幕間 一人の少女のものがたり:最終話


 ……何か、聞こえた気がする。

 もう一人の観客もいない、無人の劇場に……ずっと聞きたかった、声が……。

 まさか……そんなはずがない。

 そう思いながら、でも……真っ暗な舞台の上で、ゆっくりと立ち上がる……。


「――《待機せよ》」


 ガチリと、全身が固まった。

 ……あ、れ?

 手に、足に、胴に、首に……いつの間にか、細い糸が絡まっていた。


「――《汝の操作は不要である。待機せよ。待機せよ。待機せよ》」

「……っう……あっ……!?」


 ギリギリギリ、と糸が全身を締め上げる。

 指一本、自分の意思では動かせなかった。

 痛い。痛い。痛い。他人事のようにそう思いながら、皮肉な気持ちが浮かんでくる。

 ……ああ、これじゃあただのマリオネット。この舞台は人形劇だ。


 ――ずっと、誰かの脇役として生きてきた。

 優秀なきょうだいたち。綺麗なお姫様。勇敢でカッコいい勇者たち。中心にはいつも彼らがいて、自分はいつもその後ろ。

 一度くらい、真ん中に立ちたかった。一度くらい、前に立ちたかった。誰かの脇役おまけじゃない、自分という主役だれかになりたかった。


 だから……最後の最後に、神様が慈悲をくれたらしい。

 役者じゃなく、人形として。……わたしを主役にしてくれるらしい……。


「…………それも、いいかもね」


 ……本当は、わかっていた。

 主役も脇役も関係ない。ただ自分の力が足りなかっただけだなんて、そんなこと、とっくの昔にわかっていた。

 でも、どうしても認められなかったんだ。

 自分が運命に愛されていないってことを、そこらにいるエクストラの一人なんだってことを、受け入れることができなかったんだ。

 自分というものがたりを――どうしても、諦められなかったんだ。


 なんて、無様。

 自分の分を弁えず……不相応な夢ばかり見て。

 その末路がこれだというのなら――ああ、それは、笑いたくなるほど相応しい。


 どうせ、わたしの名前を呼ぶ人はいない。

 ゼウスやエンリルには山ほどいても……端役のわたしは、見られてすらいない。

 だったら名もなき人形として踊るのが、一番幸せな―――






「―――ペイルライダぁあぁああぁぁあああああああああぁああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああッッッ!!!!!」

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