第13話 日本企業と外資系企業
私が就職活動をした際、外資系企業も選択肢の一つとして念頭に浮かびました。でも、早い段階で選択肢から外しました。
何故なら、自分に自信を持てなかったからです。私は日本の大学を卒業予定と言うだけの平凡な人材に過ぎませんでした。
「外資系企業では、無能だと判断されると直ぐに解雇される」と言う風聞が学生の間に広まっていました。会社訪問時に「本当ですか?」と質問したら、先方社員は口を濁していたから、噂は真実だったのでしょう。
私自身は自分の選択した就職先が間違っていたとは思っていませんが、今から振り返ると、外資系企業を選んでも良かったかな。少なくとも解雇リスクを嫌気して、選択肢から外す必要は無かったな・・・・・・と、同時に思ったりもします。
まず貴方に伝えておきたい事は、第6話『素材産業と組立産業(その①)』で語った通り、外資系企業と
つまり、貴方が何らかの大志を抱いて就職戦線に臨もうと意気込んでいる限り、その様な人材が二の足を踏むべきではありません。
反面、日本企業では終身雇用制が前提となっています。今後も終身雇用制は継続するのか?――は、私も自信を以って断言きませんが、高い確率で継続すると思います。
何故なら、日本の労働力人口は急速に減少して行きますので、経済界全体としては人手確保が大命題であり続け、だからこそ終身雇用の文化は
終身雇用制の弊害は、まず採用に現れます。
無能な人材を採用しても、40年前後も雇い続けなければなりません。だから、採用時に学生を選別するフィルタリングを強化する。ところが、採用活動は数ヶ月から半年の短い期間で目途を着ける必要があり、しかも一緒に働かない段階で人選するのですから、所詮は賭け事と同じです。
賭け事の勝率を上げるならば、ブタ札の混合率の少ない集団から採用するのが無難です。そう考える結果、学歴重視の採用と成らざるを得ないわけです。
それでもブタ札が混じる確率をゼロには出来ません。大学入試の才能と、勤め人として成果を上げる才能とは、似て非なるものです。
次なる論点として、民間企業では部下が上司を選別する事は出来ません。前話『日本の民間企業に民主主義無し』で語った通りです。
人事異動の結果として、貴方がダメ人材の部下となった場合、貴方のキャリアは日の目を見なくなる可能性が高いです。
業務上の成果が上がらない原因はダメ上司に有ったとしても、周囲から見ると、ダメ上司の差配するチーム全体が無能ゆえに成果が上がらないのだ――としか評価の仕様が無いからです。
これが終身雇用制の第二の弊害です。この様な不運に遭う可能性は、外資系企業の方が小さいと思います。
また、外資系企業の場合、公用語は親会社或いは本社の所在する本国の言語となります。一般的には英語でしょうか。
勿論、日常業務は日本語でしょう。職場同僚や社外の取引先では日本人が殆どでしょうから。でも、本国に業務報告する。或いは、本国から日本に出張してくる社員の相手をする等、英語で意思疎通する場面が多々有るはずです。
こう言う機会は、貴方の語学力を磨く最適の場となります。
職業上の言語なんて慣れの問題です。別に貴方は、外国語で文学小説を書き、ノーベル文学賞を狙おうなんて考えていないのですから。
私は、初老の域に差し掛かってから、業務上で英語を駆使する必要に迫られました。それまで社内のTOEIC試験から逃げ回っていたのですが、そうも行かなくなりました。
その際に或る先輩から英語習得の助言を頂きました。
「読むだけでは上達しないぞ。口に出せ。視覚だけでなく、口内感覚と聴覚と、複数の知覚で体得しないと英語力は身に着かない」
その助言を素直に聞き、帰りの通勤電車の中で英字新聞をブツブツと小声で読むようにしました。私の隣に立つ乗客からは「変な奴だ」と思われたでしょうね。
一度、電車の優先席の前の吊革に
「その年齢で英語の勉強とは大変ですね。私も苦労しました。是非座って、ゆっくりと勉強して下さい」
と、座席を譲って頂いた事が有ります。何だか複雑な気持ちになりました。
まあ、私の英語力は他人に自慢できるレベルではないですが、40歳代後半の人間が2年程度の音読練習を重ねた結果、TOEICの点数が580点から720点まで改善しました。
20歳代の
就職活動時に英語力で自信が無くても、尻込みする必要は有りません。
考えてみるに、アメリカ人は知能・学力レベルを問わず、全員が英語を話しているのですから、貴方に出来ないはずが有りません。所詮は“慣れ”なのです。
但し、就職活動時にTOEICの点数が高い方が、日本企業・外資系企業を問わず有利ですから、直ぐにでも英字新聞を音読し始めましょう。
外資系企業に就職する際に抱え込む最大のリスクは、本国の意向で日本から撤退するかもしれない、と言う点です。
こればかりは貴方の努力だけでは
でも、もう少し冷静に考えてみましょう。
貴方は外資系企業での勤務を通じて語学力を磨いています。日本からの撤退は、貴方の落ち度ではありません。
そうです。自分のキャリアに自信を持って、転職すれば良いのです。
私が就職した大手民間企業は中途採用をしていませんでした。
でも、世の中では、東証一部上場企業でも中途採用している企業は多いです。幾つかの企業のホームページを覗いてみて下さい。中途採用者の採用窓口を明記している企業数は、貴方の想像以上に多いはずです。
第10話『人口動態』や第11話『海外マーケットに羽ばたけるのか?』で語った通り、今後は海外マーケットを目指さざるを得ない日本企業が増えます。
そう言った企業は、海外進出しようにも、語学力に長けた社員が不足しています。現地人との意思疎通には商社マン辺りが通訳を兼ねるのですが、商社マンに重要な企業秘密までは話せません。
英語圏の外資系企業に就職していれば、本国のアメリカで再起を期するのも選択肢かもしれません。アメリカでは転職を繰り返してキャリアを積んで行くのが当たり前ですから、活路は拓けるのではないでしょうか。
私は、欧米の外資系企業だけでなく、中国の外資系企業も狙い目ではないか?――と、個人的には思います。
中国が資本主義経済に舵を切った時期は鄧小平時代の1990年前後ですから、まだ数十年の歴史でしかありません。中国企業もビジネス経験を十分に蓄積しているとは言えないでしょう。まして、中国人おや、です。
新入社員として中国企業の門戸を叩く事は私も推薦しないのですが、日本企業或いは欧米の外資系企業で一定の経験を積んでから転職すると、中国企業では重宝されるように思います。
転職時点で中国語が
始めは中国企業の日本支社に就職するのでしょうが、中国本土の親会社、或いは第三国の支社に移る選択肢も視野に入るのではないでしょうか。
中国は、御存知の通り、欧米主導で築かれた世界標準に反発し、自国の巨大な人口を武器として中国式標準を世界に広めようと画策しています。
これからの数十年、労働力人口の増える地域はインド、東南アジア、アフリカ等です。インドは地政学的に中国と距離を置くでしょうが、インド以外の地域は中国政府の一帯一路政策を取り込もうとするでしょう。
中国に外交的軍事的な不安を感じても、自国の経済的発展を目指すならば、背に腹は代えられません。アメリカや中国に伍する大国を目指すのでなければ、中国政府のバラ撒く資金を取り込んだ方が得策です。
日本人の誰よりも先に中国式に慣れる事は、引退までの40年間を生き抜くに当たり、結構なアドバンテージになると思うのです。
しかも、世界中に散らばる華僑も含めれば、中国語を話す人口が世界で最も多いのです。人生の選択肢を増やす上で、無視できない要素です。
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