が今回の異世界救済パーティーである。
パーティーの全員がそれぞれ世界を滅ぼしうることが可能な
これらを相手にすることになるであろう敵を思うとルーは同情せざるを得ない、戦った事のあるかつての自分を思い出すとあまりにも可哀想だった。
こうして異世界最強パーティーによる
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