第七章「甲高い声の鬼に期待する」

「お主は分かっていたのじゃろう。自分が呪いにかかっていること、自分が後わずかしか生きられないこと。

 しかしたった一人の肉親…、そやつにいうことにはどうしてもできなかった。

 そやつにこれ以上心配をかけないためにな。

 だから、毎日狐呪の痛みに耐えながら何気ない顔で、そやつの隣に寄り添って生きておる」







知らなかった。




本当に、何も。




この事実に俺は怒りを抑えきれなかった。



俺に助けを求めてたり、俺を頼らなかったこと。





こんなことになって俺は今まで気付かなったこと。



妹は雪鬼が言わなければ、一生言わなかっただろう。




その証拠に、一瞬手を放しかけたのだ。





それを俺は、痛いと思うほどに握り返して阻止した。






手をつないでいると、妹の考えていることが少しでも分かるようにという期待からだ。





現実に、そんなことは絶対有り得ないと思うが。



しかし、それもいずれ現実味をおびる考えになるだろう。


鬼。


呪い。



いずれも空想的な事が起こっているのだから、次に何が起きてもおかしくはない。




言葉では#吝か__やぶさ__#に考えているが、実際には期待しているといっても他言ではない。


理由は簡単だ。



幼い頃から憧れていたのだから、非日常を。


どうしよもなくそれに惹かれ、魅せられ、魅惑された。



だが所詮は妄想の極み。



それ以上は何もない。




でもそれを言葉で例えるとしたら、儚い望みだけ。





だから、この鬼なら虚しく儚い望みを裏返して叶えてくれるという期待をしてしまうのだ。




そう思うと、ついさっきまでの緊張感がすっと抜ける。



それは多分、鬼に対しての敵対心を解いたからかもしれない。



いや、そうではなくても俺の利となる人物と認識したからかもしれない。





どちらにしよ、鬼と会話する価値はありそうだ。




そう考えた俺は、固く閉ざしていた口を開き今まで溜まっていた言葉を吐き出し始めた。






「おい、雪鬼。



 お前が鬼であること……、人間ではないという証拠を見せろ。それでないと、俺は信じないぞ。そんな非現実的な事、あるはずがない。」





「ふっ……」





そんな空気と#人声__じんせい__#が混ざった何かを、この鬼は出した。




それだけでは何が何だかわからないと思う。




だが鬼の表情を見れば嫌というほどわかる。




いや、見なくても次の甲高い声を聴けば相手がだれであろうとわかるはずだ。



それぐらい、心情がまるわかりの声を雪鬼は続けて発した。




「ふはははははははははははははははははははははははっ! あっははははははははははははははははははははははっ!」





その音はまるで機械が故障したかのような音に近かった。



人間とは思えぬぐらい、耳に響き残る甲高い声で、それは頭痛を覚えるほどだった。





「なにを言い出すと思ったら、そんなことか。ふっ。わらわは正確には純粋な鬼ではない、吸血鬼じゃ。血を吸う鬼と書くあの化け物じゃ。

わらわが今ここで空を優雅に飛んだとしたら、お主は信じるか。信じないじゃろう、お主は。いつまででも屁理屈を言い、最後まで信じているものを心の底で馬鹿にするじゃろうな。本当にお主は哀れじゃな」






罵倒されても、俺は何も言い返せなかった。



もちろん腹は立った。だけど言い返せなかった。それは俺が、ドМな変態だからではない。




単に図星だったからだ。






















 



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