第77話 卒業試験
戦争が終結して、何日かが過ぎて。
ビブリード帝国に破壊された街並みは、徐々に復興の兆しを見せつつあった。
通りを冒険者たちが行き交い、行商人が露店を開いて道行く人を呼び込みしている。
国が平和になったことを噛み締めるかのように、その光景は街のそこかしこで見ることができた。
冒険者ギルドは、いつもの通りに営業していた。
訓練場には子供たちが通い、元気の良い掛け声が聞こえてくる。
そんな中で──アメルは、冒険者としての身支度を整えた格好で、ナターシャの言葉に真剣な顔で耳を傾けていた。
「卒業試験だ。この
ナターシャは一枚の
「キラーボアの討伐。街道に棲みついて暴れているというこいつを、あんた一人の力で倒してもらう」
キラーボアとは猪の魔物で、普段は森など自然が豊かな場所に生息している生き物である。
性格は凶暴。鋭い牙とその巨体で襲った相手を怪我させる、それなりに場数を踏んだ冒険者でも討伐には苦労を要する魔物なのだ。
「今までにレオンとの特訓で学んだ知識や技術をフルに使わなければ勝てない相手だ。油断するんじゃないよ」
「うん」
アメルは受け取った受注書を肩から下げている鞄にしまって、力強く頷いた。
「私、絶対にやり遂げてみせるよ」
ナターシャが頷き返す。
アメルは彼女の隣にいるレオンに目を向けた。
レオンは車椅子に座って、ぼんやりとした眼差しをアメルに向けていた。
ふわふわとした希薄な雰囲気を纏ったその様子は、まるで幽霊か何かのように存在感がなかった。
起きているかどうかもよく分からない──薄く開かれた瞳には、アメルの姿が映っている。
アメルはレオンの顔を覗き込んで、言った。
「レオン。行ってくるね」
「……ああ……」
小さな、呟きのようなレオンの声。
アメルは力強く前を見据えて、訓練場から出ていった。
ナターシャは腕を組んで、アメルが姿を消した建物の扉を見つめた。
「……いよいよだね。あんたが教えてきたことがちゃんと身になってるかどうかがこれで分かるよ」
「…………」
レオンはゆっくりと息を吐いて、目を閉じた。
「あの子がちゃんと帰って来るまで、待っててやるんだよ。途中で投げ出したりするんじゃないよ」
レオンからの返事はない。
ナターシャはふっと息を吐いて、穏やかに眠るレオンを静かに見た。
「……あんたは、あの子の教官なんだからさ」
名前も分からない小さな鳥が、甲高く鳴きながら二人の頭上を飛んでいった。
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