第4話 身支度を整えよう
リンドルの森。リンドルの街の隣に広がっている、彗星が落ちた森の名前である。
広さはリンドルの街が並んで二つすっぽりと入るほど。小さいながらも湖があり、食用になる
資源に恵まれた環境は多くの生き物の棲み処になっており、その中には自然を好む魔物も多く含まれている。
街の人間も野草を摘みに頻繁に足を運ぶ場所ではあるが、それは森の入口付近に限られる。森の奥は未開の土地なのだ。
レオンは冒険者だった頃に森の奥にはよく足を踏み入れていたので、この調査が危険を伴うものであることは分かっていた。
だから、決して二つ返事では頷かない。
「僕一人だけですか? 冒険者の同行者とか、警備隊の応援とかはないんですか?」
「国からはなるべく急ぎで調査結果をくれと言われてるんだ。今から
難しい顔をして腕を組むラガン。
冒険者に何らかの仕事を依頼する場合、それは
すぐに依頼を引き受けてくれる冒険者が見つかれば良いが、そうとは限らない場合もある。急ぎを要する依頼の場合は
「警備隊の方は?」
「一応話はしたんだが……街の警備で手一杯だって言われて断られたよ」
「……相変わらずですね。まあ、警備隊なんてそんなものだとは思ってましたけど」
溜め息をつくレオン。
前髪をくしゃりと掻き上げて、彼は文書をラガンに返した。
「……分かりました。急ぎだと言うならこれから行ってきますよ」
「無茶な依頼だとは俺も分かってる。すまないな、レオン」
ラガンは心底申し訳なさそうに言った。
「出張ボーナスはちゃんと出すからな」
「ありがとうございます」
レオンは礼を述べて冒険者ギルドを出た。
壁に掛けられた時計の針がが七時を指したのは丁度この時だった。
ベージュ色の建物が連なる閑静な住宅街。
その中の小さな一軒家の前で、レオンは足を止めた。
此処は、彼の家である。
森に出かける準備をするために、戻ってきたのだ。
彼は玄関の鍵を開けて中に入り、まっすぐに寝室へと向かった。
寝室は、小さなベッドと古くて大きなクローゼット以外には何もない。見事なまでに殺風景な部屋だ。
彼は部屋を飾ることをあまり好まないため、必要最低限の家具しか置いていないのである。
クローゼットの前に立ち、扉を開く。
仕事着として使っている衣服が数着、吊るされている。その陰に隠されるようにして、細身の剣が二本立て掛けられている。レオンはそれを手に取った。
これは、レオンが冒険者時代に愛用していた剣である。二本で一組の業物で、彼はこれを両手に持って戦うのを得意としていた。
鞘に付いているベルトを腰のベルトに引っ掛けて固定し、剣を抜く時に引っ掛かりがないかどうかを確認する。
うん、と頷いて、彼はクローゼットの扉を閉じた。
「……こんなものを使わずに済むのが一番なんだけど、ね……」
呟いて、彼は寝室を出た。
次に台所へと向かい、洗った状態で調理台の上に置かれているカップを手に取り、棚からミルクの入った瓶を取り出す。
カップ一杯にミルクを注ぎ、それを一気飲みして、ふうっと息を吐いた。
「よし、行こう」
ミルクの瓶を棚に戻し、カップを調理台の上に置いて、彼は台所を後にする。
玄関を出て鍵を掛け、鍵をポケットに突っ込み、一路森を目指して歩き始めた。
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