魔女の宅配便

「ニャー!」

 どこからか猫の声がする…。

「猫だよね? どこに居るんだろう? 」

 そういって俺は玄関を開けて辺りを調べようとすると

「ミャー」


 ドアを開けた途端、子猫が店の中に入り込んできた。

「うわぁ~! 猫ちゃん可愛い! 」

 そういって吹雪ちゃんは入ってきた子猫を捕まえて頭を撫でている。

「いや、野良猫だからせめて洗ってから抱いてくれ! 」

 吹雪ちゃんにそう伝えて吹雪ちゃんと子猫をお風呂場に連れていく。


 吹雪ちゃん達をお風呂に放り込んだと同時に扉が開いたベルの音がする。

「いらっしゃいませ! 今行きますね! 」

 お店に行くとそこには女の子が不安そうに立っていた。

「いらっしゃい♪ どうしたの? 」

 俺はしゃがんで女の子に視線を合わす。


「あの、あの! ここに黒い子猫が来ませんでしたか? 私の使い魔のシロたんが箒から落ちちゃって! ここら辺に落ちたはずなんです! なのに何処にも居なくて…。どうしましょう(T_T)」

 いや、『どうしましょう』って言われても…。さっきの子猫は白だったし…。 

「ここには居ないよ? 本当にここら辺だったのかな? どこを飛んでたの? 」

 使い魔、箒…。魔女だよな?


「うん、実はこの人の家に行くところだったんだけど、ここら辺なのに見当たらないの…。それで探していたらこの辺りでシロたんが飛び降りちゃったの…」

 そういって女の子は届け先の住所を俺に見せてきた。

「この住所はここで、受取人はジイちゃんじゃん…」

 つまり猫ちゃんが居なくなった原因の1つだってことか…。


「ジイちゃんは、このあいだ亡くなったから代わりに俺がその荷物を引き取るよ! あとシロたん? 探すの手伝うよ…」

 そういって俺は受取書にサインをして子猫を探す手伝いをすることを約束する。

「本当ですかお兄さん? 」

 女の子は嬉しそうに微笑んで俺の手を握ってくる。


 はぁ、面倒なことになりそうだ…。

「吹雪ちゃんに書き置きしておこう」

 俺は吹雪ちゃん宛に書き置きをして外にシロたん? を探しに行くことにした。

◆◇◆◇

「探すのを手伝ってくれるのは嬉しいんですけど、どこを探せばいいんでしょう? 」

 困った顔で女の子は俺のことを見つめてきた。

「そうだね、だけどその前に自己紹介しよう俺は火野岳、君は? 」

 そういって女の子を見ると恥ずかしそうに

「わっ、わたしは優兎ゆうとです。でもこの名前は男の子っぽいって言われるので嫌いです」

 

 そういって頬を膨らませていた。

「そうかな? 優しくて兎の様に可愛らしい子に育って欲しいって意味があるんじゃないのかな? 俺なんて大きくて威厳のある男になれって意味で岳だよ…。まんま岳って言葉の意味を使っただけだよ何の捻りもなく」

 そういって肩をすくめておどけて見せると優兎ちゃんは微笑んでくれた。


「ここら辺のことならとりあえず、あの人に聞くのがベストだよな…。車に乗ってくれる? 今から出かけるから」

 そういって優兎ちゃんを後部座席に座らせて俺はお隣さんの家に向かうことにした。


「こんにちは、神山さん隣の火野です。少しお聞きしたいことがあって来たのですがよろしいですか? 」

 インターホン越しに尋ねると

「何を聞きに来たのかはもう分かっとるよ♪ とりあえず家に1度戻ってみなさい。そうすれば見つかるはずじゃから♪ またケーキを食べにいくからの」

 と言うことだったのでまた1時間かけて家に戻ることにした。

 結果俺達は2時間と往復のガソリンを無駄にしてしまったようだ…。


「ただいま…。ねぇ吹雪…」

 黒い子猫知らない? と声をかけようと思ったのだが…。

「あっ、おかえり~! 」

「ミャー! 」


 吹雪が黒い子猫と遊んでいた…。

「あっ! シロたん! なんでこんなところで遊んでるの岳さんどうしてシロたんが居るんですか? 私に嘘を言ったんですか! 」

 正直俺もどうして黒い子猫が居るのか分からない。

「吹雪、どういうこと? 」


 吹雪ちゃんに尋ねると

「この子、さっきの白猫ちゃんだよ♪ たぶん水性の白い絵の具かな? 被っちゃったみたいで白い姿になってたみたい…」

 それはさすがに気づけなかった…。

「でも、良かった! 飼い主が見つかって…吹雪、その子はシロたんっていって彼女の使い魔らしい返してあげよう」


 そういうと吹雪ちゃんは少し寂しそうにシロたんを優兎ちゃんに返した。

「少し移動しすぎちゃって喉が渇いちゃいました! ココアとかありますか? 飲んでから帰るのでそれまでシロたんのことをお願いできますか? 」

 寂しそうにしていた吹雪ちゃんに優兎ちゃんがお願いをする。


「なんか気をつかってくれたみたいでゴメンね…」

 そういうと優兎ちゃんに謝ると彼女は笑って

「いえいえ、本当に喉も渇いてますし…。あっ! でも苦いのは絶対ダメですからね! 」

 そういうところは年相応の女の子だった…。

◆◇◆◇

「ココアありがとうございました。美味しかったです♪ 」

 そういって彼女はお辞儀をすると箒に跨がる。

「じゃあねシロたん! バイバイ」

 吹雪ちゃんはそういってシロたんの前足を握っている。


「また今度来ますね! ココアも美味しかったしシロたんのお友だちも出来たので♪ それじゃあ失礼します! 」

 優兎ちゃんはそういって飛んでいってしまった。

「ねぇ岳くん♪ 」

「ダメ! 飲食店なんだからペットは飼わないよ! 」


 しっかりダメだと伝えておく。

「えぇ~っ、どうしてですか? ペット可愛いですよ! 」

 どうしても飼いたいらしい。

「ダメ、2人の時間が減るから」

 そういうと吹雪ちゃんは顔を真っ赤にして

「わっ私もペットはまだいいかな♪ ペットは子供が出来てからで♪ 」


 何故か嬉しそうだった…。

(俺は各々の時間が減るって意味だったのに…)

「ねぇ岳くん、ケーキは岳くんに任すから私もコーヒーとか淹れてみたい! 」

 そういってコーヒーミルを持ってくる。

「じゃあ一緒に淹れてみよっか♪ 」

 俺達はそのあとコーヒーを淹れる練習を頑張った。

(どうして料理は凍るのに飲み物はちゃんと淹れることが出来るのだろう? 俺は疑問が更に1つ増えた)

 

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