シキミのための魔術エチュード《魔術災害》
杏華「ごきげんよう、水月杏華よ」
樒「樒です! 幕間の公開授業、みなさんも私と一緒に魔術の世界を学んでいきましょう」
杏華「さてさて、今回はカプリツィオを見ている良い子からお手紙を頂いているわ。静岡市にお住いの田辺くんから『魔術災害って何なんですか?』という質問よ」
杏華「ということで、今回は魔術災害の概要……細かい種別の話は抜きにした発生機序について解説するわ」
樒「そういえば先輩、魔術災害は情報の塊だって中学の頃の防災教室で教わったんですけど本当ですか?」
杏華「ええ、本当よ。更に言うなら、魔術学の世界ではこの世の全ては記憶子の塊として定義されるんだけど、話が脱線しちゃうからこの辺りはまたの機会に」
杏華「話を戻しましょう。一つの例え話――とある村の外れにある湖で人が落っこちて溺死する事故が何度も起きていたとするわ。」
杏華「次々と人を飲み込んでゆく湖を村人たちは恐れ、いつしか村の人々の中に『あの湖には河童が潜んでいる』という共通の認識が、誰が言うわけでもないのに定着した」
樒「湖に近づくと河童に引きずり込まれる……分かりやすい因果関係ですね」
杏華「でも、この段階だったらまだ不吉な噂止まり。その湖に行ったとしても、滞留している“近づくと人が死ぬ”、“河童がいる”という
杏華「でも、もしそこに“姿”が備わったら……何だってかまわないわ。例えば夜中に湖を通りがかった時に水面から人影が飛び出して来たら……目撃者はきっとこう言うわ『本当に河童が出た!』ってね」
樒「『虚を実と言い張るには説明が必要』……魔術詠唱の回で聞きましたけど、その逆って事ですか」
杏華「ええ。因果の説明があれば、残り一押しのきっかけで虚は実となる」
杏華「あとは人々の河童のイメージが重なり合い、最初の目撃したという情報を補強し、湖には本当に人を襲って食らう河童が現れるようになりました……と」
杏華「本当はもっといろんな土着の伝承だったり、亡くなった人の思惑とか妄執とか心残りなんかが混ざり合って複雑化するんだけど、基本の骨子はこの通りよ」
樒「『恐怖の始まりは認識から。人は認識した後震える』……」
杏華「あら、何かしら?」
樒「あ、いえ……好きなアニメのセリフで……」
杏華「あらあら。なんだかいいセリフを聞けたところで、今日はお開きにしましょうか。」
樒「うーん……今更恥ずかしくなってきた」
~終~
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