05 愛さレベル

いつだったか。

貴方は気紛れにひとりの女に口付けた。

私と貴方との関係は周知の事実で。

その時の混乱は凄まじいものだった。

けれどソレもただ貴方の気紛れから来るものだと私は思って居たんだよ?


なのにこれはなかなか。


「悪い。今日はこいつと帰るから」


そう言って見知らぬ女の肩を抱いて言う恋人。

私と付き合ってから、そこは私の定位置だったのに。

貴方は平然とその場所に他の女を置くのね。


小さくなっていく貴方と、肩を抱かれて勝ち誇ったような目をする女をただ見送ることしか出来ない私。


ああ。どちらが彼女なのかな?


いつの間にか減った、電話とメール。

貴方とは同じクラスだから、全く会わないわけではないけれど。

交わらない視線も。

交わされない言葉も。

けれど受け続ける女の妬ましい視線も。


全部。全部。煩わしい。




なーんてね!

私がそんな殊勝な性格なわけ無いじゃーん。

むしろその男の興味を私から移してくれてあざーっす!

もうね。ホントにウザかったんだよ!

毎日毎日ストーカーかっ!って突っ込みたくなるほどの携帯の履歴も。

教室でクソ暑い夏ですら引っ付いてくる状態も。

ちょっと他の男子と会話しただけで「浮気かっ!」なんて疑われることも。


もうそんな地獄が無いなんて……7あのケバイ女子様々だわぁ。

顔が良くても他がダメとかね。ムリムリ。

よーし。さっさと別れて次は中身重視にしよう。

いや。ていうか、脅されて付き合うことがまずなかったんだって。


だからさ。

この状況、なに?


「別れるって何言ってるわけ?意味分かんないんだけど?他に好きな男でも出来たの?ないよねぇ?あ、もしかして誰かに何か言われた?じゃないとお前が俺と別れるなんて言うわけねぇもんな。誰だよ。そいつ今からぶっ殺してくるからさ。教えろ」


いやいやいや。なに?この人?

なんか性格変わってません?

私はただ、「その子が好きなら別れて」って言っただけですよね?

どうしてその子が蹲っているんですかね?

むしろどうして私は縛られているんでしょうかね?


疑問符だらけの思考に、けれども貴方は待ってはくれない。


「早く教えろよ?じゃないとオレ、片っ端から殺らなきゃいけないじゃん」


漢字変換ーっ!

え?何?なんでこの人こんなにキレてんの。意味分かんない。


「なぁ?何か言ったら?それともアレ?もしかして最近構ってやらなかったから拗ねてそんなこと言ったわけ?なら安心しろよ。単にお前の気持ちを確かめる為に付き合ってやっただけだから。あんな女お前の足元にも及ばないクズにしか見えねぇ」


ナイスポジティブ!

ちょいちょい聞こえちゃいけないような単語が聞こえたけどこの際気にしない!

私は自分が一番可愛い。


「さ、寂しかったから……ごめんなさい」


誰ですかねこれ?鳥肌立つわー。

とか思っちゃうくらい猫なで声が出たけど気にするな!

私は自分が一番可愛い。(二回目)


「可愛い。でもんなこと言うのは可愛くない」

「ご、ごめんさい」

「今回だけは許してあげるけど、次言ったら……監禁するよ?」


ぶんぶんと首が折れるんじゃないかってくらい縦に振れば、ニコッと笑った男が抱きしめてきた。


やばい。これ今回は逃げられたけど、別れるとか禁止語句になった。

冗談じゃなく言った瞬間に監禁されるなこれ。

だって目がマジだもん。

あははー、……どうしよう。


「愛してる。だから一生一緒に居ような?」


それ、聞いてる意味あんの?ってくらい有無を言わさない言葉の圧力に首を振らざるを得なかった。



てか腕の拘束いつ解けんの?

未だに私を抱きしめる男に気づかれないように、私は溜息を吐いた。

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