シキミのための魔術エチュード《魔導力学 その1》

杏華「ごきげんよう、水月杏華よ」


樒「導樒です! 幕間の公開授業、皆さんも私と一緒に勉強頑張りましょう!」


樒「第2回のテーマは『魔導力学 その1』です。魔導力学……うぅ、自分で勉強してみましたが結局よく分からないままです」


杏華「難しい概念がいっぱい出てくるから自主勉だけだと大変なところよね」


杏華「魔導力学は、幽界の存在である魔力子エーテルの運動や実界との相互作用を研究する学問の事よ。魔術の発動や魔術災害の発生の原理を説明する上で必要不可欠な、魔術士の必修科目ね。」


樒「あの、そういえば前回、歩先輩から教えられなかったんですけど、幽界と実界って何なんですか?」


杏華「教えておいてって頼んでたのに……歩ったら相変わらず適当ねぇ。まぁいいわ」


杏華「そんなに難しい話じゃあないわよ。この世界は物質的に見るか霊的に見るかで二通りの表現の仕方があって、物質的に見た世界を実界、霊的に見た世界を幽界と呼ぶの」


樒「霊的に見た世界……」


杏華「そうねぇ、それじゃあ次の説明を兼ねて、目で見て分かる例を出してみましょうか」


杏華「はい、ここにあるのは画用紙と磁石と砂鉄です。画用紙の上に砂鉄をパラパラと撒いて……この砂鉄が撒かれた面を幽界と考えてちょうだい」


樒「そしてその反対側……私が磁石をくっつけてる面が実界ってことですね?」


杏華「その通り。磁石と砂鉄の関係はお察しの通り、磁石あるあたりに砂鉄が集まってきてるわね」


杏華「そうして、磁石を動かしてあげると、それに合わせて砂鉄も動いて、中にはついて行けずにその場に残る砂鉄もあるわね」


杏華「素早く磁石を動かしてあげるとついて行けなくなる砂鉄の量が多くなるし、磁力が違う磁石が近づくと、極が異なるなら磁力が強い方に砂鉄が持っていかれちゃうわね」


杏華「これは物質と魔力子の関係と似ていて、魔力子は質量を持つ物体の位置に集まり、物体に追従しようとする性質を持つの。そしてこの実験だと砂鉄だから表現しきれなかったけど、魔力子は流体の様な振る舞いをする事が知られていて、実界の物理現象に合わせて渦を巻いたり、波を起こしたりするのよ」


樒「へぇ~……あ、もしかして、今の実験で言うなら、砂鉄を指で動かして磁石を動かそうって言うのが魔術ってことですか?」


杏華「大正解! 砂鉄で磁石を動かすなんて言葉で聞いただけじゃ絶対に無理そうな挑戦だけど、その無理を通す方法については、また次回のお話にしましょうか」


樒「はい! ありがとうございま――」


杏華「あら、どうしたの?」


樒「ふぁ……なんでも、な……っくしゅんっ!!」


杏華「きゃあ!」


樒「あぁ……これは掃除が大変ですね……」


~終~

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