第2話 夢見る時間

 公園があった。明かりの少ない帰り道、住宅街と田園を分ける急な坂の途中に、錆びの目立つブランコが二つだけ設置されている。奥には鬱蒼とした雑木林が控え、道が続いている。

 坂の頂上を背にして左手には使われていない貯水庫があり、さらにその隣には、ただっぴろい駐車場を持つ市民図書館が、下って左に行くと運動公園がある。決して人通りの少ない場所ではないのに、どういうわけかその公園はいつ来ても人気がない。

 坂の途中だから見晴らしがよく、眼下には、隔てるもののない田園風景が広がっている。夕焼けの頃になれば、背後からの残照で枯れ草が輝く。私は時折ブランコに座ってその光景を楽しんだ。

 半日たった魔法瓶からぬるいお茶を啜り、夜の染みていく空を眺めていると、猛烈に誰かを欲するときがある。

 自分をどこかに連れて行ってくれる誰か、この日常に少しだけ刺激をくれる誰かを求めて、私は隣の空いたブランコを見る。その先に続く道はまるで私を誘うように大口を開け、黒々とした腹底を見せつけていた。


 大粒の雨の降る雨季の頃、私はとうとう道の先を見ることにした。辺りには生暖かい空気が滞留し、土と水の匂いが執拗に纏わりついてくる。地面はぬかるみ、跳ねる雨粒に制服の裾を汚しながら、私は薄暗いその道を奥へ奥へと進んだ。

 粟立つ肌は期待の裏返しで、後ろを振り返る心は願望そのものだった。私は夢を見ていた。無力な自分ではどうにもならない今日だとしても、夢想する自分がいる限り、夢の方が自分を見つけてくれると信じていた。

 薄暗い道を抜けると、大通りに面した立派な神社が目の前に現れた。行き交う車の音を聞きながら、私は今日もどこにも行けないのだと実感した。


 それでも変わらずブランコに座った。錆びついた金具が空しい音を響かせ、冷たい空気が肌を切る。ぬるいお茶でわずかな暖を取り、こうして座るただの自分が、ここを抜け出すきっかけになればいいと願った。


 

 

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