第10話 懐古屋

 引きずっていた希望を手に戻した。擦り切れて、ほこりまみれになっている。だけど熱は手放した時以上に増していて、油断していると皮膚を焼いてしまいそうだった。懐かしい感じだ。軽く、大きく、熱い、代わり映えのしない空虚な願いは昔のまま、私は安心するべきだろうか、それとも嘆くべきだろうか、分からない。

 この希望が生まれたのはもう五年も前のことだ。あの時は初めての願いに戸惑い、よくもわからぬままその熱を原動力にして動いていた。あくせくと、無意味な活動にのめり込み、一人満足した。それが間違いと言うわけではないが、傍から見れば恥ずかしい行いだっただろう。

 それでもあの時の私にとってその希望は、何にも代えがたい唯一無二の真実だったのだ。恥はしても後悔はない。記憶は美化されるものだと分かった上で、過去の自分を否定することは出来ない。今の自分が否定していいモノではない、絶対に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る