第3話 同族企業と非同族企業
同族企業に就職した貴方(貴女)が社長になる可能性は、創業者一族と姻戚関係を結ぶ場合を除くと、限り無くゼロに近いでしょう。
でも、冷静に考えてみましょう。
前話で、私は『大企業に就職するデメリットは、同期の人数が多い事だ』と書きました。大企業に就職するならば、
加えて、競争相手は同期入社の同僚だけではないのです。社長の任期は会社に依って違うと思いますが、
つまり、大企業に就職した場合でも、社長に就任する可能性は1%も無いと考えるべきです。
自分の才覚に余程の自信を持っているならば話は別ですが、大企業には貴方よりも優秀な人材が入社していると考えるのが現実的であり、社長就任を夢見て就職先を決めるのはナンセンスです。
その心意気は大切ですが・・・・・・。
ならば、就活生の観点から見た同族企業と非同族企業の違いは何でしょうか?
私は「企業存続の永続性」に尽きると思います。
私は若い頃に、当時仕えていた役員から、以下の様に講釈された事が有ります。
「この業界にも立派な同族企業が存在しているよな。
我が社の様なサラリーマン企業と同族企業の最たる違いは何だと思う? それは、長期的展望に立って経営判断をするか否かだよ。
同族企業の社長は20~30年と長い期間、経営トップに君臨するよな。普通のオーナー社長は自分の会社の発展を願って経営判断する。遠い将来に自分の経営判断が社業に貢献するか否か?――と言う判断が出来るんだよ。
例えば、中国や東南アジアの経済が数十年後に発展すると誰もが予想している。でも、中国や東南アジアで工場を建設すると言う経営判断は、サラリーマン社長には難しい。
だって、自分の任期は5年程度だから。5年程度で工場を立ち上げて、生産・販売を軌道に乗せて、収益を黒字化させるなんて、普通は有り得ない。そんな“濡れ手に粟”みたいな事業のネタが転がっていたら、誰もが殺到するさ。
つまり、自分の任期中は「赤字プロジェクトの推進を決断したバカ社長」と言う醜聞に
長期的に考えて事業の種を蒔く点では同族企業に軍配が揚がるな」
当時の役員の講釈を至言だと思いました。
「欧米企業の経営者は短期的視点で判断するが、日本企業の経営者は長期的視点で判断する。だから、戦後の日本企業は発展を遂げたんだ」
と、1990年代には盛んに言われていました。アメリカの不動産を買い漁った日本人が自信過剰に陥り、バブル華やかなりし時代の論調でした。
その後の30年を日本企業の社員として見てきましたが、別に「日本企業だから長期的視点で経営判断している」わけではないな――と言うのが私の感想です。
考えてみるに、当時、アメリカで畏敬の念を持って話題に挙がった代表的な日本企業は、自動車であれば、トヨタ、ホンダ。家電であれば、松下、ソニーでした。いずれも創業者の遺訓が色濃く残る時代であり、その創業者が過去に下した経営判断の残照を受けて繁栄を謳歌していただけではないでしょうか。
さて、まずは同族企業を賛美しましたが、リスクが無いとは私も言いません。
最大のリスクは、オーナー社長が暴走した時に誰も止められない事だと思います。
こう書くと、いかにもオーナー社長が暴走しそうですが、現実問題としてオーナー社長が暴走するケースは稀有なんだと思います。
何故なら、会社が倒産した時に最も被害を受ける人はオーナー社長だからです。
従業員は転職する迄の間、路頭に迷えば済みますが、オーナー社長の場合は資産が大きく目減ります。借金の担保として自宅を抵当に入れているかもしれません。少なくとも、所有していた株式は紙屑と化します。
だから、オーナー社長は慎重に経営判断するはずです。
一方、昨今のニュースを見ていると、非同族企業だから暴走しないとも言い切れないようです。三菱自動車や日産、東芝や神戸製鋼所の事例を目にするに、解決の鍵は別に有るのでしょう。
私自身は、暴走を
サラリーマンとは上司に生殺与奪権を握られた存在です。誰だって上司に盾突くのは怖い。でも、おかしい――と感じても唯々諾々と従うだけのイエス・マンが
まあ、気骨の有る社員を現実には揃えられないからこそ、大企業は社内通報窓口を設け、会社に生殺与奪権を握られていない外部の弁護士事務所に対応してもらう体制を整えるのでしょう。
でも、誰かが弁護士に内部告発する前に、社員の間で自浄作用が機能するのが理想なんだと思います。
まあ、理想を語っても、就活生への助言にはなりません。実際問題、就活中の学生が気骨の有る社員比率を見極める事なんて、絶対に不可能だと思います。
私が伝えたい事は、入社して以降、何だかイエス・マンの多い会社だなあ――と感じたら、秘かに転職しても通用するスキルを身に着け始めた方が無難ですよ、と言うアドバイス。
その会社で40歳を迎えたならば、既に貴方はドップリ浸かっているでしょうから、茹で蛙と同じく、もう手遅れだと考えた方が良いでしょう。実際には感覚が麻痺して、何の疑問も抱かぬようになっているでしょうが・・・・・・。
それに、転職を試みるならば、新たな世界に挑戦する意欲なり柔軟性を保持していると言う観点から、30歳代に踏み切るのが得策です。
中途採用する会社だって、30歳代を希望すると思います。
何故なら、若過ぎると言う事は経験値が乏しいと言う事ですから、即戦力として使えません。一から鍛えるならば、20歳代半ばの人間よりも新入社員の方が望ましい――とは、貴方だって首肯するはずです。
反面、40歳を過ぎると、それなりに処遇しなければなりません。とは言え、プロパー社員を押し退けて中枢ポストに添えるならば、相当な実力と大義名分が無いと転職先の職場でも納得感が得られません。一般的には、中途採用を担う人事部が敬遠するでしょう。
話が脱線気味になってきましたが、本章で色々と書き連ねた動機は、「トヨタって構造的に良い会社なんだろうな」と秘かに感じているからです。私の勤務先はトヨタではないので、完全に“隣の芝は青く見える”的な感想です。
アメリカでトヨタ車の急加速問題が燃え上がり、工場所在地であるケンタッキー・インディアナ・アラバマ・ミシシッピー4州の州知事が「公平な議論を行う」よう求めた書簡をアメリカ議会に送り、公聴会での証言を終えた豊田章男社長が現地トヨタの従業員達を前にして涙を浮かべた映像を忘れる事が出来ません。
結局、トヨタの急加速問題は冤罪だったようですが、毅然とした態度と人情味の溢れる態度と硬軟併せ持つ豊田章男社長の人柄には、部外者の私ですら心服します。
それはさておき、この半世紀の間、トヨタの世界シェア拡大の動きは揺らいでいません。しかしながら、臨機応変に事業展開の手法を変化させているように見えます。車の単純輸出から現地組立生産へ、更には部品も現地で調達し始め、進出国との融和に努めてきたように見えます。
次世代自動車への対応についても、自らはハイブリッド車から燃料電池車へと開発を進め、電気自動車化の世界的潮流が強くなれば、それに向けた他社との連携を広げています。
それだけ融通無碍な対応を可能とする優秀な社員が多いのでしょうし、創業家も唯我独尊に陥っていないように思えます。
7代目の達郎社長から現11代社長の章男氏までの間に、3代もの非創業家の人間が社長を務め、再び創業家に社長職を奉還するとは、相当に風通しが良くないと出来ない芸当だと思います。
自分の就職活動を振り返り、「東京に本社が無い会社は何だかなあ・・・・・・」と会社訪問すらしなかった自分の馬鹿さ加減にウンザリします。
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