どこかに行きたい
二十四番町
第1話 どこかに行きたい
カラカラに乾ききった冬の田畑に風が吹きすさぶ。街の明かりは遠い。民家の音も、国道を流す車の音も、みんなみんな、遠くに響く。
ここは何一つない地方都市。何事もない毎日が続く、停滞した場所。
実家を出ると言っていた昔馴染みは、いつの間にかに所帯を持ち、この街が好きなんだとはにかみながら語った。
かくいう私も嫌いではない。むわっと立ち上る草花の匂いだとか、冬の霜柱を蹴潰す音だとか、夕暮れの切り絵みたいな木々の影だとか、好きなものはたくさんある。
しかし私は昔から遠くを見ずにはいられなかった。美しい風景の先にある誰かの街を、何かの街をいつも夢見ていた。
高校の帰り道にポツリと輝く街灯があった。
昼間にはどこにあるかもわからないなんの変哲もない街灯。それが、夜になると、周囲に明りがないことをいいことに、ここが世界の中心だぞとでも主張するかのように輝く。私はいつもそれを眺めながら自転車を漕いで家に帰った。
ある日、私はその街灯を捕まえにいった。輝くあの下に行けば、日常が何か変わると半信半疑で自転車を駆った。果たして触れた街灯は、本当にただの街灯で、入り口に見えた光はただの電光だった。
そんなことがあってから、私はますますここから出たいと思うようになった。この街はそこら中に異世界の扉をちらつかせはするが、一つとしてホンモノはない。
外に出てもう六年近くになる。相変わらず、私は外を探している。どこにも外は見当たらず、あるのはいつも見慣れた景色だけ、それどころか今では外の気配すら薄い。
実家に帰ると今でも異世界の扉がちらつく。遮蔽物一つない関東平野は、容赦なく寒風を叩きつけてくる。変わらず香る乾いた土の匂いを吸い込み、私はやはり外に出たいなと思うのだ。
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