第1章 その出会いは突然に!

彼女は雪女で俺の押しかけ女房

 おひさしぶりです! 岳くん!

「ちょっ! 何で雪の中ワンピース姿なんですか! 」

 そういって俺は外に居た白いワンピース姿の女性の腕を掴んでとりあえず家の中に入れる。

「ふぁっ! ちょうど良い温度! あっ、でも少し暑いかな? ちょっと窓を開けてもいいですか? 」


 何を言っているんだこの娘は…? 外は雪が降ってるんだぞ?

「どうしてこの雪の中、白のワンピース姿で居たんだい? ほら身体が冷たくなってるじゃないか…。今温かい飲み物作るから座ってて」

 そういって俺はカウンターに入りカップを用意する。

「あっ、それなら私はココアがいいです!」


 何か図々しい奴だな? そんなことを思いながらも作ってしまっているのは商売人のさがか?

 そんなこんなで作り終わったココアを彼女に差し出す。

「ありがとう! ねぇねぇ、ここって山中やまなかおじいちゃんのカフェだよね? 表札が火野に変わってたんだけど? 」


 そういって白のワンピース姿の彼女は不思議そうに俺の顔を見つめてくる。

「あぁ、ジイちゃんのお客さんだったのかな? ジイちゃん、この間老衰で亡くなったんだよ…。それで孫の俺がこの家と店を継ぐことになったんだよ」

 そういって俺も自分で作ったコーヒーをゆっくりと飲んでいく。


「へ~っ、山中おじいちゃん亡くなっちゃったんだ…。お線香あげても良い? 」

 彼女はそういって俺を見つめてくる。

「ありがとう、ジイちゃんも喜んでくれると思うよ! それじゃあ2階に来てくれる? 」

 俺は立ち上がりカウンターの奥にある階段を案内する。

「それじゃあ失礼します」

 彼女は俺のあとを追って2階にあがってくる。


「ジイちゃん、お客さんだよ! こんな可愛い女性とどう知り合ったんだか…」

 そういって後ろにいる彼女をジイちゃんの位牌の前に彼女を連れていく。

「そんな可愛いだなんて…。あれ? でも確か山中おじいちゃんの孫って…」

 なんだか独り言をブツブツ言いながら彼女は線香をあげて手を合わせていた。


「そういえば山中おじいちゃんの孫って言ってたよね? もしかして岳くん? 」

 1階に戻ってきた俺に白のワンピース姿の彼女がそう尋ねてきた。

「うん、火野岳だけど…。君は? 」

 彼女に尋ねると彼女は笑いながら

「私だよ! 雪乃せつの吹雪ふぶきだよ! 小学生1年生の時に一緒に山で遊んだじゃん! それじゃあ、もしかしてあの時の約束を守ってくれるの? 」


 あの時の約束? それに雪乃吹雪? ダメだ全く覚えてない…。

「あっ、もしかして私のことも約束のことも忘れてる? もぅ~っ、ヒドイなぁ! ショックで泣いちゃうよ! 」

 そういって潤んだ瞳で俺を見つめてくる。

「ごめん、何も覚えてないです。俺は何を君と約束したのかな? 」


 何か変なことを言ってないか不安になりながらも彼女に尋ねると彼女は顔を真っ赤にさせながら

「おじいちゃんの店を継いで働けるようになったら私を迎えに来るって…」

「それってつまり…」

「私をお嫁さんにしたいって♥ 」


 マジかぁ~! そんな約束を小学生の俺はしてたのか!

「子供の頃の話だからね、本気になんてしてないよね? 」

 彼女に確認すると彼女はショックを受けたのか口を開けたまま放心していた。

「嘘…だったんですか? 私に期待させて楽しんでたんですか?ヒドイです! サイテーです! 」


 放心していたと思ったら急に怒り始めた!

「もういいです! やっぱり人間なんて信用出来ません! あの時からずーっと待ってた私がバカでした! もうみんな凍っちゃえばいいんです! 」

 そういうと彼女の姿は雪の様に真っ白になって辺りの温度が急激に下がっていく。

「えっ! ちょっ! どういうこと? 君も人間でしょ? それに『みんな凍っちゃえばいいんです』っていうけどいくら寒いからって凍死するとは思えないんだけど? 」


 そう尋ねると彼女は近づいてきて真っ青な顔で『私、人間じゃないんです。雪女なんですよ? 』と言ってきた。

「そんな冗談はいいから! 君も顔が真っ青じゃん! ほらこっちきて! 」

 そういって彼女を抱き寄せる。

「こうすれば少しは温かくなると思うから! あぁ~っ、ブレーカー落ちてないしエアコンも点いてるのに何で寒いんだ? 」


 疑問に思いながらも彼女を抱き寄せると予想以上につめたくえていた。

「もう、何で岳くんはそんなに雪女の私に優しいんですか? 1人で怒ってる私がバカみたいじゃないですか! 」

 そういって頬を膨らませて俺の腕の中からジッと俺を見つめてくる。


「さっきから自分のことを雪女って言ってるけどそんなの関係ないよ! 俺の目の前には雪乃吹雪さんって女性しかいないから! 君が自分のことをどう思ってるか知らないけど俺から見たら可愛らしい女の子だから! それより昔、こんなことがあったような気がするんだけど…。うぅ~ん記憶があやふやだなぁ~? 」

 そういうと彼女は頷いて

「うん、岳くんが1年生の時に1回だけ冬のこの山に来たよね? その時に岳くんは夕方になっても帰ってこなくて…」


 そういえば昔、俺は雪山で遭難したことがあったって母さんが言っていた様な…。

「それで吹雪のなか私と私のお母さんは雪の中でも平気だから君のことを探しにいって…」

 そうだ、あの吹雪のなか俺は帰り道が分からなくなって1人で泣きながら雪がしのげる場所に居て…。

「私が岳くんを見つけて2人で抱き合いながら一夜を明けたんだよ? 」


 俺はもう1度彼女の顔をよーく見る。

「うん、言ってた…。『絶対おじいちゃんみたいになって吹雪ちゃんを迎えに行って僕のお嫁さんにするんだ』って…」

 しかもこの子その時着物着てて日本昔話に出てくるみたいだって言ったら『うん、吹雪は雪女だよ~! 』って言ってお母さんに『何本当のことを言ってるの! 』ってメッチャ怒られてたな…。


「吹雪さん、再会してすぐに結婚ってのは俺が忘れていたのが原因なんだけどさすがに無理なので先ずは結婚を前提にお付き合いしてくれませんか? 」

 彼女にそう尋ねると彼女は顔を真っ赤にして

「うん、でも浮気したら凍りつけるからね♪ あと私も今日から岳くんと一緒にこのお家で生活する! 良いよね? 」

 こうして彼女との奇妙な協同生活が始まった。

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