お客様は神様です!

「おぉ~つ、元気じゃな! 早速来たよ火野くん」

 そういってお店に来店してくれたのはお隣さんの神山かみやまさんだった。

「あっ、神山さん! 早速来てくれたんですね! ありがとうございます」

 とりあえずカウンターの席に神山さんを案内する。


「おや? もしかして彼女は火野くんのコレかな? 」

 そういって神山さんは小指を立てて俺に確認をしてくる。

「まぁ、そんなところです」

 そういうと俺と神山さんの会話を聞いていたのか吹雪ちゃんがこちらにやって来て


「『そんなところ』じゃないですよ! きちんと妻だってことを伝えてくださいよ! 恥ずかしいからって言葉にしなくちゃ伝わらないことは、いっぱいあるんですよ! なので訂正をお願いします♥」

 そういって俺の顔を見つめてくる。

「神山さん、彼女は俺の暫定嫁です」

 そういうと吹雪ちゃんは不服そうに頬を膨らませて

「何で暫定なんですか! 私より好い人が出来たら私を捨てるつもりなんですか💢」

 そういって俺のことを睨み付けてくる。


「違う! 違うから落ち着いて! だってまだ式も挙げてないし、届け出だってまだでしょ! だから気持ちは夫婦でも正式にはまだなってないでしょ! だから暫定嫁なの! 」

 そういって吹雪ちゃんの肩を掴み、彼女の顔をジッと見つめると彼女は恥ずかしそうに視線をそらして『それならいいよ…』と呟いてカウンターの中に戻る。


「ククッ、痴話喧嘩か? 仲が良いねぇ」

 しまった神山さんが来店してたんだった。

「見苦しいところをどうもすみません。俺のお客さん第1号なのでお代はいいですよ♪ 何飲みますか? 」

 そう尋ねると神山さんは嬉しそうに笑うと

「それじゃあわしはブルーマウンテンとこのプティングタルトを貰おうかの?」

「はい、ありがとうございます」

 そういって俺はコーヒーとタルトの準備をする。


「美味しそうですね♪ 私も食べたいです♪ 」

 吹雪ちゃんがそういってプティングタルトを見つめている。

「分かった、あとで吹雪の分も切り分けておくからあとで食べて♪ 」

 そういって切り分けたタルトをお皿に盛り付けてサイフォンで抽出し終えたコーヒーをカップに注ぎ、タルトと一緒に提供する。


「おぉ~っ、美味しそうじゃなぁ♪ コレはプリンのタルトなのか? 」

 神山さんはそういってプティングタルトを美味しそうに食べてくれる。

「本当に美味しいです♪ 」

 いつのまにか吹雪ちゃんがプティングタルトを食べていた。


「ねぇ吹雪…。お客様が居るのにここで食べないでよ…。上で食べてきな♪ 」

 そういって吹雪ちゃんを上に行かせようとすると神山さんが

「大丈夫じゃよ。火野さんの大事な人なんだろ? そんなことを言っちゃダメだぞ。お客さんは今、儂しか居ない様だし問題ないから落ち着いてゆっくり食べなさい」


 そういうので俺と吹雪はそのお言葉に甘えて同じブルーマウンテンとプティングタルトをお皿とカップに用意してコーヒーテーブルに場所を移動して俺と吹雪は朝の様にぐでーっとする。

「ほんに似た者夫婦じゃな…」

 そういってホッコリした笑顔で俺と吹雪ちゃんを神山さんは眺めていた。


「2人ともおかわり飲みますか? 俺のオススメでよければ♪ 」

 そういって俺はマンデリンの豆を挽いてお湯を注ぐ。

「ほぉ~っ、美味しそうな匂いじゃな! どんな味なんじゃ? 」

「本当です♪ 何だかコーヒーの香りって癒されます♪ 」


 2人はそういってコーヒーの香りを楽しんでいた。

「コレはマンデリンって言ってインドネシアのコーヒー豆でコクのあるやわらかな苦味と、上品な味なんです♪ 俺が好きなコーヒーの種類なので実は他の物より少しだけお高いのを使ってます」

 そうしてゆっくりと注いだマンデリンのコーヒーを2人に渡す。


「コレが岳くんの好きなコーヒーなんだね♪ きっと私も好きになれるはず♪ 」

 そういって吹雪ちゃんはひとくち飲むと顔をしかめて

「うぅっ、ちょっと苦い…。お砂糖貰える?」

 俺は頷いて砂糖とミルクを渡す。

「儂も香りは好きなんだか少しばかり苦いな…」


 どうやら2人の口には合わなかったらしい

「そういうときはミルクを少し入れると味がまろやかになって美味しいですよ♪ 」

 そういってコーヒーカップに少しミルクを入れる。

「あっ、本当だ! 美味しい! 」

 神山さんも頷いてコーヒーを飲んでくれた。

◆◇◆◇

「それじゃあ儂はそろそろ帰って畑仕事をするかな? 」

 そういって神山さんは立ち上がる。

「今日はありがとうございました。コレ良ければ皆さんで食べてください♪ 」

 そういって俺はシナモン香るアップルパイを神山さんに渡す。


「おぉっ、すまんの! ありがたく戴くよ♪ そうじゃっ! 儂からも1つ良いものをあげよう♪ ほれっ! 」

 そういって渡されたのは何かの種だった。

「コレ、なんの種ですか? 」

 そう尋ねると神山さんは笑いながら


「植えてみれば直ぐに分かるはずじゃよ♪ ではな♪ 」

 そういって神山さんはオープンカーになった軽トラックで帰っていった…。

「ねぇ岳くん! あの車カッコいいね! 」

 いや、あれって公道を走っていいんだっけ? ダメだよね?


「それにしてもこの種ってなんだろう? 」

 そういって吹雪ちゃんに見せると彼女は驚いた顔で

「岳くん! この種、あのおじいちゃんがくれたの!? コレ生命の樹の種だよ! この木から取れる木の実は天にも昇る甘さって話だよ! この種を持ってたってことは…」

◆◇◆◇

「ふぉっ、ふぉっ! まったく面白い人の子が儂の山に引っ越してきたな♪ それに雪女が人の子にベタぼれときた! これが面白くないわけなかろう! それにさっきの、『たると』といいこの『あっぷるぱい』といい甘味が美味しい! 文句無しじゃ! これからが楽しみじゃの♪ 」

◆◇◆◇

 えっ、あの人が山神…。なんだろう雪女といい山神といい、ここには普通の人は居ないのか?

「お~い、岳くん大丈夫? 」

「全然大丈夫じゃないよ! かなりビックリしたよ! 」

 とりあえず種は家の隣を耕して出来た畑に植えました。

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