シキミのための魔術エチュード《境界と結界》

樒「どうも、樒です!」


杏華「杏華よ。幕間の公開授業、今日も元気に魔術の世界を勉強していってね」


樒「今回は霊震で生まれる結界や、水月先輩が武器に使ってる境界についてです」


杏華「早速だけど樒ちゃん、境界と結界を説明してみてちょうだい。100字程度で」


樒「はい! 『境界とは魔力子エーテルがごく薄い空間を高密度に流れることで作られる疑似平面、またはそれを積層した疑似物体のことであり、結界はある空間を完全に包囲した境界、ないしはそれによって密閉された空間のそのものの事である』……97字です!」


杏華「完璧よ樒ちゃん。よく勉強してきたわね」


樒「えっへん、先輩の魔術がかっこよかったので思わず調べて来ちゃいました」


杏華「なら今度は応用問題。結界内部の環境が外部のそれと大きく異なる理由は説明できるかしら?」


樒「えっ? あ、うぅ~……ん?」


杏華「あらあら、じゃあ私が説明するわね。」


杏華「さっき樒ちゃんが説明したとおり、結界と言うのは境界によって完全に密封されてしまった空間なんだけど、それによって何が起こるかというと、記憶子ミームの『遮断』と『ガラパゴス化』よ」


杏華「魔術学において記憶子ミームというのは『魔力子エーテルの振動と回転によって一意に定義される情報の最小単位』で、魔力子エーテルの移動によって情報を伝えてゆく……と考えられているんだけど、結界という壁がその移動を阻害してしまうから外界から新たな情報が入ってくることも無ければ、出てゆくことも無くなってしまう……外を流れる常識の世界から完全に隔絶されてしまうのね」


杏華「そうなってしまうと結界の中に残ってる残留思念や霊を構成してる記憶子だけが結合したり増幅したりして、その中独自の常識を作り出してしまう」


樒「その結果、内部の空間が元より広がったり、永遠に燃え続ける幻の炎や真昼の夕暮れが生まれる……ということですね」


杏華「ええ、そういうことよ」


樒「じゃ、じゃあもしかして、私があのまま先輩の結界の中にいたら、私も先輩みたいな走り屋に……?」


杏華「なんだか棘のある言い方ね……人間はずっと前の世代から長い間常識の世界で過ごしてきてるし、そう簡単に偏った認識の世界に飲み込まれたりはしないから安心してちょうだい。でも、ずっとずっとその中で生活していたら……」


樒「していたら……?」


杏華「うふふ」


樒「な、なんですかその意味深な笑みは」


杏華「ま、結界の力なんて必要ないわ。これから走りの楽しさをじっくりたっぷり刷り込んであげるわ。あなたもすぐ理解わかるはずよ」


樒「わあぁっ、引っ張らないでください! 私絶叫マシンは苦手なんですーーっ!!」


~終~

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