1-3「会」
生徒会室に入ると、壁掛けの丸い時計は7時25分を差していた。会議の開始予定の5分前だ。
「おはよう!みんな」
「おはよう」
「おっ今日もお熱いねお二人さん!」
片腕を上げて冷やかしてきたコイツは
俺たちの幼馴染みの一人で、三人いる副会長の一人だ。
「いや色んな意味でさっむいからな、ラッタ」
「いやいやそんなぁ……」
「ったく。本当そういうの止めろってのによ」
ラッタの家も俺たちの家とまあまあ近い。
それが先に来ているのは前のバスに乗ったから、じゃあない。
コイツはバスで30分の距離を走ってきている。それも毎朝だ。
スタミナの無さを改善したいんだそうだが、そんなとこで無駄な体力を使うからいざって時に保たないんだ。
いくらそう言ってやっても聞きゃあしない。
だから声こそテンションは高いが、机と椅子に全力で体重を預けている。
今は胸から上だけを起こして話しかけてきている状態だ。
そんな状態で冷やかしてくるんじゃねぇよ。
「おはよう~……」
力なく手を振るコイツは
ほっそりした感じの瑠梨と比べると全体的に肉付きがいい。
まあ、胸は僅差で瑠梨のほうが……瑠梨に睨まれたんで止めとく。
髪は黒のポニーテールで、一見の印象通りに活発で喧しい奴だ。
それが今はラッタの横で椅子に浅く腰掛けて机の上で腕を伸ばして突っ伏している。
「なんだ恵里、テンション低いな」
「だって朝練の集まり悪くて不完全燃焼で…」
「そうか……」
一見、朝練で疲れてバテているように見えるが騙されちゃあいけねぇ。
不完全燃焼……それはつまり暴れ足りなかったってこった。
どうせ今日も女子ばかりか男子まで全員叩きのめしてから早抜けしてきたんだろう。
今頃、剣道場の床には部員たちが死屍累々に辺り一面転がっている筈だ。
俺は片手で合掌した。
「ねぇハル……後で一戦しない?」
「嫌だよ。授業前だぞ?」
「え~」
「せめて放課後とかにしろ」
恐ろしいことに、ラッタと違って恵里の体力はまだ相当残っている筈だ。
流石に風科から走り込んできた日はもうちょい疲れてるがな。
……ああ、その通りだ。ラッタと違って毎日じゃないが、恵里も週の半分は走ってきてやがるんだ。
繰り返すがバスで30分の距離をだぞ。
なんなんだお前ら。
「おはよー!訓練の話は置いといて、まずはお茶どうぞ」
この人も副会長で、二年だ。
短髪で背は会長よりちょっと高い。多分二年なら平均くらいか。
性格は元気な小動物系って感じって言えば良いのか?
面倒見がよく気が利くタイプでもあるな。
「ありがとうございます」
「どうも」
「佐佑里ちゃんももう来るだろうからお願いね」
俺は自分の分と一緒に会長の湯呑みも受け取って席に置いた。
先輩は急須を片付けに行く。
緑茶の香りが漂う。立ったまま口をつけ、熱さをこらえて一口分だけ一気に飲み干す。
喉から胃へ温かさが広がっていく。
温まったお陰で、逆に今まで寒かったことを認識した。感覚が麻痺しちまってたんだな。
体の中が温まったところで、コートや手袋やらを脱いで椅子に座った。
石油ストーブが程よく効いた部屋の中は制服でちょうど良い。ワイシャツだと寒いしコートだと暑すぎる。
さて、今日のメンツは俺たち6人だが、生徒会にはあと4人いる。
まず俺と同じ一年の
そして中三で会長の弟の
そして最後に二年の藤宮先輩はさっき言った通りだ。
三年生は、もういない。
生徒会役員は部活に入らなくても良いんだが、実際は俺を含めて殆ど皆かしら入ってるんで、全員揃うほうが珍しい。
作業と打ち合わせは暇な時に生徒会用のSNSグループを使ってやってるんで、大して不都合はねぇけどな。
俺が座ってから一分としないうちに、会長が到着した。
「皆さん!お待たせしました」
会長が一服するのを待ってから会議が始まった。
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