帰り道

「ありがとうございました。またお越しください♪ 」

 旅館の女将さん達に見送られ、俺達は旅館を後にする。

「料理美味しかったね♪ 」

 そういって吹雪ちゃんは嬉しそうにニコニコしていた。


「ねぇねぇオーナー、昨日の柊が眠ったあと奥さんと何処に行ってたの? 」

 俺の耳元で百々が不思議そうに尋ねてくる。

「温泉に浸かっていたんだよ」

 車を運転しているときに動揺させるなよ…。


 そんなことを思いながらも車を走らせ昨日の喫茶店に着いた。

「マスター、今日までお世話になりました! それと今日は、お客さんとしてやって来ました!」

 そういって百々はマスターのところにむかう。


「あら、いらっしゃい♪ 今日帰るんだっけ? 」

 マスターは、そういってメニュー表を柊に渡すとカップにコーヒーを淹れ始めた。

「マスターさん、今日のおすすめデザートはなんですか? 」

 そういって吹雪はケーキのショーウィンドを覗き込む。


「そうね、今日のおすすめは[バナナのレアチーズタルト]ね♪ 」

 そういってマスターがウインクをすると柊は手を挙げて

「柊ね、それとカフェラちぇにする! 」

 柊はそういって、物凄く嬉しそうな顔で俺と吹雪を見つめてくる。

「パパはどうする? 」


 そういってメニュー表の[マスターのこだわり卵プリン]を指差しながら尋ねてくる。

「分かったよ[マスターのこだわり卵プリン]とコーヒーをブラックでお願いします」

 吹雪ちゃんを見ると彼女は嬉しそうに頷いてメニュー表の抹茶パフェを指差す。

「私は抹茶パフェとフレンチトーストとアイスコーヒーでお願い! 」


「私は餡蜜と磯辺餅と抹茶で良いですかオーナー? 」

 遠慮と言う言葉を知らないのか? この従業員は…。

「あらあら、ありがとう♪ それじゃあ今から用意するから待っててね♪ 」

 そういってマスターは指揮棒を振り始める。

 するとカップやケーキが宙を浮かび、注文した料理の準備が行われる。


「マスター、今日オーナー達と一緒に行きます。1ヶ月間ありがとうございました」

 百々がそういってマスターに頭を下げる。

「本当だよ、全く…。怪我や風邪には気をつけるんだよ? 」

 そういってマスターは百々の頭を撫でている。

「なんだか良いね、あぁいうの…」

 吹雪は百々とマスターを見て、そう呟く。


「柊が結婚して嫁に出るときはきっとあれ以上だと思うよ…」

 そういいつつ、俺は、いつの間にか配膳されていたプリンをスプーンで掬い、柊の口に運ぶ。

「美味しい! パパ、美味しいよコレ! 」

 俺のプリンを食べた柊はそういって、またねだる様に口を開けて俺を見つめてくる。

「その前にママにあげなくちゃだから、はい、あ~ん」

 そういって俺は吹雪ちゃんにスプーンを差し出す。


「あ~んっ、んん~! 美味しい! このプリンスゴく美味しい! ん~っ、私達も頑張らないとね! 」

 そういって運ばれてきたフレンチトーストを口に運び、嬉しそうに微笑んでいる。

「そっか、そういえば昨日、アンタ達が言ってたけど、同業者なんだっけ? 」

 そういって俺達を見つめてくるので俺達は頷き、山の中腹で喫茶店を経営していることを伝える。

「そっか、貴方が新しいオーナーが来たって噂になってる人の子だったのね♪ 」

 そういってマスターは俺を見て、微笑んでいる。


「それにしても少し驚いちゃったわ! まさかカタブツって言われる雪女が女になって人の男と夫婦になっているんだもの! それにマンドレイクの可愛い娘ちゃんも居るなんて…。大切にしなさいよ♪ 私達みたいな異種族は居るだけで怖がられる存在なのに彼は貴方を妻にしてかれたんだから!」

 そういってマスターは吹雪ちゃんの肩をビシビシ叩いている。

「もっ、勿論です! 岳は何があっても離しません! 」


 そういって吹雪は俺の腕に抱きついてくる。

「あのさ、子供のいる前だから…」

 そういうと話を聞いていた百々が

「よく言いますよ! 昨日の夜、二人が部屋を出て盛っていたのは知っているんですからね私も柊ちゃんも…」

 百々は、そういって磯辺餅を食べ始める。

「私、何人のお姉ちゃんになるの? 」

 精神的ダメージが半端ないから、その澄んだ瞳で見つめないでくれ柊…。


「あらら、見られていたのね? でも、それだけヤってるってことは絶対に大丈夫ね♪ マンネリにならないように色々工夫しながら頑張りなさいよ♪ またいつでもいらっしゃい、私はここでマスターをしながら待ってるから」

 そんな話をマスターとしながら、のんびりとお茶をしてから外に出て車に乗り込み、帰路に着くことにした。

◆◇◆◇

「おぉっ、帰ってきたか! 」

 俺達は神山さんの家に草津のお土産を届けにやって来た。

「味付きの玉こんにゃくです。美味しいですよ! 」

 そういって俺は玉こんにゃくを神山さんに渡す。

「群馬のお土産と言えば、確かにこんにゃくだけど、それ以外にも何かあったと思うのだが…。ネギ煎餅とか…」

 玉こんにゃくと聞いてシュンとする神山さんにトテトテと百々が駆け寄って

「下仁田のネギ煎餅なら買ってきました」

 といって神山さんに差し出す。


「んっ? 誰じゃ君は? 」

 神山さんは、そこでようやく百々の存在に気づき、彼女に声を掛けた。

「今日からオーナーのお店で働くことになった百々って言います! よろしくお願いします! 」

 一応、山神である彼に挨拶はしておいた方がいいだろうと言うことで俺が先に玉こんにゃくを渡し、少しガッカリした彼に本命のお菓子を百々から渡せば好感度UP間違いなし! と思っておこなったのだが…。

「勿論じゃ! こんな可愛い孫が増えて、おじいちゃん嬉しい! 」

 予想以上の成果だった…。





 

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