領主と女中と口紅2
いつもより少し豪華な夕食を終えて、葡萄酒や発泡酒を散々飲み散らかしたライア・ロビンソンは居間のソファーで居眠りこけていた。
「先生、こんなとこで寝ないで部屋で寝てください」
自身も赤い顔をしながら、ロアはライアの肩をゆする。
が、ライアは気持ちよさそうにいびきをかくだけで、目を開こうとはしなかった。
「……タオルケットでも掛けとこうか」
「そうですね」
マリアは別室からタオルケットをとってきて、ライアにかぶせた。
「ロア様ももうおやすみになっては?」
「……そうする」
重くなってきた瞼をこすりながら、「そうだ」とロアはポケットから箱を取り出す。
「これ、マリアにあげる」
「何ですか、これ」
「先生からのお土産。口紅だって」
「口紅ですか。なら私ではなく貴女が持っていたほうがいいのでは?」
案の定、マリアはそう言って素直に受け取らなかった。
「私はいくつか持ってるから。ね、どうぞ」
「……そうですか?」
しぶしぶといった感じで、マリアはそれを受け取る。
マリアはそのままそれを給仕服のポケットに入れて、厨房へと下がろうとしたが
「待ってマリア。どんな色か見てみたいから開けてみて?」
「……もう、気になるならご自身で確かめればいいのに」
マリアは呆れた顔をしながらもポケットに手をやって、箱の中身を取り出す。
箱から出てきたその口紅は、ロアとマリアの想像と少しだけ違った形状をしていた。
一般的な固形のスティック型ではなく、どちらかと言えば爪に塗るマニキュアのような小瓶だったのだ。
透明な瓶からはきらきらとした薄紅色が覗いており、可愛らしい。
「綺麗、ですけど。これ、口紅なんですか?」
「口紅って言ってたんだけどな……。液状だね?」
首を傾げつつも、マリアは蓋を回して開ける。蓋にはそれこそマニキュアを塗るような、小さな筆が取り付けられていた。
「……口紅なんですよね?」
「ちょっと貸してみて」
ロアは瓶を受け取り、鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。瓶から香る匂いは、マニキュア独特の刺激臭ではなく、まるで花のような甘い香りだった。
「形は変わってるけどちゃんと口紅っぽい。試しにつけてみる?」
「え、今ですか?」
「うん。駄目?」
「……駄目ではないですが、……」
マリアは少し逡巡を見せる。
普段化粧をしないので、いきなり試すかと言われてすぐに乗り気になるものでもない。
「不安なら私が先に試そうか? 間接キスになっちゃうけど」
「前から思っていましたけど、酔うとわりとひどいこと言いますよねロア様って」
「え⁉ 待って、そんなに酔ってないよ!」
「そうですか。では忘れてください」
「無理そう! 引きずる! うわーん!」
半泣きのロアに、マリアはやれやれと溜息をつく。
本人は酔っていないと言い張っているが、顔色や言動を見れば酔っているのかそうでないのかぐらい分かる。
こういうときは面倒なので、はやく寝てもらうに限る。
「私が
「うん!」
まるで忠犬のように頷くロアからマリアが口紅を受け取ろうとすると、
「塗らせて?」
「え」
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