遥かなる運河 2/7

『サジィさん、セラさん。一緒にいますか?』

 ダイヤモンドスターさんからの通信でした。

 いつも通り抑揚のない口調でしたが、言葉運びは少し早いように感じました。

『一緒にいます。どうしましたか?』

『当局より救援要請です』

 視界に地図が表示されます。それは首都の地図で……2つ並んだグリーンのプロットは、私とサジィさんでしょうか。やや離れたところのグリーンはシャッテンさんだと思われます。

 そして……この赤く点滅したプロットは……?

「ダイヤモンドスターさん。この、メナムの上の赤いプロットは何ですか?」

 すると、驚くべき返答が返ってきました。


「貨物船です。現在、所属不明のメトロにジャックされています」


「「!!」」

『よって、可及的速やかに船へ突入し、所属不明のメトロを撃破後、船を減速および方向転換させてください』

『了解した』

 シャッテンさんはあっさり答えました。

 ですが、私はすぐには飲み込めませんでした。振り返ればあまりにも未熟な反応でした。

『と、突入ですかっ?』

『何か問題が』

『停止でもいいんですよね? シャッテンさん! シャッテンさんの能力で、船を静止できないんですか!?』

 ですが、彼女からの返事は平淡なものでした。

『残念ながら、できない』

 食い縛る歯をむりやり引き離しているかのような、苦しげな声でした。

『あれほどの重量物を静止するにはもう遅い……乗員がひき肉になっていいなら話は別だがな。もっとも、それでも止まる保証はない』

『そ、そんな……』

 愕然とする私に、サジィさんが付け足します。

『貨物船の全長は……お、およそ150メートル……シャッテンさんの能力の効果範囲から考えて……船全体に力を作用させることはできません……船の前方を停止されば後方からの、重量で船体がつぶれて……後方だと、前方が、ち、千切れて、真ん中あたりではその両方か、運が良ければ――でも、どのみち乗員は……』

 感性の法則で吹き飛ばれ、船内で船に衝突する。

 今すぐ船を飛び降りた方がまだ生存確率が上がるでしょう。ですが、その後の船の挙動次第では、巻き込まれた命は簡単に水底に沈んでしまいます。 

『推進装置の出力もおそらく全開です。船が川岸に衝突すれば、貨物コンテナは崩れ、燃料も漏れ出し、周辺もただでは済みません。船の制御を奪取し、進路を正常に戻すのが最善です。これはライカ、エナさんとも審議済みです』

 とにかくやれ。

 ダイヤモンドスターさんはそう言っているのです。

 そして、彼女たちの判断は正しいのでしょう。

『……わかりました。もうそれしかないんですね』

『はい、それしかありません。判断は下されました。何より、時間が惜しい』

 緊急事態は一分一秒を争う。

 そして、いまこの場で緊急事態に手が届くのは――私たちだけ。

『衝突予想時刻まで、残り15分6秒です。あなた方に託します』


  

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