メトロポリタン・アユタナへようこそ

 【メトロポリス】といえば、主に大戦期に製造された戦闘用人型ロボットである【メトロ】を、さらに進化・発展させた戦闘用人型ロボットのことを指します。また、軍事転用可能な高性能人型ロボットも、メトロポリスと呼ばれる場合があります。私はどちらかというとそちらです。

 メトロとメトロポリスを決定的に分かつ点は、そのジェネレータにあります。

 メトロポリスは、【精霊炉せいれいろ】と呼ばれる、光循環技術を核としたジェネレータを搭載しており、その稼働時間という点において、ほとんど無制限となっています。つまり一言でいうと、エネルギー切れをおこすことがありません。経産省の基準によれば、この精霊炉の搭載された人型ロボットがメトロポリスであると定義されています。使用方法はあまり関係ないのです。

「エナ、見苦しい真似はやめなさい」

「……(ムスっ)」

「あ、あの、あのっ……」

 気まずいです。

 今は車に揺られています。乗車しているのは、ライカさん、エナさん、私の三人で、運転手さんはいません。ハンドルとペダルが無人で動いています。自動運転か、遠隔制御のどちらかだと思われます。

「す、すみません、私が……っ」

「あなたは何も気にすることはないわ。早とちりして襲い掛かったのはエナなんだもの。自業自得よ。そもそも、戦闘でもないのに誰かに襲い掛かること自体おかしいのだし」

 ライカさんと私は後部座席、エナさんは助手席に座っています。最初はライカさんが助手席に座ろうとしたのですが、エナさんに奪われました。私と並んで座るのが嫌だったとしか思えませんでした。

「ケッ、ガキ共が馴れ合いやがって……おい新入り!」

「ひゃい!?」

「恨むなら課長代理バカオンナを恨めよ。オレは悪く――」


 バチィっ!

「痛ぇ!?」

「恨むなら代理を恨めというのは同感だけれど」

「同感なのかよ……」

「セセラギさんには謝りなさい。エナ」

「う……」

 いままでそっぽを向いていたエナさんですが、ようやくこちらを向いてくださいました。

「……新入り、その、悪かったな。ちょっと、人違いでよ」

 悪い人ではなかったようです。

「でも! オレはお前を認めないぞ!」

「えぇ!?」

「水の精霊刻だっていうじゃねーか! オレへの当てつけか!?」

「エナは仕事でよく目的以外のものも燃やして怒られているから、あなたのことが気に入らないのよ」

「あー」

「納得すんなっ!」

 そうこうしているうちに、道は森の中へ進んでいきました。いくつかの分かれ道を過ぎたあと、それは私たちの前に現れたのです。

「あそこがメトロポリタン・アユタナよ。今日からあなたの家になるわ」

 白い塀に囲まれた広い敷地に、それは建っていました。

 二棟に分かれていて、一棟は鉄筋コンクリート製二階建て、もう一棟は木造平屋建てでした。おそらくですが、木造の方は生活スペースなのだと思われます。広大な庭には、緑を輝かせた芝や熱帯性の木々、澄んだ水を湛えた池、噴水などが、手入れの行き届いた状態で維持されていました。一方で、敷地の隅に建てられた物見やぐらやアンテナ塔が、ここが民間施設ではないということを物語ります。

「でもあの……ライカさん」

「なに」

「あの、【メトロポリタン】って――」

「8年前の大戦を生き残ったメトロの収容所よ。でもそれは目的の半分」

「半分……」

「法的には国連の下部組織で、事実上はどこかの国のメトロポリス運用拠点ね。アユタナの場合は、合衆国が大きな影響を持っているわ。でも目的はどこも一緒。大陸の元成金ブタが二度と穴倉から出てこないようにするための最前線」

「そ、そんなところで、私に何ができるっていうんですか……? 課長さんに誘われた時はうれしかったですけど、今は……」

 今は不安ばかりが大きくなります。

「心配しなくていいわ」

「ああ、心配いらねぇ」

 エナさんがまたそっぽを向きながら、しかし同意しました。

「課長があなたを誘ったということは、何か、私たちにはできないけれど、あなたにはできることがあるから誘ったのよ。その点、別にあなたは、あなたのことを信じられなくても構わないけれど、課長のことは信じるべき……と、アドバイスしておくわ」

「あ、代理の方は信じるなよ。あいつはこのメトロポリタンにいる奴ら全員の敵で、かつオレ以上のクズだからな」

「つまり……その人も放火魔なんですか?」

「オレは放火魔じゃねぇよ!!」

「ふふふ……セセラギさん、なかなか良いわ」

「舐めやがって! てめぇオモテ出ろ!」

「ああっ、また火を! 燃えてるじゃないですかその手! 危ないから消してください! おまけに車内ですよココ!」

「ふふっ」

 私たちの諍いにも涼し気な様子で、ライカさんは笑っていました。

「これから楽しくなりそうね」

「黒焦げにしてやる!」

「消してくださーい!」

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