第14話 例えば、中国企業・・・・・・

 私が中国企業について知っている事は少ないのですが、限られた知識に基づいて、幾つか語っていきます。


 中国の人口は15億人前後ですが、共産党員が1億人弱もいるそうです。池上彰氏の報道バラエティー番組なんかを視聴していれば、学生の皆さんも知っている事実だと思います。

 ところで、中国共産党員はガチガチの政治思想を持っている者なんだろう――と思いませんか?

 勿論、共産党思想にドップリと浸かっている人もいるでしょう。中国共産党や政府機関で働いている人は、そう言う人なんだと思います。

 でも、大半の共産党員は普通の人です。(日本の共産党員の方とは全く違います)

 中国の中でも、学業が優秀で、品行方正な人を対象として、周囲から共産党員に推薦されるそうです。詳しくは知りませんが、認定試験みたいなものは有るのでしょう。面接で「中国共産党を信奉しますか?」みたいな質問も飛ぶでしょう。

 一方で、中国は“上に政策あれば、下に対策あり”の御国柄です。面接では「幼い頃から中国共産党を信奉しています」と模範解答を返す事は容易に想像できます。

 大半の共産党員の方は、「就職活動で有利だから」等の理由で、推薦されたら有り難く共産党員となるみたいです。

 つまり、民間企業で共産党員の方を見掛けたら、「この人は中国人の中でも信頼できる人物だ」と、判断材料の一つにすると良いでしょう。


 今、“民間企業”と書きましたが、中国には“民間企業”と“国営企業”が有ります。

 第12話『日本の民間企業に民主主義は無し』で語った通り、日本の主だった国営企業は民営化されたので、貴方はピンと来ないかもしれません。

 半世紀前まで日本では日本国有鉄道、通称“国鉄”が有名でした。“親方、日の丸”意識が強く、つまり会社は倒産しないとたかくくっているので、労働組合は年中行事の様にストライキを行い、賃上げ交渉に熱中していました。

 現在のJRとは全く別の企業風土を持った企業で、寧ろ、韓国の出鱈目な労働組合に振り回されている現代自動車に似ているかもしれません。

 中国の株式市場に上場している国営企業も存在するので、国家が100%の資本を握っているわけではなさそうです。でも、大半の出資比率を握っており、“親方、共産党”の企業です。

 けれども、“国鉄”とは全く違います。

 労働者の福利厚生を大事にしているものの、労働組合が狂暴化していません。中国共産党の指導が労使双方に行き届いており、過激な扇動家が現れれば、公安警察が乗り出してきます。

 創立時期の古い企業、事業開始時の設備投資が巨額となる産業の企業には、民間企業よりも国営企業が多いようです。

 企業ですから、株主である国家から儲ける事を期待されているのですが、人民の幸福追求も同時に求められます。労働者の福利厚生のみならず、環境保護の規制なんかにも素直に従います。

 民間企業に比べると、相対的には共産党員の従業員も多いでしょう。未確認ですが・・・・・・。

 一方の民間企業は「利益第一」の行動を採ります。第8話『日本人の誇るべき気質、それは「地道」に取り組む姿勢』で語った外国企業の典型です。

 つまり、日本企業がビジネスで手を組む、或いは日本人が就職先として考える際、相対的にはストレスを感じない――と言う点で、民間企業よりも国営企業の方が肌に合います。


 次に、中国人に関する私なりの分析です。

 中国人と言うか、日本人以外の世界中の労働者に言える習性みたいですが、従業員同士で給与明細を見せ合います。同一企業内だけに止まらず、親戚縁者、友人・知人で収入の情報を交換します。

 だから、勤務先の給与レベルが低いと判明すると、直ぐに転職の準備に入ります。これは中国人に限りません。欧米の事は全く分かりませんが、東南アジアやインドまで含めたアジアの広範囲に渡って共通する習性です。

 余談ながら、この貪欲さと言うか、積極性を日本人はもっと見倣っても良いように感じます。

 さて、本題に戻りますと、優秀な人材ほど高給取りなのは全世界に共通した現象ですが、アジアでは人材の需給関係でレバレッジが効き易いようです。

 経済成長に伴って人材の需要は増えているけれど、人間の教育には時間が掛かります。貧富格差を背景に教育を満足に受けられない子供が多ければ、自国民の全員が優良な労働力になるとは限らない。

 だからこそ、アジア各国では秘かに給与水準の引上げと言う人材争奪戦が始まっているのです。

 昨今は、部長以上の給与レベルを比較すると、日本企業よりもアジア企業の方が高い――と言う経済紙の調査・分析記事をく目にします。これも頭の片隅に置いておくべき情報です。


 引き続き、中国人に対して私が感じる事を列挙します。

 中国人は合理的に外国人起用を判断するイメージが私には有ります。

 古くは8世紀、遣唐使として中国に渡り、唐朝玄宗に仕えた安倍仲麻呂が有名です。

 私自身にもビジネス交渉団の一員として中国人と接した経験が有ります。

 彼らは非常にフランクで率直でした。客人を持て成す配慮に溢れ、友好的な雰囲気で接してきました。当方の交渉材料を欲していたと言う事情が有るにしろ、外国人を警戒して中々距離を縮めようとしない日本人とは明らかに違う態度でした。

 それ以外にも中国人の庶民と接した経験が何度も有りますが、内陸部の貧しい地方から沿岸部に出稼ぎに来た同邦人よりも寧ろ、我々外国人の方に心を許す傾向が見受けられます。

 私が邪推するに、国籍を問わず、犯罪リスクを懸念して貧者を遠ざけるようです。まあ、自己防衛の気構えが徹底しているとも言えます。その点、我々日本人が中国で罪悪を犯す可能性は低く、だからこそ警戒心を解くのではないでしょうか。

 但し、実際に中国人若人わこうどと接触した事が無い私には断言できませんが、念の為、貴方にアラームを鳴らしておきます。

 1989年の天安門事件以降、中国では反日教育が続いています。今時点で30歳未満の若者は、大勢論として、反日教育に染まっている可能性が有ります。

 比較対象として挙げるなら、太平洋戦争後に独立した韓国では、建国当初から反日教育を徹底してきました。報道ニュースを視聴した我々日本人が理解できない数々の反日運動を繰り広げる韓国人と同じかもしれません。

 一方で、太平洋戦争時に日本人が犯した蛮行は扨置さておき、現代日本人の大半は信頼に足る人間だ――と言う事実は、我々と直に会えば確かめられます。日本を訪れる中国人旅行者の数が増えているので、中国共産党のプロパガンダを否定せずとも肯定はしない――そんな開明的な若者だって増えているかもしれません。

 貴方が社会に出て付き合う世代は、天安門事件以降に育った世代なのです。実際に中国企業と接点を持とうとする時には、そこら辺を自分自身で見極めて下さい。


 また、大半の中国人は日本人と違い、定年まで一つの企業で勤め上げよう――と言う発想をしません。正確には、有名な企業に就職できたから、自分の人生は安泰だ――とは考えません。

 何故ならば、現時点で半世紀も続いた中国企業が殆ど存在しないからです。そんな長寿企業は国営企業の一部に過ぎません。

 また、日本以外の諸外国に共通する話ですが、中国の年金制度も充実していません。

 少なくとも、日本の高齢者の様に、慎ましやかに暮らす限り、働かなくても生活できる金額の年金を受け取れる――恵まれた環境ではないのです。

 医療費負担額が極端に抑制される老人医療制度なんて存在も、私は聞いた事が有りません。

 子供が養ってくれなければ、途方に暮れます。路頭に迷います。

 ところが、第10話『人口動態』で軽く指摘した通り、長く続いた一人っ子政策の弊害で、日本に遅れること数十年で、日本よりも更に激しく高齢化が進みます。

 男女2組4人の祖父母世代を男女1組2人の子供が支え、その子供世代を1人の孫世代が支えるのです。

 2015年に一人っ子政策が廃止されました。翌2016年の出生率は反転して期待を持たせますが、2017年の出生率には大した改善が見られませんでした。

 長く続いた少子化時代に“子供を耽溺する文化”が根付いた結果、子供の教育費用がかさむのみならず、子供の結婚時に息子側の親が結納金代わりに高価なマンションと新車を買い与える風習に怯え、2人目・3人目の子供を儲ける気力が生まれないそうです。

 この様な社会に暮らすと「千載一遇の儲けるチャンスでは徹底的に金を貯めておこう」と奇策をろうする誘惑に駆られ易くなります。“上に政策あれば、下に対策あり”の御国柄ですしね。

 当然ながら、独立志向の強い中国人が多いです。良く言えば、自分の運命を切り拓こうとする起業家精神が旺盛です。悪く言えば、民間企業の行動原理である「利益第一」の源泉です。

 だからこそ、中国共産党による強権的な統治能力が中国と言う国家を治めるには不可欠なのです。

 中国の国情を語っても、貴方の就職活動には無意味ですね。

 私が伝えたい事は、「貴方が中国企業の門戸を叩こうと思い立った場合、定年まで骨をうずめよう――等と無謀な事は、努々ゆめゆめ考えることなかれ」と言うアドバイスです。

 但し、キャリアアップの一環だと割り切るならば、貴方の実力を鍛錬するに最適な研鑽けんさんの場となるでしょう。


 最後にもう一度、年金の話です。

 勤め人ではない若人わこうど、つまり国民年金の若い加入対象者の間では、年金財政の破綻を危惧して「納めた保険料よりも少ない年金しか返ってこない」と諦観し、国民年金に加入しない者が増加中だと聞きます。

 一方、企業に就職する若人は、給与天引きで厚生年金保険料が徴収されるので選択の余地を持たないのですが、本人と同額を雇用主である企業も日本年金機構に納めるため、年金財政が危うくなったとしても、“本人の納付額よりも少ない年金しか支給されない”事態は考え難いです。

 少なくとも年金に関しては、企業に就職する者が相当に恵まれています。

 これは日本企業に限らず、外資系企業の日本法人に就職した場合でも同じです。日本の法律に従うのですから。

 ところが、中国本土の中国企業に就職した場合は如何どうでしょう?

 中国企業が日本年金機構に貴方の年金保険料の半分を支払う事は絶対に有りません。ですから、貴方の加入する年金は、厚生年金ではなく、国民年金となります。

 まあ、中国企業に限った話ではなく、外国企業に共通する注意点です。

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