1-5「帰」

―放課後。


 夕方の会議も確認だけで滞りなく終わったが、僚勇会からの連絡はまだない。分析に半日も掛かるとなると、よっぽど反応が微弱か珍しいってことかも知れねぇ。

 出動は9割確定つったけど、こりゃ1割の可能性もあるかもな。出動するにしても明日ってこともある。

 ひとまず俺は20時まではフリーになった。元々の出勤予定だし、俺は問題ねぇ。

 

 そして取り敢えず普通に解散になった。ちなみに今いるのは朝のメンツから、部活に出ている金枝先輩を抜いた5人だ。

 俺が鞄を持って立ち上がると、女子たちが話していた。


「恵里ちゃん達はどうするの?」

「今更バイトの人帰すわけにもいかないし、取り合えず予定通り先輩の家に行くわ」

「瑠梨ちゃんはやっぱり来られませんよね……」

「そうだね。行きたいけど、どっち道お祓いは必要だからね。お父さん休ませたいし」


 鳥姫神社は元々、巫女の瑠梨でも殆どの神事を行える。というか成人したら巫女のほうが主体だ。他所で言う女性宮司のようなもんだが、呼び方はあくまで巫女だ。

 そんな具合だから、瑠梨がアイドルを始めた皺寄せが親父さんに来ている。もっとも瑠梨のために補足しとくと、アイドル業はむしろ親父さん達が勧めたって話らしい。細かい事情は聞いてねぇ。


「残念ですけど、仕方ありませんね。恵里ちゃんも混ざってのお泊りなんて良い機会と思ったんですけど。想良ちゃんも予定あるそうですし」


 会長が心底残念そうに言った。


「その代わり今度の週末は、予定通り泊まりにいけるからね」

「瑠梨ちゃん…楽しみにしてますからね!」


 瑠梨は先輩の手を握る。

 先輩も握り返す。


「あのぅ…先輩?つまり私が泊まるのは楽しみじゃないってこと?」

「い、いえ別にそういう訳では」


 拗ねているような口調の恵里に、先輩が慌てたように両手をぶんぶん振って否定する。この人は何も恵理に興味が無ぇ訳じゃない。瑠梨が好き過ぎるだけの話だ。恵里もそれは分かっているだろうから本気で言っている訳じゃねぇだろう。


 ……そんなこんなで俺たちは生徒会室を出て廊下で解散した。恵理は剣道部の様子を見に行き、会長は職員室へ向かった。後で合流するそうだ。

 残った3人で帰ろうと思ったら、ラッタは急にどこかに寄り道していくと言いだした。


「で、一応聞くけど、どこ行くんだよ」

「えっと……ランニング?」

「せめて夕方は止めとけっていつも言ってんだろ?」

「そうだよ。今夜はらい君はどの道仕事なんだから休みなよ?」

「お、おう。まあ、そうだ……な。バテて迷惑かけても困るし」


 ラッタは狼狽えて目を逸した。流石のラッタも仕事がある日の帰りはバスを使う。つまり仕事の無い日は帰りも走りってことなんだが、本当止めて欲しい。

 くどいようだがバスで30分の道、それも帰りは上り坂だ。絶対、訓練効果よりダメージのほうがデカい筈だ。

 

「じゃあ一緒に帰れるだろ」

「あー……っと、そうだ!じゃあ買い物があった!」


 ラッタはポンと手を打った。


「お前今、じゃあって……」

「……言ったね」


 瑠梨は半分呆れた感じでラッタを見つめている。俺も多分同じ顔をしていることだろう。

 

「そういう訳だから!じゃあ後でな!ちゃんと寄り道とかしながら瑠梨を送ってくんだぞハル!」

「あ、おい!」

「走っちゃダメだよ!」


 ラッタは廊下を駆け出し、瑠梨に怒られて早歩きに切り替えつつ角を曲がっていった。生徒会役員が走んな。


「全く、あの野郎は」

「う、うん……」


 瑠梨と顔を見合わせて、溜息をつく。

 少し気まずい。

 ラッタはいつもそうだ。いちいち妙な気を回しやがる。そのくせ嘘が下手、というか言い訳を用意し損ねるんだから、なんだかなぁ……。


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 数分後、俺たちはバスに揺られながらラッタとの会話を思い出していた。


「ていうかアイツ寄り道を推奨すんなよな……」

「でも、少しなら時間ありそうだし……折角だから本当に寄り道しちゃおうか?」

「何処にだ?」

「途中から歩きでも良い?」

「……佐藤のばあちゃんのところか?」

「うん」

「……まあ、お前が良いんならいいか」


 既に結構暗いし、神社まで直行すべきなんだろうが、三本前の停留所で降りた。

 帰ってからも忙しいんだし、これくらいは神の奴もガタガタ言わねぇだろうぜ。


 停留所の名前は「佐藤商店前」。佐藤のばあちゃんの駄菓子屋だ。

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