1-4「報」
1月後半は受験シーズンということもあってイベントは少ねぇ。だから今日の会議は殆ど2月のイベントと卒業式関連の確認だった。
卒業式を含めた毎年定例の行事はマニュアルがあるから割りと楽なもんだが、今年は2月の第一土曜にサバゲー大会をやる羽目になったんで、忙しくなりそうだ。まあ、退屈しねぇから良いってことにしとくか。
会議は7時50分に終わった。始業まで授業一時限分近くあるが、これが
普通だ。いつも長くても朝は30分、夕方は1時間以内に終わる。事前にSNSですり合わせてるからスムーズなもんだ。
「それでは今朝はこれで解散としますが、その前に一つ別件が」
会長は資料を横に退けると、タブレットを画面が俺たちに見えるように向けた。
「……先程、僚勇会から森の『レベル3、
部屋の空気が変わった。全員が会長に改めて向き直る。ラッタが手を挙げた。
「出動ですか?」
「いえ、反応が微弱なせいもあって正体不明とのことですので、今は様子見です。解析結果が出るのは夕方になるようです。今夜辺り討伐か探索に出る可能性があります。待機の人も注意しておいてください」
全員がスマホを取り出す。緊急呼び出し以外の情報は会長にだけ来るので、今言われた内容は入ってない。単にシフトの確認だ。今日の予定だと俺とラッタが「仕事」、会長と恵里が自宅待機、他はオフか町内待機という名の実質休みだった。
ここでいう仕事ってのは、生徒会とは関係ねぇ。
妖怪を倒す風科僚勇会の仕事だ。
アンタは多分知ってると思うが、一応何も知らねぇ前提で話しておく。
風科の北に広がる広大な森の奥には人を食う妖怪が棲んでいる。
俺たち風科の防衛組織・
ただし、無限に湧いてくる妖怪どもを全滅させるのは不可能だ。だから森の浅いところにまで南下してきた時だけ、町に出てくる前に秘密裏にぶっ倒す。
会長が言ったレベル3ってのは、いわゆる第一次防衛ラインだ。B級以上の強い妖怪がここを越えてきたら、基本的に出動して倒すことになる。
詳しい話は長くなるから、今はこれだけ覚えときゃあいい。
ともかく、今日は俺とラッタは何もなきゃ森の奥の定期設備点検に行く予定だったんだが、こうなるとそっちは延期かも知れねぇ。ただでさえ、雪のせいで櫓や砦の再建が遅れてるってのに迷惑な話だ。
「ったくぶっ倒しに行くついでに点検も出来りゃいいのによ」
「まあしょうがないだろ。二兎を追う者は一兎も得ずって言うだろ」
俺のぼやきにラッタが反応した。
「そりゃ分かってるけどよ」
「ま、通り道のだけでもついでに確認してけばいいさ」
「……だな」
「え?さっと片付けてから点検もすればいいじゃない」
恵里が無茶をほざく。空中へ剣を振る動きをしながらやる気満々だ。
「いや、お前一晩でそんなあっちこっち行けるわきゃねぇだろ」
「そう?」
「妖怪が隠れてるかも知れねぇのは東の辺りだぞ?今日の点検予定はエリアM!」
恵里はスマホで地図を確認して、数秒考えた。
「直線距離で5キロくらいでしょ……いけるいける」
「お前の基準で考えんな」
森に入るには色々装備がいる。マラソンやジョギングのようにはいかない。
ましてや今は雪も深い。深いところだと3mは余裕で積もる。
そもそも雪のない春や夏でも山あり谷ありで、地図上の距離の直線距離の数倍の移動を強いられるんだ。
恵里はその辺を勘定に入れてねぇ……訳でもねぇ。コイツ一人なら全然余裕で東から西まで言って帰って来れちまうだろう。全員そうだったら苦労はねぇ。
「お前一人動けても仕方ねぇだろうよ」
「うーん……ダメかぁ」
「まぁ冬とはいえ、こういうこともありますよ。予定を修正するしか無いでしょうね」
会長が苦笑した。少し疲れて見えた。
妖怪は冬は餌が少ないんであんまり森の奥から動かねぇ。半ば冬眠状態だ。俺たちとしても助かる所だが、それでも毎年、冬の間に数度は討伐をすることになる。せめてそれがいつになるか分かりゃ良いんだがな。
「しょうがない!取り敢えず私は出動する前提で準備しとくわ」
言うが早いか、スマホでメールを打ち始めた。家宛てだ。家の定食屋を今夜は手伝えないって報告だろう。今からなら代わりを探す時間も十分だろうしな。恵里は割り切っちまえば行動が早い。
「じゃあ恵里ちゃん、放課後ウチに来ませんか?」
恵里が打ち終わるのを待って、会長が声を掛けた。もし出動となれば待機シフトの二人も出ることになる。会長の家のほうが森に近いから、確かに都合が良いだろうな。恵里も二つ返事で承諾した。
「じゃあお願いします!」
「はい。瑠梨ちゃんも一緒にどうです?」
会長が誘うが、瑠梨は首を振った。
「ごめんね。多分、私お祓いの準備になると思うよ。お父さん今日忙しそうだから、会の仕事まで手が回らないだろうし」
瑠梨のシフトは町内待機だが、コイツは巫女の仕事があるので、完全オフでもない限りなかなか休めやしない。
厳密に言うと、鳥姫神社は僚勇会ではなく提携組織みてぇなものなんだが、シフトは俺たちと共有している。実務上は一つの組織と考えてもらってもいい。
「そうですか……残念です」
会長ががっくりと項垂れる。
「まあ、でも多分出動になっちまいますよ」
「それはそうでしょうけど、夢を見させてくださいよ……」
「諦めが肝心だよ、佐祐里ちゃん」
「むぅ……」
金枝先輩に肩を叩かれ、会長は泣き真似をした。
俺たちはもう出動前提で話を進めているが、それは会長にまで情報が来る段階で出動は九割型確定しているからだ。後の問題は出動する人数と予定の調整だけだ。
俺たちは夜の予定について簡単に打ち合わせてから、そのまま解散した。
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