夏本番

雷の日

「暑いね…」

 扇風機の前を陣取る雪女の吹雪が額に汗を流しながら、そう呟いてアイスコーヒーを飲んでいる。

「オーナー! 助けてぇ~! 」

「百々ちゃん! おままごとしよ! 」

 柊に連れてかれる百々。


「あっ、光った」

 数秒後、雷の音が辺りに響き渡る。

「わりと近くに落ちたね…」

 そういって吹雪ちゃんを見つめると、彼女は頭を押さえてしゃがみこんでしまっている。

「もしかして雷、苦手? 」

 そう尋ねると吹雪ちゃんは頷いて、涙目で俺を見つめてくるので俺は吹雪ちゃんの頭を撫でた後、こうも雨がスゴいと客も来ないと思ったので店を閉めようと玄関に近づくと足音が聞こえる。


「まだ大丈夫ですか? 」

 角の生えた男性が店の扉を開けて入ってきた。

「えぇ、大丈夫ですよ。雨、ヒドイですね…」

 そういって店の奥からタオルを持ってきて男性に手渡す。

「あっ、ありがとうございます。そうですね、雨、ヒドイですね…。でもそれが俺の仕事なんで、馴れちゃいましたよ」

 男性は、そういって濡れた頭を拭いてカウンターに座る。


「この店主おすすめモカブレンドって言うのと紅茶のシフォンケーキをお願いします」

 そういって男性は、阪神タイガースのリュックからパソコンを取り出して『無事だった』と安堵していた。

「仕事道具ですか? 無事で良かったですね」

 そう話しかけると男性は頷いて

「本当ですよ、コレが無いと何処で雨を降らせればいいのか迷いますからね…」

 そういって苦笑いしているけど…。

「すいません、店員さん…。此処って無料Wi-Fiって繋がってないんですか? 」

 急に涙目になって尋ねてくる。

「無料では無いな…」

 そういうと男性は頭をカウンターにつけて『Wi-Fiを使わせてください』と頼み込んでくる。


「どうしてそんなにネットに繋ぎたいんだ? 家に戻ってから繋げればいいじゃないか…」

 そういうと男は阪神タイガースの財布から名刺を取り出して渡してきた。

『雷派遣会社 社員 稲光いなびかり雷太らいた

 と書かれていた。

「あとノルマが1ヶ所なんです! そうしないと確か今日は深夜まで雨が降らないんです! 仕事を終えないと妻と子供が待ってる家に帰れないんです!」

 なるほど、彼が雷を降らしていたのか…。


「ウチも妻と娘が居るので早く帰りたいって気持ち分かります。良いですよ、Wi-Fiのパスワード教えますね」

 そういってWi-Fiのパスワードを教えるとそのパスワードで男性はパソコンをネットに繋げる。

「アメダスの情報だと次は隣の長野県みたいだ! ありがとうございます! 今日は早く家に帰れそうです! 」


 そういって男性はモカブレンドと紅茶のシフォンケーキを食べ終えて会計を済ますと雨の中、扉を開けて店の外へ出ていってしまった。

「なんだか台風みたいな慌ただしい人でしたね」

 耳を手で押さえながら吹雪ちゃんが隣でそう呟いた。


「多分吹雪ちゃんが苦手な人だよ」

 そういうと吹雪ちゃんは不思議そうに首を傾げていた…。




 

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