2-21「帰還」

 森の入口に設置された、白い大型のテント。

 石油ストーブで暖められたその内側では、簡易ベットで五人が点滴などの治療処置を受けている。生存者のうち特に衰弱の激しい四人と、片桐春夏だ。

 布一枚向こうでは帰還の儀が行われ、祝詞がテント内にも聞こえてくる。

 本来なら重症者はすぐに屋内施設で治療をさせたいが、先に障気を払い落とさねばかえって命が危ない。特に今回の場合、妖怪に寄生を受けている可能性もある。儀式を行う瑠梨たちからは少し距離はあるが、テント越しでもそれなりに禊の効果はある。


 やがて儀式が終わり、儀式場に参列していた生存者が隊員と共に本部施設へと移動していく。自力で歩ける程度には衰弱が軽かった者たちだ。彼らは治療と聞き取り調査の後、記憶を操作・封印されてから家へ帰されることになる。今回は人数が多い為、数日を要するかも知れない。

 彼らが去ると、儀式場の神饌台や篝火がテント内に運ばれてくる。五人の重症者に追加で禊を行う為だ。彼等を儀式場の最前に出せば早かったが、火があるとはいえ衰弱している者を寒空の下に出す訳にもいかないし、隊員と生存者を合わせて六十人以上が一度に入れるテントも無い。それに二度手間と言っても数分の差であるので、全員をなるべく早く安全に祓うにはこれが一番効率が良いのだ。



 片桐に付き添っていた恵里は、テントに入ってきた瑠梨と目が合う。思わず口を開きかけたが、目線で制され、姿勢を正す。瑠梨は円の補佐の元で、前口上を省いた略儀を行う。祝詞を読んだ後、一人一人の間で幣を振り、付き添う救護班が礼と拍手を代行する。

 横たわる患者の口に、円が酒の代わりの蒸留水を皿から匙で取って含ませると、表情が穏やかになっていく。最後に片桐にも同じことをして、儀式は終わった。

 重症者たちが次々にストレッチャーで運び出されていき、片桐が残った。

 

「瑠梨ちゃん、お片付けは私達がやっておくから春夏くんを運んで上げたら?」

「え、でも」


 円の提案に戸惑う瑠梨を後押しする様に、周りの隊員達が率先して神事の道具を運び出し、目配せをしてくる。更には恵里も目線で来い、と促している。

 瑠梨は少し考えてから頷いた。


「分かりました。後はお願いします」

「ええ。また明日ね。お疲れ様」


 円は神具を箱にしまいながら微笑む。


「じゃあ瑠梨、後ろ支えて」

「うん」


 瑠梨は早歩きで恵里の元へ急いだが、恵里は既に一人で片桐をストレッチャーに降ろしていた。支えると言っても、こうなると瑠梨のやることは実際無い。台は半自動走行で動くので、一人付き添えば十分である。屋内か平坦な地形なら無人でも問題ない程だ。瑠梨は手を所在無さげに片桐の足の近くに添えた。恵里に先導され、倉庫に偽装したエレベータへと入る。

 他の四人は既に運んでしまったので三人だけになる。



「瑠梨。ありがとね」

「神託のこと?私は……見たことを伝えただけだから」


 静かに首を振る瑠梨に恵里は頭を下げる。


「それと、ゴメン」

「どちらかと言ったら私のせいだよ。未来を選べって、はる君を焚き付けちゃってたかも」

「それなら、ハルのせいよ。自分で選んで無理したんだから」


 恵里はそっと片桐の頭に手を触れた。


「それか、やっぱり私のせい」

「恵里ちゃんは凄い頑張ってるよ。一人で親グモ二十に、子グモも入れたら七十匹は倒したんでしょ?……え、七十?頑張り過ぎだよ……!?」

「瑠梨ほどじゃないわよ」

「いやいやいや……!」


 瑠梨はブンブンと手を横に振る。報告を聞いた時は片桐の昏倒に気を取られていたが、改めて考えると凄まじい数字である。この戦果を出した恵里を今日の自分と比較されては困る。不穏な予感を受けて片桐に警告を出して焚き付け、危機を察して援軍を急がせた、ただそれだけなのだから。


「私は、肝心な時に何も出来てないから」

「……怒るわよ」

「ゴメン」

「謝らないの」


 エレベーターが止まる。瑠梨が開ボタンを押し恵里が台を先導する。


「私、はる君や、皆の負担にならないようにもっと頑張るからね」

「何言ってるの。アンタを頑張らせない為に私達がいるんでしょ!私こそもっと頑張るから!」


 恵里は瑠梨の額をつん、と指でつついた。


「いや、だから恵里ちゃんはもう充分じゃないかなぁ……」


 瑠梨は額をそっと拭うと、数歩の遅れを取り戻すべく早足で歩き出した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 目を開くと白い天井があった。妙に寝心地が良いと思ったらベッドの上だ。

 俺の基地でも家でもねぇ。俺の体に電極パッドが付いて心電図の機械に繋がっている。病室、いや僚勇会の医務室か。ベット横の時計は、火曜の午後三時半。

 確か寄生虫を引き摺り出したのは覚えている。あれが午前三時半ぐらいだからちょうど半日は寝てた計算か。せめて午後から学校に行く気だったんだがこの分じゃ、明日出られるかも怪しい。


 寝過ぎて頭が痛てぇ気がしたが、ゆっくり深呼吸をして体を伸ばすと、むしろさっぱりしている。部屋の中は静かだ。部屋の中のもう一つのベッドは無人で、医療スタッフもいねぇ。

 静か過ぎて隣の部屋の会話が聞こえてくる。つい耳を済ますと……俺の両親と篠森のおっさんの会話だった。隣は診察室か?

 篠森のおっさんは僚勇会の会長、つまりリーダーだ。おっさんの曾祖父さんが、風科の討ち手をまとめて僚勇会を作ったのを代々引き継いでる。

 今は直接の指揮や運営を部下に預けて政治の世界に入って市長をしちゃあいるが、それも僚勇会のバックアップの為で、重大な事態の時は直接動く。


 おっさんは俺が倒れたことを謝って経過を報告し、俺の親が逆に恐縮しているみてぇだ。

 会話の内容をまとめると、俺の命に別状はねぇらしい。恵里や他の仲間も(少なくとも俺の親が知ってる範囲のメンツは)無事らしい。

 助けた生存者と俺のクワガタたちのことは話題に出なかったが、俺の親相手じゃ仕方ねぇ。後で自分で聞くか。


 部屋に俺の親が入ってきた。寝たふりをしていると、二分ほどで出ていった。

 二人は廊下でおっさんたちと少し話してから礼を言い、帰っていった。

 更に少ししてから、今度はおっさんたちが入ってきた。


「起きた様だね」

「たった今な」

「そうかね」


おっさんは俺の嘘には突っ込まずに、気分はどうだとか当たり障りの無い話をしてから本題に移る。一緒に入ってきた医者の愛生の爺さんがまず俺の病状を話してくれた。


「検査では脳に異常は見つかりませんでした。予知の半暴走による、知恵熱みたいなものでしょう。骨はヒビが入っていましたが、魔術で既に治療済みです。肉体の方は大丈夫。明日の朝の検査で問題がなければ、二時間目から学校に行って良いですよ。ただし脳の話ですからね。少しでも不調を感じたら診せる様にね」

「はい」

「それと、やっぱり予知は戦闘では使い過ぎないでね。君の場合、普通の予知より負担が大きいみたいだから、使いこなすまでは避けたほうが良いね」

「いや……どうも一度発動しちまうと、その後連続で発動しやすいみてぇで……」


 言いてぇことは分かるが俺だって好きで暴走させてる訳じゃねぇしな。


「そうですか。完全に使うな、と言いたいくらいだけども……」

「難しいですね先生。今回の様に予知で命を拾う場合もありますから、例えば使いこなすまで出撃禁止、とも言い難いところです」


 爺さんとおっさんは困った風に苦笑している。


「いや待ってくれよ。出撃禁止はねぇだろ」

「例え話さ、もっとも何度も予知が暴走する様なら……」


 俺は両手を振って静止する。


「待ってくれって!追い詰められなきゃ勝手に発動はしねぇから大丈夫だよ!今回みてぇなこと、そうそう何度もあってたまるかよ……!」


 そう、何度もな……。


「そうだね……まあ、とにかく実戦で無闇に使わず、安全な場所での訓練でのみ使うように心掛けて下さいね」

「ああ、分かってるよ」


 正直、頼まれてもなるべく使いたくねぇからな。所詮は予測、もしくは精度の高い妄想みてぇなもんのくせに、いちいち痛みや恐怖を味わう羽目になる欠陥能力だ。瑠梨の予知も大概制約が多いが、アレとは別の方向で使い勝手が悪くてかなわねぇ。


「さて、私は失礼しますが、常に誰かしらはいますから、何かあったら呼んで下さいね。食欲があるなら軽食くらいすぐ出せますから」


 愛生の爺さんが病室を出て行く。頭を下げるためにゆっくり立とうとしてみたら普通に立てそうだ。おっさんが肩を貸そうとしてきたのを断って立ち上がり、二人で挨拶して見送る。




 俺がベッドの上に座ると、おっさんが焙じ茶を入れてくれた。両手で湯呑みを受け取る。温かい。


「飲めそうかね?」

「あ、どうも。ええと……」

「うん、どこから話したものかね。まず隊員の全員と、救出時点で生きていた生存者は全員無事た。君も含めて寄生を受けた形跡はない」


 そうか、一安心だ。茶を一杯流し込む。ティーパックにしちゃ美味いな。多分葉と入れ方の両方が良いんだろう。俺が湯呑みを置くのを待っておっさんが続ける。


「元々寄生を受けていなかったのか、禊で払い落としてしまったのかは、禊の前後で採取した血液の比較分析待ちだがね」


 分析結果が出るには数日掛かるそうだが、取り敢えずもう大丈夫には違いねぇ。体調の良い奴から優先で家に帰し始めているらしい。衰弱の酷い重症者が何人かいるが、そいつらも週末までには送り返せる見込みってことだ。


「ここも昼過ぎまでは殺人的な忙しさだったそうだ……あの時以来、かな」

「おっさん……」


 おっさんは自分の茶をゆっくりと飲んだ。


「私はつい二十分ほど前にようやくこちらに戻れたところだがね。すっかり遅くなってしまったよ」


 今は市長をやってるおっさんだ。戻ってくるのも楽じゃねぇだろう。それほどの大事なんだよな。

 それからおっさんが語った内容を要約すると、まず俺のクワガタのうち、あれから二匹が生きて見つかり、一匹が死んで、もう一匹がまだ行方不明らしい。残りは隊員と一緒に森を出て俺の基地に戻されたそうだ。

 見つかった三匹は俺たちがマダラと戦った付近にいたらしい。俺たちとの遭遇前に横道に逃げた奴にやられたみてぇだ。

 そのバケグモたちは殆ど倒されたが、子グモらしい数匹が行方不明だ。育っていないうちは霊波探査に引っかかりにくいから、最悪、育つのを待って探すほうが楽かも知れねぇ。

 今は人員を、生存者や遺体から得た情報の整理や、洞穴内外と周囲での遺留品捜索に優先して回しているから雑魚にまで手が回らねぇらしい。



 まあそっちは大したことはねぇ。肝心なのは……。

 

「あの蟲野郎……寄生虫は?」

「……まだ正体は不明だ。何分、サイズが小さすぎる上にかなり弱っている。ウチで調べるのは難しい、分析班の人員が他に取られているせいもあるが、機材の性能の問題もある。最終的には外部に委託することになるだろうね」


 ウチで調べらんねぇのは癪だが仕方ねぇ。さっきも言ったが、ああいうチビ妖怪は禊で払えちまうから、細かい研究は全然進んでねぇし、当然研究設備もあまりねぇ。外に頼むのも仕方ねぇな。それに後方部隊は、僚勇会だけで働く専業者が多いとはいえ、複数の部門の兼務も多い。あんまり同時にアレコレやらす訳にもいかねぇよな。


「それで結局、あの野郎、どうやって被害者を集めたんだ?」

「まだ調査中だよ。結界を我々に気付かれずにすり抜けたのか、それとも森の中にいながら超広範囲から人を呼び寄せたのか……それすら分かっていないんだよ。むしろ私や分析班が君に聞きたいくらいだね。何か考えがあれば教えてくれないかね。思い付きで構わないよ」


 おっさんは真剣な眼差しで俺を見る。仮にも俺も専門家だからな。そうだな……。


「……奴はバケグモを操る声は持ってたけどよ、少なくとも洞穴ん中じゃ人間を直接操っては……ねぇよな?」

「そうだね。君は洞穴の中の被害者には直接会ってはいなかっただろうが、佐祐里くんによれば操られた様子はなかったそうだ。それと、まだ未確定だが攫われる時にクモを見た被害者はいないそうだ。というよりも、いつの間にか洞穴の中で縛られていたようだね。共通点と言えば、攫われる直前に人気のない場所にいたらしいことくらいだね」


 俺は考えを整理する。


「そうだな。今んところの完全な憶測でよけりゃあ、仮説がある」


 俺は残りの茶を飲んだ。おっさんは無言で続きを促す。


「結論から言うと、あの寄生虫野郎と別に主犯がいる。多分、風科の外の野良妖怪だ。ソイツが空を飛ぶとかして人間を集めて森に運んで、クモに食わせたんだ。クモを育てて食う為にな」

「……なるほど、あの洞穴はその妖怪Xの牧場だったという訳かね」

「ああ」


 少し回りくどいようにも感じるが、人間を食わない妖怪や、体の構造上そもそも食えねぇのもいる。少数派だけどな。


「とすると、あの寄生虫は」

「その新種の手先……牧場の番人、みたいなものじゃねぇかな。家畜を操って家畜の番をさせちまう訳だ」

「ある意味、合理的かも知れないね。だが、その説を採用する前に一つ良いかね。確かバケグモには人を操るものもいただろう。クロバネバケグモというのが有名だったかね。アレの子グモなら結界を抜けられてもおかしくない、と言っていた分析班もいたよ」


 クロバネは黒い羽見てぇな期間がついたクモで、羽で起こした風で子グモを撒いて、そいつらに人を操らせる奴だ。操り系の奴では一番対象範囲が広い種類だな。


「ヒモ野郎がクロバネ共を操ったってのは無理があんな。連中の補足範囲はせいぜい数キロ先だ。それ以上は上手く子グモが飛ばねぇし、運良く何十キロとか先に着いてもガキのほうが親を見失っちまうんだ。今回の被害範囲、広いんだろう?」


 確か隣の県とか数十キロ先までだった筈だ。おっさんが頷く。


「なるほど。何十匹もいないと今回の被害範囲はカバー出来ない訳か」

「仮に何十もいたとして、親が結界の外に出ねぇとやっぱりカバーは無理だぜ」


 そして一・二匹ならまだしも、そんな大量のバケグモが森の外に出ても気付かねぇほと、ウチの監視は無能じゃねぇ。その辺はおっさんのほうが承知の筈だ。 

 かと言って、森の外に元からいたって線もまず無い。


 復習になるが、森の奥の「大風穴」は数百年前に日本中の邪気を一箇所に集めて、妖怪の発生を集中させ、討伐をしやすくする為に作られた、とか言われてる。

 それでも全ての邪気を集め切れる訳じゃねぇから、森の外にも妖怪はいる。

 でもB級越え妖怪がゴロゴロ湧いてくるのは日本中でもウチの森くらいだ。


 風科の周りの魔術師組織もアホじゃねぇから、森の外に妖怪がゴロゴロいりゃ、ぜってぇどっかが気づく。


「なるほど。ここまでは分かったよ。だが君の説を採用するとして、もう一つ大きな問題があるね」

「その妖怪Xがどこ行ったかってことだよな……」

「君たちの活躍でエサを取り損ねて、人知れず餓死していれば幸いだが……なんとも言えないね。今は分からないことが多すぎる」

「ああ、全然大外れかも知れねぇからな。あんま気にしねぇでくれ」


 所詮は仮説。それも虫食いだらけの方程式を当てずっぽうで埋めたみてぇな杜撰な解だ。おっさんも最初に言ってたが、現時点で答えが出せる筈もねぇ。本気で期待してた訳じゃねぇだろう。俺の頭の調子を診るついでに、頭の体操か暇つぶしをしてくれる気だったのかも知れねぇ。トップがここまでしねぇでもいいのに。


「単にヒモ野郎に、超広範囲の人間を操る力があったってだけのオチも全然あり得っからな」

「可能性としてはね。ともかく参考にはなったよ。君が捕獲してくれたサンプルの件と併せて評価させてもらうよ」

「……え?」


 評価だと?

 おっさんは茶の残りを飲むと、悪戯っぽい笑顔で立ち上がった。


「私の一存で決める訳ではないから断言は避けるが、最低数万円は期待してもらっていいと思うよ」

「いや待ってくれ。俺は」


 会長の指示を無視して洞穴に突っ込んだんだ。評価してもらえる道理がねぇ。


「ふむ。君は佐祐里くんが危険を承知で出した指示に従って、突入を敢行。結果として、その時点での生存者の全員救出に見事成功した、と聞いていたが何か違ったかね?佐祐里くんが日高くんへ残した伝言記録もあったし、報告でも彼女の決断と聞いていたのだが……」

「いや……」

「危険覚悟での突入は確かに褒められたことではない。だが隊長がそう決断して部下が従ったのならば仕方のないことだ。部下に独断専行される隊長よりは、自分の意志でリスクを選ぶほうが良い。そうは思わないかね……?」

「……思い、ます」


 汚ぇ。暗に会長の評価が下がるぞと言いやがった。


「宜しい」

「やり方が汚ぇぞ……流石政治家」

「何の話かは分からないが、酷いな……まあ市議会とはいえ政界で揉まれれば色々とやり方も身につくさ」

「え?元々政治家に向いてたんじゃねぇの?」

「むぅ……」


 俺はそのつもりで言ったんだが、心外だったっぽい。少し拗ねたような顔になった。


「それともう一つ」

「お、おう」

「僚勇会を預かるものとして……こんなことは言ってはいけないのだろうが……私は見ず知らずの他人よりも、隊員たち……特に君達のような若者の命が大事だと思っている。くれぐれも。くれぐれも無茶はしないで欲しい。それが例え、目の前の命を見捨てることになろうとも、だ」

「……ああ」


 それは分かってるよ。分かってる。

 いざという時の優先順位はちゃんと決まっている。


「でも勘違いしねぇでくれ、勝算はあったんだ」

「そうか」

「あの野郎がクモを操るのは想定外だったけど、あれがなきゃクモ共が突入にビビってる隙に、被害者を連れ出せると思ったんだよ」

「なるほど。考えがあってのことなら良いんだ」


 これは本当だ。ムカデグモ以外はビビっていて攻撃に消極的だったし、あの厄介な声がなきゃ奴の足止めさえしていれば、救出も討伐もずっと楽だった筈だ。


「ああ、俺も、瑠梨が巫女でいるウチはくだばる気はねぇよ」

「……もっと志は高く持ってくれたまえ」

「んじゃあ、おっさんを揺するネタが出来たことだし、コイツをいつ使うかゆっくり考えさせてもらうぜ」

「ん?……アッハッハッハ。困ったねコレは。ハハハ」


 俺たちは暫く笑いあった。笑い過ぎて、病み上がりの背骨が少し傷んだ。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る