第六章「鬼は狐呪を見抜く」

「わらわか?



 



 わらわは雪鬼。それ以上の事は言えぬ」


鬼‥‥‥‥?。








鬼といったらよく悪者役で昔話に出てくる、あの鬼か?



「お兄ちゃん‥‥」






だとしたらなぜ今になって姿を現した。




鬼は妖怪の類。妖怪は普通の人には見えないはず。




だったらなぜ俺らには鬼が見える。




「お兄ちゃん‥‥」







だめだ。いくら考えたって、答えなんかかすりもしない。


頭の中で鬼という文字がぐるぐると凄まじい勢いで回る。





頭が痛い。






少しでも答えに近づけるように、妹の意見を俺は聞こうとした。

妹はその時を待ってました、といわんばかりにこういった。



「お兄ちゃん、よく聞いて。  

 桜‥‥。

 桜が、この時期に咲くはずがない。

 だって今は7月。 桜は緑一色に染まっている頃よ。

 なのにこの桜は桃色の花を満開に咲かせている。  」






‥‥そうだ。




この木に感じた違和感が、消えなかったのはそれだ。







夏に桜が満開なはずがない。


それは考えなくても分かる。






#なのに__・__#俺はそんな当たり前のことを気づけなかった。






ひょっとすると、妹に指摘されなければ一生気づけなかったかもしれない。


そんな当たり前のことを指摘してくれた妹は、続けて言う。







「桜が、夏に、それもこんなに美しく咲いていたらニュースになるはず。

 だけど、そんなニュースは耳にしたこともない。



 ねぇ、雪鬼さん。





 

           



 この桜、特別な何かを秘めているのでは‥?  」




妹は、俺が想像もつかないことを言葉にした。






雪鬼は少し目を見開いたが、すぐに冷静な顔に戻った。


そして、うっすらと口を開き、かすかに微笑んだ。その顔は妖怪じみた顔だったが、しかし綺麗な顔だった。


あぁ、こんな顔もできるのだなと思いながら俺は不本意ながらも見とれてしまった。





「そこの短髪のお主。もう少し近こう寄れ。 そしてよく顔をみせるのじゃ」




妹は言われた通りに俺と雪鬼の近くに一歩、一歩、歩いていった。


ついさっきまでの震えは止まっており、その顔は強く凛とした芯を持っているようにも見えた。





雪鬼は白く長い指を、妹のほうに手をやった。


妹はその手を冷たいと言わんばかりの顔を見せた。





しかし、感じ方によって気持ちいいという顔をしているようにも見えた。




そうすると雪鬼は確信した顔になり、その手をそっと離した。




そしてありえない言葉を口にした。





「そなた、これは狐の呪いがかかっておるぞ。 それも強力な、生きていることが不思議なくらいな呪いじゃ。 

 しかし、それももう限界じゃがな。 自身でも自覚しておるじゃろう。  

 2年……ー否、性格には一年と九ヶ月じゃがな。」




「!?」





妹はその言葉に微動だにせずにいたが、俺はおもっいっきり動揺してしまった。



それが伝わったのか妹が俺の手をそっと握ってきた。







いや、そうじゃなかった。





妹は表には出さなかったがまだ震えていた。



それは手をつないだことで、容赦なく伝わってくる。





一年と九ヶ月といったら十八歳の誕生日に近い。


もしかしたら、雪鬼が示している日にちはその日なのかもしれない。





狐……。





ひょっとしたらあの時かもしれない。 


しかし、これはあくまでも推定。本人に聞いてみないとわからない。



いや、もしかすると本人も自覚がないのかもしれない。




だって呪いなんている素振り、見たこともないからだ。






しかしそんな考えは、的外れにも程があった。

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