帰宅部は時にして俺を救う

 今日は俺にとって最悪な日である。1か月後に近づいてきた修学旅行の班決めを行い、その後班での話し合い。

 友達がいる人にとっては楽しくてしょうがない日だろうが、友達がいない俺にとっては入れてもらえる班が見つからず、一人ぼっちになっている俺を見かねた先生が、「久坂部くさかべくんもいれてくれないかな?」とか言ってどこか適当な班に無理矢理入れるんだよ。結局その班の中でぼっちだから変わらないが、ならいっそのこと、初めからぼっちでいた方が楽だ。

 そして、ここの学校の場合、クラスの中に友達がいなかった時の為なのか知らないが、クラス関係なしで班を決める。

 しかし、俺クラスにもなると、クラスどころか学年全体にすら友達がいない! だから、皆に学年全体に友達がいないのばれるよね……。何この悲しい現実。

 頭の中でそんなようなことをずーっと考えていたら、先生の説明は終わっていたらしく、周りは次々と班を決めだした。俺は例のごとく入るところがないので机に肘をついてその様子をただ眺めていた。

「――ねぇ、――ちょっと、――ねぇってば!」

 ふわっと優しい声が鮮明に聞こえた。俺の目の前には加西かさいが少し顔を赤くして立っていた。

「お、おう。わるい。考え事してた」

「う、ううん。べ、別にいいんだけど。あのさ、修学旅行の班、一緒に組まない?」

「え。俺とか?」

 今までにない展開で、俺は素で驚いた。

「うん。ダメ?」

 加西は目をウルウルとさせていた。

「加西が俺と組みたいのなら別にいいぞ」

「やったぁ!」

 加西はホッと肩をなで下ろし、とても喜んでいた。

 心の中ではその数100倍俺は喜んでいた。

 でも、喜ぶのはまだ早かった。俺たちはまだ2人だ。この班は最低でも6人でなければいけない。あと4人必要だ。

「うーんっと……。後どうしよっか」

「そうだな……」

 しかし、周りはほとんど班が出来上がっている。誰か良い人はいないかときょろきょろしていると、教室の隅の方で陣内じんないが一人立っていた。

 しょうがない、陣内を入れるか。と、思ったが、あいつのことだ。「結構よ」とか言いそう。いや、絶対言う。

 一歩踏み出しかけた足を俺はそのまま元の位置に戻した。結局何もできないままでいると、タタタッと桧倉ひくらが俺たちに駆け寄ってきた。

「何さっきからキモイ行動してんの?」

「は? キモイ行動してねーだろ」

「してるよ。キョロキョロして、動くのかと思ったら動かないし」

「お前の方が俺なんかを観察しててキモイぞ」

萌百菜ももなはキモくない!」

「で、なんか様か?」

「え……っとねー。萌百菜も入ろっかなーって」

「どこに?」

「どこにって……。ここ」

「は? 何言ってんの? 桧倉にはもう入るとこが決まってんだろ」

「別に、決まってるわけじゃないよ」

「あ、同情ならいいぞ。気にするな」

「同情じゃない! ただ、一緒にいろんなとこ、周りたいなって思ったの」

 桧倉の声はいつもよりも落ち着いたトーンでだった。

「桧倉さんがいいなら、入ってもらおうよ」

「そこまで言うならな」

「うん。ありがと」

 桧倉は少し照れながらお礼を言った。

「じゃあ、あと3人連れてくるから待ってて!」

 そう、桧倉が入ったとしても人数が足りない。

 にしても、人集めてくれるの? それはとてもありがたいが、誰を連れてくる気だ……。

「これで6人ぴったりだよ」

 桧倉が足りなかった3人を連れて笑顔で戻って来た。

「3人って、こいつら?」

「何! 不満なわけ?」

「いや、別に不満ってわけじゃ……」

 俺が言葉に詰まっていると3人のうちの一人が凍てつくような声を発した。

「私は不満よ。なぜ修学旅行まで久坂部くんと一緒でないといけないのかしら」

 そう言ったのは腕を組みながら俺を睨む陣内だった。

「じゃあ、なんで来たんだよ」

 俺がジト目で陣内を見ると、急に照れくさそうにしてきた。

「桧倉さんがどうしてもというから仕方なくよ」

 口ではそう言うが、結構部活では2人仲いいと思いますよ。

「まぁ、帰宅部のみんなで旅行なんて、こういう機会でもないと一生なさそうだからいいかもな」

 桧倉に連れられた3人のもう1人、新島にいじまがそう言うと残りの1人が不満げに文句を言い出した。

「るり、帰宅部じゃないんですけどー」

「ほら、るりは毎日来るからほぼ帰宅部みたいなもんじゃん! ね?」

 桧倉はそこで加西に同意を求めた。

「そうだね。細かいことは気にせず、一緒に楽しもうよ!」

 いかにも優しい加西が言いそうなことだ。

 可愛くて優しいとか、ほんと神スペックすぎる。加西が女の子ならな……。

 うだうだ言いながらも俺たちはこの6人で班を作った。と同時に、他の奴らも何とか作り終えたようだ。

「班が出来たみたいなので班長と副班長を決めて、今三宅みやけ先生が配っている紙に班長と副班長、そしてメンバーを書いて提出してくださーい」

 学年主任の先生が説明している最中、一番年下の三宅先生が班ごとに紙を1枚配っていた。下っ端って、大変ですね。

 三宅先生に同情をしていると、桧倉がすくっと立ち上がった。

「じゃあ、部活と一緒で班長は燎太りょうたで、副班長は沙彩花さやかね」

「え。何それ。聞いてない」

「だって、今決めたもん。じゃあ、出してくるね~」

 紙をひらひらとさせて桧倉は提出しに行った。

「陣内はいいのか?」

「なんとなくそうなる気がしてたわ。まぁ、部活の延長だと思えば私も納得するわ」

「そんなんで納得するのかよ」

 みんなにとっては普通の修学旅行のはずが、なぜか俺たちは部活動に代わってしまった。何で修学旅行まで部活動しなきゃならんのだ。帰宅部おかしすぎるだろ。

 まぁ、でも、そのおかげで俺のぼっちが明るみにならずに済んだんだけど。

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