それでも陣内は悩んでいた
文化祭から数日たったが
「皆さん、2年生に進級するにあたりクラスを理系と文系によって分けなければなりません。だから、みんなが理系と文系どちらに進みたいのか、また、どういった進路を希望しているのかを知るために紙も書いてもらいますが、面談を行いたいと思います」
そう言うと、
「ちなみに、提出日は1週間後です。面談は昼休みを使って行いますが、帰宅部の5人は部活時間にします」
え。俺らだけ別なの? まぁ、みんなと違って放課後暇してますもんね。
***
本当に帰宅部だけ部活の時間に面談を行い、提出日である1週間が経った。今日も放課後はいつものように帰宅部は教室に残っていた。
「みんなは理系と文系どっちに進むの?」
「俺は理系」
「僕は理系科目なんて全くできないから文系しか道がないよ……」
「
「そんな桧倉はどっちなんだよ」
「
「ひ、ひどいよ!」
「ごめん、ごめん」
桧倉は加西をからかうといたずらな笑顔を見せた。
「
ずっと伏せていたのに新島は俺に聞いてきた。こんだけ一緒に活動していれば俺が寝ていないことはわかっているらしい。
「さぁ、どっちだろうな」
「うわ、めんどくさ」
桧倉は答えを出さなかった俺にイラっとしたらしい。かなり嫌な顔をした。
「燎太、隠したところでどうせ2年になったらわかることだけどな。ま、いいや」
たいして興味があったわけではなかった
「燎太は頭いいから理系でも文系でもどっちでも行けるからいいよね」
加西は羨ましそうに俺を見ていた。
「そういえば、
桧倉はみんなに聞いたが誰もその行方は知らないらしい。もちろん俺もだ。その時、三宅先生がやって来た。
「
「それがいないんですよー」
「陣内さん、帰っちゃったのかな?」
「陣内なら何か言って帰るだろ」
「沙彩花、まだ進路調査票出してないの?」
「うん。面談の時から悩んではいたからまだ悩んでいるのかもしれないけど、そろそろ出してもらわないと……」
もしかして、陣内、逃げたのか!……な、訳ないか。
「陣内さん、まだ悩んでいるようなら相談に乗ってあげてくれないかな」
「はーい! わかりました!」
「じゃあ、よろしくね」
そう言うと、三宅先生は帰って行った。
今日の活動は陣内の進路の手伝いってことか。とはいえ、当本人がいないんですが。
「そもそも陣内いないのにどうすんだよ」
俺はこの現状でどうするのかみんなに聞いた。
「でも、こういうのって沙彩花から言ってくれないとさ……。こっちから言うのってなんか違う気がするんだよね」
桧倉は机に両肘をついて手のひらに顔を乗せた。
「た、確かに。何も知らないのに一方的に言ったら困るよね」
「陣内が自分から相談するとは思えないけどな」
中学から一緒の新島は陣内の性格を理解しているようだった。
でも、俺も新島に同意だ。
「まぁ、そーだけどさー」
そう言うと、桧倉はスマホをいじりだした。
「電話してみる?」
桧倉は陣内に電話をかけた。しばらくしても陣内が出る様子がない。桧倉も電話を切ろうとしたとき。
「もしもし」
電話の向こうから陣内の声が聞こえてきた。
「あ! もしもし! もう、切っちゃうところだったよ。今どこにいるの? ……あ、うん。仕事が来たから。……じゃあ、教室で待ってるね~」
話を終えた桧倉は電話を切った。
「沙彩花、今からこっち向かうって」
「仕事って言ったけど大丈夫かよ」
「まぁ、これも私たちの仕事でしょ。
みんなで陣内を待つことにしたが、俺は陣内が来る前にコーヒーを買いに教室を出た。
***
コーヒーを買い終えて教室に戻ろうとしたところで俺は陣内に会った。
「お、おう」
「あら、仕事は?」
「陣内が来ないと始まらないんだよ」
「そう。なら申し訳ないことをしたわね」
よく見ると、陣内は1枚のプリントを持っていた。
「それ、もしかして、進路調査票か?」
「そ、そうよ」
陣内はそのプリントを後ろに隠した。
「まだ、悩んでるのか」
「ええ」
「陣内はちゃんと将来のこと考えているんだな」
「私は考えていないわ。考えているのは母よ。私は母の言うことを聞くだけ」
俺は陣内が自分の意志を持って行動しているとばかり思っていた。だから、この返答に少し動揺した。
「そうなのか。でも、それならすぐに出せるだろ」
「そうなのだけれど……」
陣内はうつむいたままだった。
俺には陣内が何に悩んでいるのか分からなかった。
「
「俺がどっちに行こうが陣内は興味ないだろ」
「そ、そうね……」
え、もしかして、そんなに俺と一緒になりたくないのか。
2人で話しながら歩いているとA組の教室に着いた。陣内は教室のドアを開けず、その場で止まった。
「申し訳ないのだけれど、私、三宅先生に進路調査票を提出するからみんなにもう少し待っててくれるよう伝えてくれるかしら」
「決めたのか」
「特にやりたいこともないのだし、母の期待に応えるわ」
「そうか」
陣内はそのまま職員室へと向かった。
結局、陣内はどっちにしたのだろうか。そもそも、陣内が何に悩んでいたのかも知ることはできなかった。だが、陣内が決断したのなら、今日の仕事は終わりだ。
教室の戻り、買ってきた缶コーヒーを一口飲んでしおりを挟んだ本を手にした。
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