06 「おはよう」の挨拶を
例えば、そう。
瞬きをするように世界が終われたのなら
それは素敵なことでは無いかしら?
「『おはよう』と言って目を瞑った瞬間、訪れるのが終焉なんて素敵よね」
「は?」
「痛みも悲しみも無い幸せなまま。これほど素敵なことはないわ」
「お前はほんと……可笑しなことばっか考えんなぁ」
「あら?普通よ」
「お前が普通なら世の中異常だよ」
吐き捨てるような言葉と同時に頭を軽く叩かれた。
「んで?何で、んな思考回路に行ったわけ?」
聞いてやるから言え。とばかりの上から目線の偉そうな態度にああ、と笑う。
「意味はないわよ。ただ朝、目が覚めて貴方に「おはよう」と言って瞼を閉じたら世界が終わってた。なんてロマンチックじゃない」
そう考えていたら口から零れていたの。
そう言えば、はぁ、と溜め息。
「……とりあえず何でおはよう?普通はおやすみとかじゃないのか?」
「大多数なんて知らない。ただ大切な人になんてことない挨拶を言い合えるのは素敵な事でしょう?私はとても幸せだわ」
だからその瞬間に世界が終わればいいと思ったの。
好きな人に。
大切な人に。
いつもと同じ言葉を言って、同じ様に返されて。
そうして一瞬瞼を閉じた先が終焉だったなら。
それはただただ、幸せだと思うの。
「バカじゃねぇの?」
「あら?どうして?」
「世界が終わったら、その幸せとやらはもう二度と来ないんだぜ?なら死ぬまで続いた方が幸せだろ」
「でも幸せがいつまでも続くなんて絵空事よ?」
「おまっ、……ロマンチストなのかリアリストなのかどっちかにしろよ」
人が大真面目に言ったっつうのに。
顔を手で覆って呆れた声で手の隙間から見える瞳で私を睨み付ける貴方にクスクスと笑いながら、そのしっかりとした体にぎゅうっと抱き付いた。
「まぁ、貴方がずっと私を幸せにしてくれるのなら、それは絵空事ではなくなるわね」
「……バカかお前は」
背中に回された腕と耳元で囁かれた言葉。
鼓動が高鳴り唇が重なり合う瞬間。
幸せは確かに延長する。
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