異種族の喫茶店

「マスター、木苺のタルトとプリン、それとドリンクでカフェオレとイチゴミルクとコーヒーが入りました」

 そういって百々はマスターに注文を通す。

「それじゃあ今から作るから待っててね」

 そういってマスターは人差し指で指揮をするように振るとカップやサイフォンが、ひとりでに用意を始める。


「どうなってるんだ? 」

 不思議な現象に思わず呟くと

「これはマスターの魔法なんだぜ」

 と角の生えた男性が面白そうに話しかけてくる。


「魔法って…。何ですか? 」

 魔法って、あのハリーのポッターが使ってるアレのことなのか?

「簡単に説明するとイェフダ・レーヴ・ベン・ベザレルとかニコラス・フラメルのことかな? 」

 えっ、たしかに魔法使いだったのでは? とか噂はあるけど、本当に彼らは魔法使いだったのか…。


「最近の若者に分かりやすく言うとハリー…」

「分かりました。分かったので言わなくていいです」

 それ以上話すと危ないと思ったので話を切り上げて運ばれてきたコーヒーを飲むことにする。


「旨い…」

 口に含んだ途端、芳醇な香りが口の中に溢れる。

「だろっ! マスターのコーヒーは最高なんだよ! 日頃の疲れが吹き飛ぶんだよ! 」

 そういって角の生えた男性が俺を見て笑っている。


「そうかい? ありがとう。だけど、褒めたからってツケの期限をこれ以上延ばすのは無理だからね」

 マスターは、そういって伝票の束を男性のテーブルに置く。

「頼むよマスター、あと1週間、あと1週間だけ延ばしてくれ! そうすれば給料日で玉を弾いて絶対に倍に増やして、ちゃんと返すから」


 男はそういって土下座をして頼み込んでいる。

「次に返せなかったら上のお前の部屋から追い出して家財道具とかゲームとか全部売り払うからな」

 マスターの女性は、ニコッと笑って落ち着いた声でそう告げる。

「マスター、それはダメだ! アレは俺の命の次に大切なんだ」


「ゲームが命の次に大切な物…。尚更捨ててやる、そんなのだから無職フリーターなんだよ」

 そういってマスターは、角の生えた男性の頭を思いっきり叩く。

「痛っ、マスター容赦ないな…」

 苦笑いをしながら男性は携帯ゲーム機を手にゲームを始めた。


「んっ~! パパ、プリン美味しいよ! 」

 そういって柊が目を輝かせプリンを食べていく。

「柊、こっちのタルトも美味しいよ、一口づつ交換しよ♪ 」

 そういって吹雪ちゃんは、タルトを一口分掬ったスプーンを柊の口元に運ぶ。


「ママもどーぞ」

 柊もスプーンで掬ったプリンを吹雪ちゃんの口元に運ぶ。

「うわぁ、本当に美味しい! パパは何も食べなくていいの? 私はこの餡蜜パフェなんか美味しいと思うよ♪ 」

 うん、たぶん吹雪ちゃんが食べたいんだろうな…。


「すいません、追加で餡蜜パフェ1つお願いします」

 そういうと百々が伝票に餡蜜パフェと力うどんに1と数字をいれている。

「あの店員さん、俺が頼んだのは餡蜜パフェ1つだけなんだけど? 」

 そう尋ねると彼女は笑って

「今、心の中で『百々、食べたいのがあったら頼んでいいよ』って思ってたでしょ♪ だから力うどんをお願いしたの、ありがとうオーナー! 」


 そういって彼女はマスターに注文を通す。

「ちょっ、アイツちゃっかりしてるな…」

 しばらくすると餡蜜パフェが運ばれてきた。

「ねえ、これって一人前なのかな? 」

 俺の前には、コレでもかというほどのアイスと生クリームそれとあんこが盛り付けられたパフェが立っていた。


「うん、このお店の餡蜜パフェはコレが通常サイズだよ」

 この大きさで通常サイズかよ…。

 だって器がビールの大ジョッキだよ…。あり得ねぇ…。

「岳くん、私と柊も一緒に食べるの手伝うよ♪ 」


 最初からそのつもりだったよね?

「うん、俺1人じゃ絶対無理だから手伝って…」

 そういって取り皿をお願いすると3つお皿がやってきて力うどんを食べ終えた百々も俺を見つめてくる。

「分かったよ…。4人で食べようか…」


 俺は取り皿の上に餡蜜パフェを取り分けていく。

「パパ、私はアイス食べたい! 」

「岳くん、私はあんこがいいなぁ」

「オーナー、私はホイップクリームが欲しいです」


 俺は、それぞれのお皿に食べたいと言った物を多めに盛り付けて渡す。

「ありがとうパパ♪ 」

 そういって柊は嬉しそうにアイスを食べていく。

「どういたしまして、それじゃあ俺も食べようかな? 」


 そういってジョッキの中の自分の分を口に運ぶと口いっぱいにバニラの香りが広がる。

「うわっ、バニラの香りがスゴい…。コレって高級な物を使っているんですか? 」

 あまりの美味しさにレシピを尋ねるとマスターは人差し指を立てて

「秘密に決まってるでしょ♪ でも、何度か食べれば分かるかもしれないから、いつでもいらっしゃい、お客さんは大歓迎よ♪ 」

 と言って結局教えてくれなかった…。

◆◇◆◇

「ねぇパパ、明日もさっきのお店行こっ♪」

 どうやら柊は、あのお店が気に入ったみたいだ…。

「そうだね、明日おうちに帰る前にもう一度寄っていこうよ♪ それで今度は、抹茶パフェ食べよ♪ 」

 吹雪ちゃん、また明日もパフェを頼むの? 俺は4つに分けたのに、かなりお腹パンパンなんだけど…。女の子って恐ろしい…」


 あれっ? そういえば何か忘れているような…。まぁ、いっか…。


「置いていかないでよ~!! オーナー! 」

 百々が居ないのに気づいたのは宿に戻ってからでした…。




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