狼なのに犬山さん

「なんだかあっという間に大きくなったな…」

 神山さんから貰った種を植えてから3日…。しっかりとした木になってました。(2メートルくらいの)

「岳くん見て! 雪ウサギさん作ったの! 」

 

 雪ウサギがぴょんぴょん跳ねてるよ! 何で動けてるの!?

「岳くん、お昼ごはん作っといたからチンして一緒に食べよ♪ 」

 この雪ウサギは放置でいいのかな?

 俺は疑問に思いながらも家に戻り吹雪ちゃんが用意してくれた料理を電子レンジでチンをしてテーブルに持っていく。


「どうかな? オムライスを作ってみたんだけど…」

 どうしてだろう? ケーキとかデザートは俺の方が美味しく出来るのにご飯とか軽食は吹雪ちゃんの方が断然旨い! ちょっと悔しい!

「うんうん、その食べっぷりを見る限り上手く出来たんだね♪ 良かった! 」


 そういって俺達2人はいつもより少し早めにお昼ご飯を食べ終えてお客さんを待つことにした。じつは神山さんが帰ってから3日間誰もお客さんは来ていない。

「そろそろ本当にお客さんが来ないとマズいよな…」

 ここ3日で来たお客さんは雀、カラス、キツネそれに猿…。

「ってここは動物園じゃねえ! 」

 マジで何か対策を考えなくては!


「吹雪、ちょっといい? 」

 隣でコーヒーを淹れる練習をしている吹雪ちゃんに相談をしよう。

「ねぇ吹雪、ここにお店開店して今日まででお客さんは何人来た? 」

 俺の数え間違いではないことを確認するため吹雪ちゃんにそう尋ねると


「お客さんですか? 」

 そういって指を折って数え始める。

「6組ですかね? 」

 へっ? 何を言ってるんだ? 来たのは神山さん、ただ1人だろ?


「えっ? 何か間違ってましたか? 」

 不思議そうに俺を見つめてくるので

「いや、だってお店に来たのは神山さん、ただ1人だよね? 」

 そういうと吹雪ちゃんは驚いた顔で俺に申し訳なさそうに『山中おじいちゃんから何も聞いてないんですか? 』と尋ねてくる。


「えっ?…うん、この店をお前に託すしか言われなかったけど…」

 そういうと吹雪ちゃんは額を手で押さえて

「驚かないで聞いてね岳くん。この山は現世と死後の世界を繋ぐ場所なの、だから霊山って言われてるの、それで私のお母さんや山中おじいちゃんは死後の世界に向かう人達の案内人的な存在でこのカフェは現世で死んでしまって、この山の頂上にある死後の世界との入口を目指して登ってくる人達の休憩所的な場所なの…。だから昨日来たキツネさんとかもお客さんなんだよ? 」


 おぅっ…。驚愕の新事実!

「ってことは俺って死んでるの? 」

 俺っていつのまに死んだのだろう?

「死んでないから! 私も岳くんも! そういうことじゃないから私たちは案内人! 道に迷わない様に見守ってあげるだけだから! それにこのカフェは動物も人も神様も来るってだけで都会のカフェとそう大差ないから!」

 いや、かなり差があると思いますが…。



 そんなことを思っていると外にバイクが停まる音がする。

「ちわぁ~っ、郵便です! 」

 どうやら手紙か何かが来たらしい。

「はーい、すみません今行きます! 」

 とりあえず印鑑を持ってドアを開けると


「ちわぁ~っ! ここに印鑑お願いします!」

 狼男が居た…。

「………キュゥ~ッ………」

 俺は薄れゆく意識のなかで狼男が

『ちょっ、俺を見て気を失わないでくださいよ! 』と慌ててる声が聞こえた気がする。

◆◇◆◇

「うぅっ、何だか悪い夢を見てたみたいだ…」

 目を覚まして辺りを見渡すと吹雪ちゃんがカモミールティーを淹れていた。

「あっ、おはよう岳くん♪ 急に倒れるから驚いちゃったよ! あっ、犬山さんが岳くんのサインが欲しいって♪ 」

 そういうと吹雪ちゃんの横から狼男が現れた。


「おっ、俺なんか喰っても美味しくないぞ!」

 そう叫びながら後ろに後退していく。

「あっ、いや自分ベジタリアンなんで大丈夫です…。それより印鑑かサインをお願いします」

 そういうと狼男は受取書を差し出してきた。


「岳くん大丈夫だよ♪ 犬山さんは狼男なのにベジタリアンで郵便局員さんだから♪ 」

 へっ? 吹雪ちゃん顔見知りなの?

「それより犬山さんが美味しい紅茶とケーキが食べたいみたいなんだけど私、ケーキの材料とか分からなかったからどれがベジタリアンでも食べれるケーキか分からなくて…」


 そういって俺を見つめてくる。

「それならキャロットケーキなんかいかがですか? 吹雪が淹れてるカモミールティーとも相性良いですよ♪ 」

 そういうとむこうからガシャガシャと色々やっている音が聞こえる。

「吹雪はカモミールティーをきちんと淹れてあげて、ケーキは俺が用意するから」

 そういって俺はソファーから起き上がりケーキディスプレイにむかいお皿にケーキを盛り付ける。


「あっ、美味しそうですね! 俺、甘い物大好きなんですよ! うわっ、めっちゃ楽しみ! 」

 そういって狼男はうずうずしている。

「さっきはいきなり倒れてすみませんでした。ドアを開けたら狼男が居て…正直かなり驚いた」

 そう頭を下げると狼男は首を横に振って

「あぁ~っ、大丈夫っすよ! 奥さんから俺達みたいな存在に会うのは初めてだって聞いたんで山中さんは俺の父さんからの付き合いだったんで平気だったみたいですけど普通はそうなりますからね 」


 そういって俺がお皿に盛り付けたケーキと吹雪ちゃんが淹れたカモミールティーを受け取った狼男はケーキに舌鼓を打っている。

「犬山さんって郵便局員なの? バレないの狼男だって…」

 そう尋ねると犬山さんは頷いて

「バレないっす! だってこの姿になるのはここだけって父さん達からきつく言われてるんで約束は大切っす! このケーキ旨いっすね! 」


「ふふっん! そうでしょ!岳くんのケーキとコーヒーは最高なんだから! モキュモキュ! 」

 モキュモキュ? 何してるんだ? 不思議に思い、吹雪ちゃんの方を見るとケーキとハーブティーを飲んで食べている。


「おいっ、何勝手に食べてるんだよ! 」

 そういって吹雪ちゃんの頭をチョップする。

「痛っ! だって美味しそうだったんだもん! いいでしょ♪ お嫁さんなんだから! 」

 どんな暴論だよ! でも吹雪ちゃんは本当に幸せそうに食べるんだよな…。その笑顔可愛くて好きなんだよな…。


「分かったよ! 食べてていいよ! だからせめて立ち食いじゃなくて座ってゆっくり食べろ! 」

 そういって吹雪ちゃんの頭を撫でると吹雪ちゃんは嬉しそうに頷いて席に座ってケーキを食べ始める。

「やっぱり惚れた弱味っすか? 優しいっすね? 」

 うるさい狼! お前が居ること忘れてた! めっちゃ恥ずい!


「知らん! ってか吹雪お前ハーブティー何杯目だよ! さすがにちょっとは遠慮をしろ! 」

 その日はいつもより賑やかな1日になった…。

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