04 何をされてもきっと

恋人が浮気をした。


だけど特に何かを思うことはない。

だってそもそも私は彼が好きではないのだから。

彼が私に告白をしてきて。

その時の顔が可哀想なくらい真っ赤で。

それがあまりにも可愛くて。

所謂美形、なんて言われてる彼と付き合ってしまった。


それから、空き教室で彼と一緒にお昼を食べて。

無言の中、手を繋いで。

触れ合うだけのキスをして。


それは確かに幸せだった。


だけどいつの間にか彼は違う女の子と居るようになった。

それを見ても何も言わない私に彼が怒って。

そんな彼に私は困ってしまった。

けれど別に私は彼と別れるなんて考えなかったんだよね。

だって始まりは彼からだった。

だから終わりも勿論彼からの方が良いのだろうと思って。



そうやってずっと、今では手すら繋がなくなってしまった形ばかりの恋人でいてみた。



学校を休んだ彼のお見舞いを担任に言い付けられて一人暮らしの彼の家に行った。

すると甲高い声を上げる見知らぬ女と彼の声が聞こえてきて。

またか。くらいの気持ちで気を使ってリビングでソファーに座ってテレビを見ていたんだ。


どれくらい経ったかな。

寝室から出てきた彼と目が合った。

息を詰めた彼は真っ直ぐに近寄ってきて、座っている私と目線を合わせるように床に膝を付ける。


「なんで家に……いや、それよりどうして泣いているの?」


混乱しているのか所無さげに視線をさ迷わせる彼。

その言葉で自分が泣いていることにようやく気付いた。

同時に自分の中にある気持ちにすら、気付いてしまった。


ああ。なんだ。

私は悲しかったのか。

浮気されて苦しかったのか。

なんだ。


「貴方を好きになってしまったから、私と別れて」


好きだと気付いたら、気付いてしまったら。

私は貴方の側に居る他の女の子に嫉妬しちゃう。

浮気をするだろう貴方を憎んでしまうかも知れない。

そんな醜い感情は持ちたくない。

だから。貴方を好きなうちに別れてください。


ちゃんと言葉に出来ているか、伝わっているか。

泣いているのを自覚した瞬間から涙が止まらなくなってしまってそれすら分からないけれど。


それでも、私はこんな最後を迎えたかったわけじゃない。

多分、私は彼と別れたくなかったんだ。

だから何をされても別れだけは彼からだと決めていた。


始まりが彼だから。

終わりも彼だと。


彼の口から別れを言われるまでは私は彼女なのだと。

今だって、切り出したのは私のくせに貴方の言葉が怖くて両手で顔を覆って下を向く。


「傷付けてごめん。泣かせてごめん。でも、好きだから別れたくない」

「……ん、で」

「ごめん。試してた。嫉妬して欲しかった。最低なことしてるのは分かってた。それでも確かめたかったんだ」


気に掛けて欲しかった。

好きになって欲しかった。

同じだけ愛が欲しかった。


そう顔を覆う腕を掴んで目を見て言う彼は真剣な表情をしていて。


「俺を好きだと言ってくれた。もう二度と他の女なんて見ないから。別れるなんて言わないで……」


泣き出しそうな彼は必死に頭を下げる。

そんな彼に泣きながら抱き付いた。

スッポリと私の身体を覆うように伝わる熱。


浮気をされても。

何をされても。

ずっと彼が好きだと分かってしまった。



私はきっと、貴方から離れられない。

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