温泉まんじゅうください!

「いらっしゃいませ」

 そういって温泉宿の仲居さんが出迎えてくれた。

「こんにちは、2泊3日で予約してる火野です」

「柊でしゅっ…。パパいひゃい、ベロかんひゃった…」

 そういって涙目で駆け寄ってくる。


「痛かったね、大丈夫? よしよし♪ 」

 俺は柊を抱っこして頭を撫でてあげる。

「お姉さんが痛みが無くなる魔法の飴玉をあげよう♪ 」

 そういって温泉宿の仲居さんが柊に飴を渡してくれた。

『本当に? 』と仲居さんに確認をしたあと俺を見て食べていいか目で訴えてくる。


「食べていいよ♪ ただ、お姉さんに『ありがとう』ってきちんとお礼を言うんだよ♪ 」

 そういうと柊は頷いて

「お姉しゃんありがと♪ 」

 受け取った飴玉の袋を開けて口に入れる。

「美味しい! この飴ちゃん美味しいよパパ! 」


 そういって、顔をふにゃふにゃっとさせている。

「それじゃあ、お部屋にご案内しますね♪ 」

 仲居さんはそういって俺達が泊まる部屋を案内してくれた。

◆◇◆◇

「すごぉ~い! 景色綺麗だね! 」

 そういって吹雪ちゃんは窓際に柊と一緒にむかっていく。

「パパ! パパもこっち来て♪ 」

 柊が吹雪ちゃんと一緒に手招きをする。


「おぉ~っ! 」

 窓の外には町の中央にある湯畑が見える。

「スゴい景色だね♪ チェックインも終わったし町を見に行く? 」

 そういうと2人はキラキラした目で俺を見つめてくる。

「それじゃあ行こっか♪ 」

 俺達家族は皆で温泉街に繰り出すことにした。

◆◇◆◇

 おぉ~っ! 思っていた以上にスゴいな温泉街! スゲェ活気に溢れてる。

「パパ! ママが卵買っひぇるよ? 」

 そういって吹雪ちゃんを指差す。

「吹雪? 」

 温泉卵を買っている吹雪ちゃんに声をかけると吹雪ちゃんは俺の方を見て『ごめん、我慢出来なかった♪ 』といって卵を俺と柊にも渡してくる。


「お店のおばちゃんに聞いたんだけどウチのが1番だって言ってた! 」

 お店の看板を見ると『頼朝』と書かれていた。

 うん、確かに美味しいって有名だけど…。

「んん~っ! 美味しい! 美味しいよパパ!」

 そういって柊がスプーンで掬った玉子を俺に差し出してくる。


「ん? 」

 差し出されたスプーンを不思議そうに見ると柊は『パパ、あぁ~んして♪ 美味しいから! 』と言ってスプーンを更に近づけてくる。

「ありがとう柊♪ 」

 そういって差し出されたスプーンにのった温泉卵をいただくことにした。


「ねっ? 美味しいでしょパパ! 」

「本当に美味しいね♪ 」

 そういって柊の頭を撫でると嬉しそうに柊はニコニコ笑って残っている温泉卵をモキュモキュと食べ始める。

「柊のだけじゃなくて私のもど~ぞ♪ 」


 そういって吹雪ちゃんがスプーンを俺の口元に運んでくる。

「俺だけが貰うのもな…」

 少し渋っていると

「大丈夫♪ まだ揚げまんじゅうとか温泉まんじゅうとか食べるものいっぱいあるから♪ 」


 どうやら食べるのはコレだけじゃないらしい…。

「ママ! コレにゃぁに? 」

 吹雪ちゃんの手を握って隣を歩いている柊が店先にある焼き魚を指差している。

「アレはヤマメ? イワナ? アユ? どれだろう岳? 」

 さりげなく岳って呼び捨てで呼ばれたけど子供が出来て結婚するんだから当たり前か…。


「ん? アレか? たぶんアユじゃ…」

「そこの嬢ちゃん、コレは岩魚の塩焼きだよ♪ お父さんとお母さんも分からないなら聞きなされ♪ 聞くは一時の恥じ、聞かぬは一生の恥じじゃよ♪ 」

 そういって店先に座っていたおばちゃんが手招きをする。


「その通りですね…。すみません、娘に間違った知識を教えるところでした」

 そういっておばちゃんのところに行くとおばちゃんはニカッと笑って

「いいていいて、コッチこそお節介やいちゃって気を悪くしてないかい? ほらお嬢ちゃん食べるかい? 」

 そういって焼いていた岩魚を柊に手渡す。


「ありがとうおばちゃん! でもコレってどうやって食べるの? 骨とかも食べられるの? 」

 そういって貰った岩魚をまじまじと見つめている。

「そうさね…。よく噛めば食べられないこともないんだけどね…。じゃあ今お皿持ってくるからお父さんかお母さんにほぐしてもらいなさい」

 おばちゃんはそういうと店の奥に行ってしまった。


「良かったね柊♪ おばちゃんが戻ってきたら私達も買って食べよっか♪ 」

 俺達はそのあと戻ってきたおばちゃんに岩魚の代金を払って家族全員で岩魚の串焼きを頂いた。(柊の串焼きの代金はおばちゃんがお節介のお詫びだよ♪ といって受け取ってくれなかった)


「美味しいかったね岳♪ 」

 そういって吹雪ちゃんが俺の腕に抱きつきながら先を行く柊を見つめる。

「パパ! ママ! あったよおんしぇんまんじゅう♪ 」

 そういって戻ってきた柊は俺と吹雪ちゃんの腕を掴んでお店に向かう。

「おじさん、温泉まんじゅう3つください」

 そのあとも俺達は観光を楽しんだ。

◆◇◆◇

「おかえりなさいませお客様、お夕飯は6時ごろにご用意できますのでそれまで温泉に入ってはいかがでしょうか? 」

 そう勧められたので俺達は温泉に入ることにした。


「パパ! おっきいねお風呂! 」

 俺と一緒に男湯に入った柊はペタペタと湯船に向かっていく。

「こら柊、お風呂に入る前に身体を洗ってからだろ」

 そういって柊を逃がさないように捕まえて身体を洗っていく。


「パパくすぐったいよ♪ 」

 そういって身体をくねらせて逃げようとしてくる。

「ほら、頭も洗うぞ! 」

 柊の頭にシャンプーハットを被せてワシャワシャと洗っていく。


「はい、洗い終わったよ。それじゃあお風呂に入ろっか♪ 」

 柊の手を握って、外にある露天風呂に向かって一緒に行く。

「わーい\(^-^)/! 」

 他に誰も居ないからって温泉に飛び込むなよ…。

「こら、飛び込むなって…」


 俺は柊のあとを追ってゆっくりと湯船に入る。

「ほら見てパパ!ワンちゃん泳ぎ♪ 」

 犬かきか…。

「湯船で泳ぐなよ…」

 そう柊にいうと柊は不思議そうに

「お家でいつもやってるのにここじゃダメなの? 」

 家では俺と吹雪ちゃんだけだからいいけど…。


「さすがに家じゃないからダーメ♪ ゆっくり入ろうね♪ 」

 俺は柊を抱っこしてゆっくりと温泉を堪能した…。

「ご飯楽しみだねパパ! 」

 温泉よりご飯か…。そういうところは吹雪ちゃんに似たんだろうなぁ~。

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