第11話 崩壊の余韻

努力で救えるのは生真面目な私だけだった。それを知って視界がセピアになってくれたなら、或いは最後にお土産をもらえたと喜ぶこともできだろう。しかし現実はそんなに親切ではなくて、ちょっとだけピントがずれただけにすぎなかったのだ。悲しもうにもちゃんと悲しめず、私は一層自分に詰め寄った。何時間詰問しても答えを吐き出すことのない無用の口が、いつしか泣き言だけを生み出すようになってしまった。ため息を一つついて、それから重い頭を何とかあげて、苦笑をこぼす。これだけは生まれたときから得意だった。自慢できたためしはないけど、自他ともに認める私のスキルではあったのだ。だからここぞとばかりに使ってやった。右も左も上も下も、壁に囲まれ逃げ道を失った私には、それが唯一のいたわりだった。もちろん自分が自分に向けた、酷く白けた贈り物だったけど。私の心は漸次平穏を取り戻す。安っぽい精神だと、最後になじって膝を叩いた。乾いた音に耳をすませば、あまりの滑稽さに笑いがこみ上げてくる。どうだ今度は、ホントの笑みだぞ、おれだって笑えるんだぞ、そうやってえばる小さな自分を内に押し込み、私は久しぶりに未来を思った。月日はいともたやすく過ぎていく、こっちは一歩踏みしめるだけでも労苦だというのにだ、時間は何の関門もなしに進んで行ってしまう。人と概念だ、同じ領域で語るなんてナンセンス、そのくらいはわかってる。それでも不満は募るばかりで、封鎖してしまった道に唾を吐いた。ついさっきまで世界に通じていた道。あんなにも焦がれてやまなかった、私の最善。それが今や、さびの浮いた扉で行く手をふさいでいる。聞き分けのいい人間ではないから、まだくすぶるものはある、が、それはもう火種にすらなりえないほど熱を失い、役目を終えようとしていた。私は染み出てくる何かを感じながらも、それを言葉にしようとは思えなかった。ただ灰を注視する。漂う煙のカーテン越しに、判然としない世界が映っている。白でも黒でもない、それは灰の世界。これから私が歩んでいく、現実の世界。空想は打たれた。いや、私が手にかけた。知っていた、私は知っていたのだ、本当は。形なきもののもろさを、いついかなる時でもそばに寄り添っていなければならなかったことを。それなのに、目をそむけた。元からありえない存在なら、見えなくても一緒だと、そんなことを思ったのだ。結果は今目の前にある。無表情を作りだし、とうとう明かりを失ったものを見つめることすらできなくなった自分。暗い、何も見えやしない。



ほのかにあたたかいこの場所は、どこへいってしまうのだろう。

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