第4話 陽の沈む学校の
生徒会の仕事を終え、私は階段を重い足取りで登っていく。時期は冬、足先から這い上る冷気はウィンドウブレーカーを貫き、細い足を凍えさせる。とっぷりと日が暮れた後の校内は、教務室を残して明りはなく、足音がよく響いた。
もうじき大会があった。部長になってから初の大会。同じころには三年生のお別れ会もあり、こちらは生徒会長になって初めての大行事だった。
どちらも望んでついた役職ではない。ただ少しだけ、人よりまじめが過ぎて、人一倍に好奇心があった。それが災いして、副部長、副会長と推薦され、そして断り切れぬまま、部長と生徒会長を兼任することになった。
もしももう少しだけ都会だったのなら、もしももう少しだけ怠けていたら、自分ではない誰かがやってくれたに違いない。しかしここは一クラス二十余名、ニクラスだけの片田舎。一度そういう役を演じたら、逃げ場なんてどこにもない。
真っ暗の廊下をとぼとぼと進む。仕事は終わった。だから、次の仕事がある。図書館越しに球打つ音が聞こえる。威勢の良い甲高い声がそこに混じり、早く来いと自分を呼んでいる。
熱を奪われた足は一層重くなり、引きずるように教室へと向かう。荷物を取ったらまた降りて、そして元気に走り、怒声を上げる。
私はただ、すこしだけ今を変えたいだけだった。人と違う何かになれたのなら、今までが変わると信じただけなのに。
望んでいないのに望まれて、願う間もなく願われた。圧縮されて、成形されて、加工されて、カチコチになって、ピカピカになった自分はさぞかし綺麗に映るだろう。
廊下を曲がって、私は足を止めた。とっくに夕暮れは過ぎていた。しかし窓から落ちる明かりは橙で、廊下は真っ赤に燃え上がっていた。
それは一瞬の夢だった。数瞬後には街灯が作った光景だと気づく。しかしその一瞬、一呼吸にも満たないその刹那に、私は確かに夢の中にいた。
数瞬後、私は窓の外を眺めていた。せまっ苦しい三面だけのテニスコートでは、仲間たちがラケットを振り、白いボールを追いかけている。その姿を目端に収めながら、私は街灯と、その先にある夜空を見た。
窓を開けて風を浴びる。白い息が立ち上り、橙色に光り輝く。
すっかり冷えた指先と、火照った体に戸惑いながら、私は無邪気に胸を掴んでちょっとだけ笑った。
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