加西は純粋でやっぱり可愛かった
夏休みが終わり、2学期が始まった。そして、2学期の始まりとともにクラスの文化祭の準備が始まった。俺たちのクラスはクラス企画とバザーを合体してメイド喫茶をすることになった。なんか、ベタだな。
「ピンクがいいなー」
「えー、水色の方が可愛いよ」
何かを見ながら女子たちが異様に盛り上がっていた。見すぎたのか、その輪の中にいる
「何か用事ある?」
「別にねーよ」
「でも、ずっとこっち見てたじゃん」
「いや、うるさかったから」
「あー。今、クラスTシャツのデザイン決めてたの。燎太も一緒に決める?」
「決めねーよ」
「どうせ
「え、俺も着るの? いらないんだけど」
「クラスの一体感を出すために買うんだから、燎太もちゃんと着てよ! せめて形だけでもクラスに溶け込まなきゃ」
ちょっと、さらっと結構ひどいこと言ってるよこの子。
「お、おう」
俺と桧倉が話している間に女子たちはどうやらクラスTシャツのデザインを決めたらしい。
「でも、この絵誰に描いてもらうの?」
「絵とか描けなーい」
「誰か上手そうな人いないの?」
「確か、中学一緒だったけど
「じゃあ、沙彩花ちゃんに頼も」
普段は一言も話しもしない女子たちが
「沙彩花ちゃん、この絵をクラスTシャツのデザインにしたくて描いてほしいんだけどいい?」
「ええ。いいわよ」
「ホント、ありがと~」
頼み終えるとすぐに陣内のもとを去って行った。
***
俺が自販機でコーヒーを買い、屋上で飲もうとしたら先客がいた。
「そんなに仕事を受け持って大丈夫かよ」
「平気よ。大したことないわ」
「でも、委員会の仕事もあって、その上クラスTシャツのデザインって時間やばいだろ」
「何とかなるわ。じゃあ、私は戻るから。あなたもさぼってないで準備しなさい」
陣内は颯爽と戻って行った。
***
文化祭当日。何とか委員会の準備も間に合った。
「2017年9月10日。
委員長の放送とともに文化祭は幕を開けた。早速俺と
「俺たちこの後クラスの店番だよな」
「せっかくの文化祭なのに休み時間がないなー。いろいろ回って見たかったのに」
いや、誰にも気づかれずに家に帰りたいだけなんだけど。
「あ、ファッションショー始まったな」
委員会の企画であるファッションショーは俺たちの場所からでも見えるところで行われていた。
「みなさーん、楽しんでますかー?」
ピンクを基調とした衣装で登場したのは桧倉だった。メイクもばっちりしていてもはや言われなかったら誰だかわからないレベルだ。
「今から高咲台のおしゃれな人たちが登場しますが、まずは私と一緒に司会を務めてくれるゆーちゃんを紹介しまーす! 皆さん、一緒に読んでくださいねー。せーのっ!」
「ゆーちゃーん!」
え、ゆーちゃんとかそんな人いたっけ? みんなに名前を呼ばれて登場したのはマッシュルームヘアの女子だった。
「み、皆さんこんにちは。ゆーちゃんです。今日はももちゃんと一緒に司会します。がんばります」
なにこれ、チョーかわいいんですけど。こんなかわいい女子この学校にいたっけ? まぁ、ここの学校の人ほとんど知らないけど。
「なぁ、もしかして、あれ
「えっ!」
うそ、あんなかわいいのに男子なの? 俺今もう少しで好きになるところだったんだけど。でも、よく声を聴いていると確かに
「桧倉、ずーっと結優の衣装見せなかったのはこれか。それにしても、結優は女装が似合うな。な、燎太。……おい、聞いてんのか?」
「え。おう」
あまりに見とれすぎて新島の声が聞こえなかった。
「燎太、もしかしてタイプか?」
「ちげーよ」
いや、違わないけど。ここで認めたら俺BLだと思われちゃう。え、もしかして、俺が気づいてないだけで本当はそうなのかな……。
「では、最初のモデルは――」
桧倉と加西の司会でファッションショーは順調に進んでいった。クレープを売りながらお客さんが来ないときは加西、じゃなくて、ファッションショーを見ていた。
やばい。俺、ホントにあっち系なのかな。
「そろそろクラスの方に行こうぜ」
「おう」
あー。もう少し加西を見てたかった。
外も盛り上がっているが教室の中も盛り上がっており、俺たちのクラス企画のメイド喫茶もたくさんの人が集まっていた。
「店番俺たちが代わるよ」
「あ、新島くん! と……。うん。店番よろしくね~」
あれ、俺の名前覚えてないのかな? うん。大丈夫。気を遣わないで。俺もあなたのこと覚えてないし。
「2学期に入ったのにまだ名前覚えられてないってやばすぎじゃないか」
「それだけ目立った行動をしていないということだ」
「いや、燎太の場合はもう少し目立った方がいいぞ」
今度はクラスの店番をしていると何やらキャーキャー言われながら2人がやって来た。
「燎太、晟斗おつかれ~」
「おつかれ」
それは、ファッションショーを終えた桧倉と加西だった。
「そっちもお疲れ」
「ねぇ、ねぇ、どう? 結優、チョーかわいいでしょ!」
「うん。最初本当に女子かと思った。燎太なんてずっと見てたぞ」
「そ、そうなの? へ、変だった?」
おい、変なこと言うなよ! そして、そんな心配しなくても十分加西かわいかったですよ。
「待って。燎太ってもしかして……」
「いや、桧倉、違うからな!」
「え、何?」
「結優、知らなくていいぞ」
そして、2人はファッションショーの投票集めのためにまた校内を回って行った。と思ったら今度は面倒くさい奴がやって来た。
「あっ! おにーちゃん!」
「なんでお前ここにいんだよ」
俺は目で「あっちいけ」と訴えたが
「え、燎太の妹!?」
「はい! 妹の
「あ、こちらこそ」
お前俺の母さんかよ。
「ところでお兄ちゃん、何してるの?」
「何してるって、店番だよ」
「お兄ちゃんの仕事これだけ?」
「俺は裏方なんだよ。この後エンディングの準備もある」
「ふーん。そうなんだ」
なんでそんなに納得してないような顔してんだよ。
「まぁ、お兄ちゃん頑張ってね~」
「文化祭、楽しんでね」
「はい。ありがとうございます」
そう言うと紘夏はほかのクラスの企画を見に行った。
***
クラスの店番が終わり、少し自由な時間ができた。でも、1時間後にはエンディングの準備がある。
「燎太、まだご飯食べてないから食べに行かないか」
「いつもの奴らのとこ行って来いよ」
「いや、どうせエンディングの準備がすぐあるからさ」
「そうか」
新島と昼ご飯を買おうとバザーのところに行こうとしていたら、加西と桧倉が屋上に上がっていく姿が見えた。
「あいつら今日は屋上立ち入り禁止じゃないか?」
新島にもあの2人の姿が見えていたみたいだ。
「さぼりに行くんじゃねーの。さぼるのにはいい場所だろ」
「あいつらはお前とは違うからそうのじゃねーだろ」
俺はそうだと言いたいんですね! まぁ、正解だけど。
俺たちは2人が気になったが、時間もないので昼ご飯を買いに行った。
***
2人でご飯を食べていると、委員長がやってきた。
「ねぇ、陣内さん知らない?」
「知りませんよ」
「そういえば、陣内、オープニング終わってから見てないな」
「ちょっと修正部分ができたから伝えたいんだよね」
「電話してみるか」
俺は数少ない連絡先から陣内に電話した。しかし、陣内は電話に出なかった。
「早く手分けして探そう。みんなにも聞いてみるから」
新島は手当たり次第友達に連絡を取りながら探し出した。
「じゃあ、私たちも探しましょう!」
俺は委員長と別れて陣内を探し回った。各教室や企画をしているところに行ったが陣内は見当たらなかった。
もう少しでエンディングの準備の時間になる。あと、陣内が行きそうなところはどこだ。陣内が立ち入り禁止の屋上に行くとは思えない。文化祭中に立ち入りが許可されてかつ陣内がいそうなところ。もしかして――
***
俺が駆け付けた先に陣内はいた。
「やっぱ、無理してたんじゃねーか」
「無理なんかしてないわよ」
「じゃあ、なんで保健室にいるんだよ」
「少し、休んでただけよ。今から戻るわ」
そう言いながらベッドから立ち上がると陣内はよろけた。
「危ない!」
俺はとっさに陣内を受け止めた。
「大丈夫よ。このくらい」
「陣内、もう休んどけよ。あとは俺たちでやるから」
「でも、みんなに負担がかかるわ」
「陣内が今行って倒れられる方が迷惑だ」
俺は陣内を保健室に残してエンディングの準備に向かった。
***
いろいろあったが、無事にエンディングを終えた。片づけをしているところに保健室で休んでいた陣内がやって来た。
「陣内さん! 大丈夫?」
「はい。ご迷惑おかけして申し訳ございませんでした」
「ううん。私たちも陣内さんにたくさん負担かけてごめんなさい。陣内さんだけじゃなくて、帰宅部のみんなもたくさん協力してもらって、本当にありがとう」
「結構楽しかったし、いいですよ!」
「まぁ、俺たち、これが活動内容みたいなもんだしな」
桧倉と新島が笑いながら言った。
「委員長、私も手伝います」
「んー、じゃあ、桧倉さんと一緒に会場展示の片づけお願いね」
「はい」
陣内は桧倉のところに行き片づけを始めた。
「ここは私たちでやるから、男子たちは外の方をお願いしていい?」
「わかりました」
俺たち3人は外に向かった。その時、新島が加西にあのことを聞き出した。
「あのさ。結優と桧倉が屋上に行くところ見たんだけど、何してたの?」
「え! あ、見られてたのか……」
ハハハ。とごまかすような笑顔を見せた加西は気まずそうにしていた。
「いや、別に立ち入り禁止のところに行ったのを責めるつもりじゃないから」
「うん」
「ただ……。少し気になっただけってゆーか。な!」
と新島が急に俺に振ってきた。
いや、俺に振られても困る。が、確かに少し気になる。
「加西が話したくなきゃ話さなくていいんだぞ」
「うん」
返事をしてから加西は何かを言う気配はなかった。やはり、言いたくないのだろうか。
「あ、あのね。ぼ、僕、桧倉さんのこと好きだったんだ」
「え!」
あまりの突然の告白に新島は周りから注目を浴びるほどの声を上げた。
俺も正直驚いた。加西って桧倉みたいなのがタイプだったのか。
「でも、振られちゃった……」
加西は下手くそな作り笑いを見せた。やはり、ショックなのだろう。
「ごめん。言いたくないこと無理やり言わせて」
「ううん。僕、隠し事するの苦手だから言えて楽になったよ」
「そっか。でも、結優って意外と勇気あるんだな。告白なんてできないタイプだと思ってた」
「僕も初めて告白したよ。とても緊張した~」
その時のことを思い出したのか加西は少し顔が赤くなった。
「桧倉さんってさ、クラスでは中心メンバーにいて僕とは別世界だと思ってたけど、同じ部活に入ってから話しかけてくれてとても優しくて、今回一緒に文化祭の準備しててもっと好きになったんだよね」
「本気で好きだったんだな。結優」
「うん。でも、やっぱり僕は友達にしか見えないんだって。だけど、桧倉さん、これからも友達でいようって言ってくれたから変に気を遣わないでね」
「わかった」
加西は桧倉の内面をよく見ていた。確かに、スクールカースト上位者は下位者から見ると恐れ多い。しかし、桧倉はみんなに同じように優しく振る舞い、カーストの差を感じさせなかった。カーストにとらわれすぎるのもよくないのかもしれない。まぁ、俺はそのカーストにすら入れない存在だが。名前、憶えられてないし……。
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