間奏 夜明けまでには帰るわ

 夜の街。ひっそりと静まり返る小さな公園に、杏華は居た。

 一人ベンチに座して、誰かに電話をかける。

「もしもし、私よ。もう帰ってるかしら?」優しげな声で向こう側に語り掛ける。

「うん、うん……ならよかった――え?」

 電話の相手に思わぬ所を突かれ、杏華は動揺した。

「何でもお見通しね……大丈夫。ただ、昔の友達に会っただけだから……ふふ、ありがとう」

 通りかかった自動車のライトで、彼女の顔が照らされる。泣き腫らして真っ赤な目に、再び涙がにじみ始めていた。

 突然、背後で防災無線のサイレンが鳴り響く。

 中規模魔術災害速報。地区ごとの避難指示、あるいは屋内待機の指示が聞こえてくる。

「――ええ、久しぶりのお仕事。だから、せっかく待っててくれたのに悪いんだけど、お夕飯は先に済ませちゃって」

 電話の相手が何事かを言う。

「生きて帰る……それだけは忘れないから。心配はいらないわ」

「夜明けまでには帰るわ……それじゃ。行ってくるわね、あなた」電話を切り、立ち上がる。

 懐から杏華が取り出したのは退魔士登録証。

幸魂さきみたま奇魂くしみたま守給まもりたまえ幸給さきはえたまえ……」

公布日には、1週間前の日付が書かれていた。

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