第72話 残された者の思い
冒険者ギルドに戻った二人を迎えるラガンと子供たち。
血まみれになったレオンの姿に、子供たちは騒然となった。
それを、レオンは傷は薬で治ったからと懸命に落ち着かせた。
子供たちの顔ぶれをぐるりと見回して──気が付く。
その中に、銀の髪の少女の姿がないということに。
「……アメルは?」
尋ねるレオンに、ラガンは静かに答えた。
「あの子は……さっき国軍の兵士に連れられて出ていったよ。ビブリードの飛空艇と戦うために、飛空艇団のところに行ったんだ」
「……それを、黙って見てたんですか!? 何故、止めない……!」
大声を出したせいで目が回ったのだろう。レオンは顔を顰めて額に手を当てると、辛そうに俯いた。
ふーふーと荒い息をする彼を見つめて、ラガンは言った。
「これは、あの子の意思だ。あの子は自分から飛空艇団に加わると言ったんだよ」
レオンを守りたいと言っていたよと聞かされて、レオンは沈黙した。
いつの間に……自分で、歩き出せるようになっていたのだろう。
知らないうちに立派に成長していたアメルの心を知らされて、それに気付けない自分は教官失格だと思った。
「……レオン」
黙りこくったレオンを心配そうに見つめるナターシャ。
レオンは顔を上げると、彼女に言った。
「ナターシャ。僕を国軍のところに連れて行ってほしい」
「……何を言い出すんだい。あんたはもう……」
「頼む。僕の最初で最後の我儘だ」
ナターシャの言葉を遮って、彼は懇願する。
「僕は、アメルが自分で決めた道を進むところを見届けたい。あの子の邪魔はしないと誓う。お願いだ」
「…………」
ナターシャはくしゃりと前髪を掻き上げた。
「駄目だよ。今のあんたが行ったところであの子の邪魔になるだけだ。大人しく此処で、あの子の帰りを待っているんだね」
「ナターシャ」
「駄目だ」
かぶりを振って──彼女は、背後から覆い被さるようにレオンを抱き締めた。
こつんと額を肩に触れさせて、彼女は呟く。
「喜んで死にに行くような真似は、しないでおくれ……お願いだよ」
彼女の全身は震えていた。
そこまで頼まれては嫌だと言うこともできず、レオンは俯いて、国軍と共に行ったアメルの安否を静かに思うのだった。
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